10 / 14
第2章
第10話 崩壊の予兆
しおりを挟む
——————二〇〇七年、七月。
夏休みも近くなり、窓の外にはジリジリと太陽が照りつけている。
入学した頃、サークルの活動時間には、もう外が夕暮れに差し掛かっていたが、今日は放課後の教室にも容赦なく陽射しが差し込み、冷房の効きを悪くしていた。
先日、学生の自治組織である学友会から、秋の学園祭の日程が発表された。それによると、夏休み明けから準備していては、参加申請等が間に合わないので、各サークルとも夏休み前から準備を始めるのだそうだ。
「では、学園祭への参加は、例年通り会誌の発行のみということでいこうか。各員、夏休み中に二千文字くらいの簡単なものでいいので、会誌に寄稿する文書を作ってきてください。テーマは任せます」
史究会でも参加内容について話し合いが行われたが、いつもの通りこれといった意見も出ない。結局、昨年の内容と同じく会誌の配布のみということで、会長の佐伯が決定を下した。
「本当に毎年パッとしないね。会誌なんか作っても、誰も読まんだろうに」
野間が相変わらずの口調で決定した内容を批判する。
「野間さん。士気を下げるようなことを言うのはやめて欲しいものだね。あなたは、提案はしないのに批判ばかりだ。嫌なら退会してもいいんですよ」
珍しく副会長の久我が激しく野間を攻めている。野間の嫌味は毎度のことではあるが、そろそろ我慢も限界が近いのだろう。
「私だって、こんな非生産的なものに参加したくないがね。……ただ、あの部室を使えなくなるのは困るからね」
一瞬、場が静まり返る。
「まあまあ、二人とも。久我も言い過ぎだぞ。野間さんも他の会員を刺激するようなこと言わないでくださいよ」
会長の佐伯が間に入ったが、一触即発の雰囲気は変わらない。四月にこのサークルに所属してから、野間に関連した人間関係はどんどん悪くなっている気がする。
僕に対しては、どの先輩も優しいのだが、三年生同士はかなり険悪だ。部室はありがたいけど、この感じは本当にやめてほしいなと思っている。
「とにかく、学祭は参加しないとサークルとしての存続が認められないので、会誌だけでも参加はしないといけないんです。だから、みんな夏休み中に悪いけど準備してください」
再度、佐伯が会員たちに指示を出し、夏休み前最後の史究会は終わった。
「神原くん、いつも申し訳ない。上級生がこんな状況で気を使うよね。俺がもう少し上手く舵取りできればいいんだけど」
「いえ、大丈夫ですよ。お気になさらないでください」
本当はなんとかしてほしいと思うものの、今更どうにもならないだろう。
悪い人たちではないのだが、明らかに不穏分子の野間を放置していることや、昨年の新入生が一人もいない状況からみて、問題を解決できるとは思えない。
「じゃあ、今日はこれで失礼します。また、夏休み明けによろしくお願いします」
険悪な雰囲気から早く立ち去りたくて、逃げるように挨拶をして教室を出た。
今日まで数ヶ月、大学生として暮らしてきて、以前よりは普通の若者らしく生きられていると思う。
それでも、他人が怒っている場所の雰囲気はどうしても苦手だ。自分がその怒りの対象ではないとわかっていても、その場にいるのがとても嫌な気分になる。
何度か、史究会に顔を出すのをやめようかと思ったこともあった。しかし、僕も部室が使えなくなるのは困るから、会員としての活動はしなければならない。
「まあ、今年いっぱいだろうし」
小さくそう呟いて、自転車にまたがった。
この空気じゃ、来年にはもう解散しているに違いない。誰も新入生を勧誘する気もなかったし、野間もこのまま居座るならいずれ破綻するだろう。最近はそう確信していた。
夏休みも近くなり、窓の外にはジリジリと太陽が照りつけている。
入学した頃、サークルの活動時間には、もう外が夕暮れに差し掛かっていたが、今日は放課後の教室にも容赦なく陽射しが差し込み、冷房の効きを悪くしていた。
先日、学生の自治組織である学友会から、秋の学園祭の日程が発表された。それによると、夏休み明けから準備していては、参加申請等が間に合わないので、各サークルとも夏休み前から準備を始めるのだそうだ。
「では、学園祭への参加は、例年通り会誌の発行のみということでいこうか。各員、夏休み中に二千文字くらいの簡単なものでいいので、会誌に寄稿する文書を作ってきてください。テーマは任せます」
史究会でも参加内容について話し合いが行われたが、いつもの通りこれといった意見も出ない。結局、昨年の内容と同じく会誌の配布のみということで、会長の佐伯が決定を下した。
「本当に毎年パッとしないね。会誌なんか作っても、誰も読まんだろうに」
野間が相変わらずの口調で決定した内容を批判する。
「野間さん。士気を下げるようなことを言うのはやめて欲しいものだね。あなたは、提案はしないのに批判ばかりだ。嫌なら退会してもいいんですよ」
珍しく副会長の久我が激しく野間を攻めている。野間の嫌味は毎度のことではあるが、そろそろ我慢も限界が近いのだろう。
「私だって、こんな非生産的なものに参加したくないがね。……ただ、あの部室を使えなくなるのは困るからね」
一瞬、場が静まり返る。
「まあまあ、二人とも。久我も言い過ぎだぞ。野間さんも他の会員を刺激するようなこと言わないでくださいよ」
会長の佐伯が間に入ったが、一触即発の雰囲気は変わらない。四月にこのサークルに所属してから、野間に関連した人間関係はどんどん悪くなっている気がする。
僕に対しては、どの先輩も優しいのだが、三年生同士はかなり険悪だ。部室はありがたいけど、この感じは本当にやめてほしいなと思っている。
「とにかく、学祭は参加しないとサークルとしての存続が認められないので、会誌だけでも参加はしないといけないんです。だから、みんな夏休み中に悪いけど準備してください」
再度、佐伯が会員たちに指示を出し、夏休み前最後の史究会は終わった。
「神原くん、いつも申し訳ない。上級生がこんな状況で気を使うよね。俺がもう少し上手く舵取りできればいいんだけど」
「いえ、大丈夫ですよ。お気になさらないでください」
本当はなんとかしてほしいと思うものの、今更どうにもならないだろう。
悪い人たちではないのだが、明らかに不穏分子の野間を放置していることや、昨年の新入生が一人もいない状況からみて、問題を解決できるとは思えない。
「じゃあ、今日はこれで失礼します。また、夏休み明けによろしくお願いします」
険悪な雰囲気から早く立ち去りたくて、逃げるように挨拶をして教室を出た。
今日まで数ヶ月、大学生として暮らしてきて、以前よりは普通の若者らしく生きられていると思う。
それでも、他人が怒っている場所の雰囲気はどうしても苦手だ。自分がその怒りの対象ではないとわかっていても、その場にいるのがとても嫌な気分になる。
何度か、史究会に顔を出すのをやめようかと思ったこともあった。しかし、僕も部室が使えなくなるのは困るから、会員としての活動はしなければならない。
「まあ、今年いっぱいだろうし」
小さくそう呟いて、自転車にまたがった。
この空気じゃ、来年にはもう解散しているに違いない。誰も新入生を勧誘する気もなかったし、野間もこのまま居座るならいずれ破綻するだろう。最近はそう確信していた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる