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3 森でした
3日目 昼
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次に目を覚ますと、寝るときには窮屈なくらいに近かったルーシェがいない。栞里は寝返りをごろごろとうちながら、ベッドの上に自分以外がいないのを確認した。
そうして、視線を感じて目を向けると、離れたソファの上にノインがいて、こちらに呆れたような目を向けていた。
「ノイン、おはよう」
「ああ。ゆっくり眠っていたな」
あんな変な時間…何時か知らないけど、に起こしたのは誰だと言う視線を向ければ、気にする様子もなく窓の外に目を向けるノインにつられて目をやる。確かに、だいぶ日が高いようだ。
「起きたら食事をと言われているが。すぐに食べるか?」
「今、どのくらいの時間なの?」
「もう少しすれば昼どきだな」
それなら、考えることもない。
「昼に、ルーシェやノインと一緒にご飯食べる」
「!?」
なぜか驚いたように毛を逆立てる様子を見て、栞里は首を傾げた。
「あのハイエルフと食事など…恐ろしいことを言うな」
心底嫌そうに拒絶され、栞里は眉を下げた。
広すぎるベッドから降りるのにようやく動き出しながら、あの位置から近づいてこないノインを見て栞里は不思議そうに問いかける。
「ノインは、なんでそこからこっちにこないの?」
「ハイエルフが、来るなと言うからな」
「言うこと、聞くのね」
「我が身は可愛いからな」
どう言うことだ、と突っ込んで聞きたいような聞きたくないような。
動きを止めてまじまじと見つめる栞里に、ノインは狐の顔でもわかりやすくにやりと笑った。
「安心しろ。お前が逆らったり口答えしたりするのは、面白いようだからな。消されはせん」
「こっわっ」
そんなやりとりをした栞里が昼食どき、部屋に戻ってきたルーシェに少しびくついてしまったことは、仕方ないことだろう。
待っていたのか、と嬉しげに笑んで近づいたルーシェは、覗き込んで栞里の微妙な表情に顔を曇らせる。
危ないから離れるな、と言った張本人が置き去りにして離れたと機嫌を損ねているのかと思ったのだが。
それを口にすると、すっかり忘れていた様子で栞里はああ、とぼんやりと呟くだけだ。忘れていることに顔をしかめるが、とりあえずそのまま説明をする。
「この建物は森の中でさらに結界が張ってある。無視して入ってくる非常識なのは、精霊共くらいで、破って侵入してくるような輩はそこにいるからな。それに、わたしの結界の中であれば何かあればすぐにわかる」
「やから…」
この話の流れだとノインのことだろうな、と目を向ける。可愛いころころした真っ白い毛玉。さっきまでは触らせてもらっていたのだが、不意に離れてしまったと思うとルーシェが戻ってきた。本気で、ルーシェを警戒している。
「そんな形に騙されるな。それは、本来なら厄介な妖魔だ。わたしに討伐依頼が来るほどに」
「とうばつ」
「妖魔は基本的に、害を成すからな。まあ…そいつがそんな人畜無害な状態だから放っておくが」
「お前なら、様子が変わればすぐに消せるからな」
ふん、とノインが口を挟むと、なるほど、と頭の回転の早すぎるエルフは目を細めてノインを見据えた。怖気がたつが、そこは堪えて見返す。
「お前が余計なことを吹き込んだか。様子がおかしいと思えば」
「事実だ」
その通りだ、と応じながらルーシェは手を伸ばして栞里の髪を撫でた。リアもフローも今日はまだここには来ていないらしく、おろしたままの髪を長い指先で弄ぶ。
「わたしがいない間、ないとはいえ万が一もあるからとそこにいることを許した。お前に折伏されたわけでもないだろうが…お前を守る以上は、躾程度にしておくつもりだ」
「ルーシェの、躾、も十分怖そうだけど。それに、そうでなければ」
「必要であれば、消す。ここは、そういう土地だ。獣人公爵も、手負いではなかったか?」
「…怪我なんてしてなかったよ。していたはずみたいな、ことは言っていたけど」
当たり前、の基準が違い、頭ではわかっても感情がついていかない。話だけでこれでは、実際目にしたらどんな反応をすることになるのか、自分でもわからない。
そんなことを思っていると、いい香りと一緒にリアとフローが入ってきた。柔らかい口調で、フローがルーシェとノインを責める。
「お食事をと言いながら、何を物騒な話をして脅かしているの?ルシエール様、シオリが食事も喉を通らなくなったら、わたし達が預かるわよ?」
「いらん世話だ」
「誰のせいかしら」
「フロー、きっと、知っていた方がいいことだから。大丈夫」
「…必要が生じた時で良いこともある。大体食事時にする話ではないです」
リアにも言われて、ルーシェはため息をつきながら栞里をテーブルへ誘った。今日は、ちゃんと自分で座って食べる、と栞里がいう前に、きちんと椅子を進めてくれる。
「すべてを知らせず、囲い込んで守るのも良いが。お前はそうではないだろう。ならば、知識として頭に入れておいた方が衝撃は僅かでも減らせるかも知れないと思ったが。確かに、今ではなかったな」
すまん、と聞こえそうなルーシェの手に、栞里は笑って首を振る。謝られることではない。
それに、話の原因を作ったのはノインで、ノインの方もしゅんとしている。恐ろしい妖魔だと言われても、一向にその片鱗すら見えないのだけれど。
「お昼を食べたら、ルーシェについていってもいい?」
「もちろんだ」
笑顔で人が殺せるかも知れない、と、反射的に栞里は目を逸らした。
そうして、視線を感じて目を向けると、離れたソファの上にノインがいて、こちらに呆れたような目を向けていた。
「ノイン、おはよう」
「ああ。ゆっくり眠っていたな」
あんな変な時間…何時か知らないけど、に起こしたのは誰だと言う視線を向ければ、気にする様子もなく窓の外に目を向けるノインにつられて目をやる。確かに、だいぶ日が高いようだ。
「起きたら食事をと言われているが。すぐに食べるか?」
「今、どのくらいの時間なの?」
「もう少しすれば昼どきだな」
それなら、考えることもない。
「昼に、ルーシェやノインと一緒にご飯食べる」
「!?」
なぜか驚いたように毛を逆立てる様子を見て、栞里は首を傾げた。
「あのハイエルフと食事など…恐ろしいことを言うな」
心底嫌そうに拒絶され、栞里は眉を下げた。
広すぎるベッドから降りるのにようやく動き出しながら、あの位置から近づいてこないノインを見て栞里は不思議そうに問いかける。
「ノインは、なんでそこからこっちにこないの?」
「ハイエルフが、来るなと言うからな」
「言うこと、聞くのね」
「我が身は可愛いからな」
どう言うことだ、と突っ込んで聞きたいような聞きたくないような。
動きを止めてまじまじと見つめる栞里に、ノインは狐の顔でもわかりやすくにやりと笑った。
「安心しろ。お前が逆らったり口答えしたりするのは、面白いようだからな。消されはせん」
「こっわっ」
そんなやりとりをした栞里が昼食どき、部屋に戻ってきたルーシェに少しびくついてしまったことは、仕方ないことだろう。
待っていたのか、と嬉しげに笑んで近づいたルーシェは、覗き込んで栞里の微妙な表情に顔を曇らせる。
危ないから離れるな、と言った張本人が置き去りにして離れたと機嫌を損ねているのかと思ったのだが。
それを口にすると、すっかり忘れていた様子で栞里はああ、とぼんやりと呟くだけだ。忘れていることに顔をしかめるが、とりあえずそのまま説明をする。
「この建物は森の中でさらに結界が張ってある。無視して入ってくる非常識なのは、精霊共くらいで、破って侵入してくるような輩はそこにいるからな。それに、わたしの結界の中であれば何かあればすぐにわかる」
「やから…」
この話の流れだとノインのことだろうな、と目を向ける。可愛いころころした真っ白い毛玉。さっきまでは触らせてもらっていたのだが、不意に離れてしまったと思うとルーシェが戻ってきた。本気で、ルーシェを警戒している。
「そんな形に騙されるな。それは、本来なら厄介な妖魔だ。わたしに討伐依頼が来るほどに」
「とうばつ」
「妖魔は基本的に、害を成すからな。まあ…そいつがそんな人畜無害な状態だから放っておくが」
「お前なら、様子が変わればすぐに消せるからな」
ふん、とノインが口を挟むと、なるほど、と頭の回転の早すぎるエルフは目を細めてノインを見据えた。怖気がたつが、そこは堪えて見返す。
「お前が余計なことを吹き込んだか。様子がおかしいと思えば」
「事実だ」
その通りだ、と応じながらルーシェは手を伸ばして栞里の髪を撫でた。リアもフローも今日はまだここには来ていないらしく、おろしたままの髪を長い指先で弄ぶ。
「わたしがいない間、ないとはいえ万が一もあるからとそこにいることを許した。お前に折伏されたわけでもないだろうが…お前を守る以上は、躾程度にしておくつもりだ」
「ルーシェの、躾、も十分怖そうだけど。それに、そうでなければ」
「必要であれば、消す。ここは、そういう土地だ。獣人公爵も、手負いではなかったか?」
「…怪我なんてしてなかったよ。していたはずみたいな、ことは言っていたけど」
当たり前、の基準が違い、頭ではわかっても感情がついていかない。話だけでこれでは、実際目にしたらどんな反応をすることになるのか、自分でもわからない。
そんなことを思っていると、いい香りと一緒にリアとフローが入ってきた。柔らかい口調で、フローがルーシェとノインを責める。
「お食事をと言いながら、何を物騒な話をして脅かしているの?ルシエール様、シオリが食事も喉を通らなくなったら、わたし達が預かるわよ?」
「いらん世話だ」
「誰のせいかしら」
「フロー、きっと、知っていた方がいいことだから。大丈夫」
「…必要が生じた時で良いこともある。大体食事時にする話ではないです」
リアにも言われて、ルーシェはため息をつきながら栞里をテーブルへ誘った。今日は、ちゃんと自分で座って食べる、と栞里がいう前に、きちんと椅子を進めてくれる。
「すべてを知らせず、囲い込んで守るのも良いが。お前はそうではないだろう。ならば、知識として頭に入れておいた方が衝撃は僅かでも減らせるかも知れないと思ったが。確かに、今ではなかったな」
すまん、と聞こえそうなルーシェの手に、栞里は笑って首を振る。謝られることではない。
それに、話の原因を作ったのはノインで、ノインの方もしゅんとしている。恐ろしい妖魔だと言われても、一向にその片鱗すら見えないのだけれど。
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