【薬師向けスキルで世界最強!】追放された闘神の息子は、戦闘能力マイナスのゴミスキル《植物王》を究極進化させて史上最強の英雄に成り上がる!

こはるんるん

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4章。ベオウルフ盗賊団

24話。【神喰らう蛇】の暗殺者ロゼ

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 雨となって降り注ぐ短剣に、アチコチから悲鳴が上がる。
 かすり傷程度の怪我で、野盗たちは口から泡を吹いて倒れた。

「なっ!? 毒が塗られているのか!?」

「ご主人様!?」

 俺はコレットを守るべく、彼女の頭上に落ちてくる短剣を【世界樹の剣】で弾き返す。

「ああっ!? みんな!?」

 レイナが周りの惨状に悲鳴を上げた。
 驚いたことにギラギラと輝く毒の刃は、途切れることなく降り注ぎ続ける。

「ご主人様、このままでは……!?」

 コレットが頭上に魔法障壁を張って広域を防御してくれるが、全員をカバーすることはできない。
 このままでは死傷者が大勢出る。一か八かやるしかない。

「【世界樹の剣】よ!」

 俺はスキル【植物王(ドルイドキング)】で、【世界樹の剣】を本来の姿に戻した。
 大地をも引き裂く神域の武器、【神剣ユグドラシル】が俺の手に握られる。封じていた絶大な攻撃力のすべてを解放した。

「【筋力増強(ストレングスブースト)】 【筋力増強(ストレングスブースト)】【筋力増強(ストレングスブースト)】!」

 コレットは俺の意図を察して、筋力アップのバフ魔法を重ねがけしてくれた。
 エルフの王女の魔力は伊達ではない。一時的だが、俺の本来のパワーの半分近くまで、筋力が上昇した。

「ぉおおおおお──ッ!」

 俺は頭上に向かって、渾身の一撃を放つ。すさまじい衝撃波が発生し、天空を埋め尽くした刃がことごとく砕け散った。

「まとめてぶち壊した!?」

「すごい! さすがは、あるじ様!」

 レイナがあ然とし、リルが目を輝かせる。

「な、なななな……! 何、今の!?」

 レイナが俺に詰め寄った。野盗たちは空を見上げてポッカーンと硬直している。

「エルフの至宝【神剣ユグドラシル】の一撃です。ご主人様は世界樹に選ばれ、エルフ王となられるお方なんです!」

 コレットが自慢げに答えて、俺に抱きつく。

「エルフ王ですって!?」

「うぉ!? いや、ちょっと待て! まだ油断するな。怪我人の治療もしなくちゃだろ?」

 俺は赤面して、コレットを引き剥がす。何度も抱きつかれているが、未だこういうことには慣れない。

「そうでした! 怪我をされた方は、私が回復魔法で癒やします! 毒の治療も任せてください」

「リル。敵が近くにいないか探ってくれ。たぶん、魔法か何かで姿を隠しているはずだ」

「うん。わかった、あるじ様!」

 リルが頷いた。
 
「それには及ばん」

 くぐもった声が響く。
 いつの間に現れたのか、俺たちの目の前に顔を頭巾で隠した男が立っていた。
 俺たちに感づかれないままここまで接近するとは、気配を断つ術に長けているようだ。

「お前……まさか【神喰らう蛇】の4番隊の者か?」

 俺は剣を構える。

「いかにも。四番隊のロゼと申す。元一番隊隊長アッシュ殿とお見受けするが。野盗と馴れ合うとは、いかなる了見か?」

 4番隊のロゼ。おそらくAランク以上の冒険者だろうが、聞いたことが無い名前だった。顔を隠していることから、名乗ったのは偽名だろう。
 敵に対して情報を秘匿するのは、戦術の基本だ。

「レイナたちはユーステルム領主お抱えの兵となったんだ。お前こそ、俺の兵を攻撃してどういうつもりだ?」

 俺はユーステルム子爵家の家紋入りの短剣を見せる。俺が領主代理である証だ。

「それにコレットやリルは野盗とは無関係だ。なぜ、まとめて攻撃した?」

 俺が凄むと、ロゼは笑い声を上げた。

「クククッ……なるほどな。しかし、まだ領主と正式に契約を交わした訳ではあるまい? ならそいつらは、まだただの野盗だ。
 【ベオウルフ盗賊団】を壊滅せよ、という依頼を受けた以上、実行せねば我ら【神喰らう蛇】の信用に関わる。野盗を庇い立てする連中も、野盗の仲間とみなす」

 ロゼは懐に手を入れると、何本ものナイフを同時に投げ放った。それは全てレイナを狙ったもので、驚いたことに飛来中に数が2倍に増えた。
 俺はすかず間に入って叩き落とす。

「レイナ! 死角に気をつけろ!」

「ええっ!?」
 
 叫ぶと同時に【植物王(ドルイドキング)】で、レイナの背後に大木を出現させた。

「ぬっ……!?」

 ロゼは驚きに目を見開いた。
 レイナの背後から飛来した短剣は、大木にぶつかって弾かれる。

「え? 何? なにっ!?」

 レイナは何が起こったのか分からず、混乱していた。
 目の前のロゼの身体が突然、溶け崩れたのだ。

「き、消えた……?」

 コレットが息を飲んだ。

「……なるほど。読んでいたか」

 ロゼの声が、ナイフが飛来した方向より響いた。同時に、その場よりロゼが空気から染み出るように出現する。
 今まで俺が相手にしていたのは偽物ということか。

「レイナはエルフに対抗するために手に入れた貴重な戦力だ。ここで潰される訳にはいかないからな」

 ロゼが四番隊の上位者なら、奇襲、騙し討ちは十八番のハズだ。そう考えて、死角に気を払っていて助かった。

「お、おい、コイツ、どこから現れた!?」

 野盗たちが腰を抜かす。

「……4番隊には、【増殖】のスキルを持つ凄腕の人狩りがいると聞いたことがあったが、お前だな?」

 あの空を埋め尽くす短剣は、多分、それじゃないかと思った。短剣を空中で増殖させたのだ。
 気配を断つのが得意なのに、わざわざ姿を見せたのは、奇襲を成功させるためだろう。

「【増殖】のスキルは、自分自身も増やすことができるって、訳だな?」

 分身に注意を引きつけておいて、死角から攻撃する戦法。多分、この男もギルバートと同じ元暗殺者の類だろう。

「戦場で、そこまで冷静な考察できるとは、さすがの一言だな。ギルバート隊長が欲しがる訳だ」

 ロゼは否定も肯定もしなかったが、どうやら俺の推察は当たりのようだ。
 自分自身まで増やせるとは、恐るべきスキルだ。
 もう一人のロゼが消えてしまったことから、時間制限などの制約はあるハズだが……

「レイナ、俺たちの馬車に逃げ込め! 手品のタネはバレてしまったが、どうする? まだ戦うのか?」

 暗殺者は搦め手から攻めるのが主な戦い方だ。それが通用しなかった以上は、逃げるのが鉄則だ。
 だが、たまに奥の手を隠しているヤツもいるので、油断がならない。

「ええ!? でも……」

「いいから、行け!」

 俺からの叱咤で、レイナは慌てて駆け出す。
 ヤツの狙いは、盗賊団の頭のレイナであることは間違いない。ここはレイナを守ることが最優先だ。

「……慎重なことだな。元一番隊隊長殿の実力は存分に見せていただいた。我ひとりで、かなう相手ではない。ここは退くとしよう」

「この野郎! タダで帰れると思うなよ!」

 野盗たちがロゼに襲いかかる。すると、ロゼの身体がまたもや溶け崩れて消えた。
 どうやらこのロゼも偽物だったようだ。

 なるほど。大胆に姿を見せたと思ったが、どこか安全な場所に身を隠し、分身に戦わせていたという訳か。いかにも暗殺者らしい戦い方だ。

 だが……

「リル、さっきのヤツの匂いは覚えたか? 追跡して捕らえてきてくれるか? 人に見られなければ力を解放しても良いからな」

「うん、わかった。任せて、あるじ様!」

 リルが胸を叩いて駆け出していく。
 ロゼのような、いつ襲ってくるかわからないヤツを放置しておくのは危険だ。捕えて、無力化しておく必要がある。
 
「狩りだ! 狩りだぁ!」

 狩猟本能を満足できて、リルは楽しそうだ。
 神獣フェンリルである彼女なら、ひとりでも大丈夫だろう。

「ご主人様、それでは私は怪我をされた方々の治療をしますね!」

「頼む、コレット。俺もエリクサー草を出すとするか。おーい、レイナ! もう出て来て大丈夫だぞ!」

「……って、あんな小さい娘にひとりで追跡なんかさせて大丈夫なの?」

 安堵の息を吐きながら、馬車より出て来たレイナが尋ねた。

「大丈夫だ。リルに勝てるような暗殺者なんていないからな。それよりこのエリクサー草で、怪我人の治療を頼む」

 俺が手をかざすと、大量のエリクサー草が怒涛のように出現した。

「ななななっ!? あ、あんたって非常識すぎるわよ、アッシュ団長! 盗賊をやっているのが、バカらしくなるわね……」

「すげぇ。リンゴだけでなく、貴重品のエリクサー草が、こ、こんなに!?」

「これ売るだけで、どれだけの金になるんだ!?」

 野盗たちは目を丸くしていた。
 エリクサー草は最上級の薬草だ。それなりの高値で取引される。
 だが、毒を消すことはできない。
 コレットが毒消しの魔法で、次々に野盗たちを治療していくと歓声が上がった。

「おおっ! コイツが目を開けたぞ!」

「いや、すげぇぞお嬢ちゃん! 助かった!」

「いえ、目の前で人が死ぬところなんて見たくありませんから……」

 コレットがはにかむ。
 レイナが、その様子に戸惑っていた。

「ま、まさかエルフの王女が、あたしの盗賊団を助けてくれるなんて……」

「あるじ様! リル、捕まえてきたよ! 褒めて褒めて!」

 やがてリルが、ボコボコにしたロゼを引きずって帰ってきた。

「うぉ! もう捕まえて来たのかよ」

「楽しかったよ。なんか増えたけど、ボコボコにしたら、ひとりになった」

 リルが胸を張る。リルにとってはゲーム感覚らしい。

 こうして俺は【ベオウルフ盗賊団】を兵として雇い入れることができた。野盗たちはいなくなり防衛戦力が増えて、狙い通り一石二鳥だな。
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