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第3章。最強の兵団を組織して王都を救う

34話。聖女と皇女、二人の美少女に取り合いされる

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 ふう~っ、なんとかアンジェラに奴隷契約を結ばせることができたな。

 これでアンジェラが破滅する未来は回避できたハズだ。

 アンジェラが尽くしてきた父親に無能呼ばわりされて処刑されるシーンは、ゲームでも屈指のトラウマイベントで、全俺が泣いた。

 だけど、元凶である父親から引き離して、俺の手元に置いてしまえば、もう安心だ。

 もうアンジェラには、罪の無い人間を殺すような悪事には絶対に加担させない。これから真っ当な道を歩ませれば、きっと悪の大幹部に育つことは無いだろう。

「じゃあ、アンジェラ。王国に潜伏しているアトラス帝国の残りの工作員を全員捕らえて、俺の前に連れてきてくれ」

 俺はアンジェラに最初の命令を与えると、今度は捕らえてあるレオン王子からの刺客のところに行くことにした。

 刺客たちの大半は俺に寝返り、奴隷契約を済ませてある。
 俺に協力的な者については生かして使うことにし、昨日の時点で、王国内の各地域に放った。

 未だに【奴隷契約のスクロール】に署名しない強情な者も、アンデッドにされたいのか? と脅せば、首を縦に振るだろう。
 さっそくコイツらを使って、レオン王子に反撃開始とするか……

「カイン! 私の家族を害するような命令がされたと、私は解釈したわ! これで奴隷契約は無効よね!?」

 アンジェラが何を思ったのか、俺の腕にしがみついてきた。

「はあっ?」 
「アトラス帝国の工作員を捕らえろってことは、それを放った皇帝への……お父様への攻撃よ! それと、お母様の居場所を知っているというなら、もったいつけずに今すぐ教えてちょうだい!」
「あ、あのな……お前のは解釈じゃなくて、こじつけと言うんだ。それに俺にはまだやることがあるから、ちょっと待っていてくれ。お母さんのところには必ず連れて行ってやるから」
「ぐぅうううううッ!」

 アンジェラは悔しそうに唇を噛んだ。

「わ、わかったわ。やってやるわよ! くぅうううっ! これで私は完全に帝国の裏切り者だわ! いきなりなんてこと、命令してくれるの!?」

 半泣きに近い状態で、稀代の死霊使いは叫んだ。
 その姿は、年相応の少女にしか見えず微笑ましい。

「それは大丈夫だ。アトラス帝国の工作員は、全員、奴隷契約を結んで解放するから。アンジェラがいきなり裏切り者呼ばわりされることは無いと思うぞ」
「はぁ……? それって、まさか二重スパイを作るつもりなの!?」
「さすが、良く気付いたな。これでアトラス帝国の内情を詳しく知ることができる」

 ゲームでも戦争パートで勝つためには、事前の情報収集が必要だった。
 このためのスパイを作って送り込むことにしたのだ。アトラス帝国の脅威にも、備えておく必要がある。
 
「アトラス帝国に送り込むスパイには、『カイン・シュバルツに謀反の兆し有り。アンジェラ皇女はカインに取り入って、これを手助けするよし』と皇帝に伝えてもらう。これならアンジェラが、すぐに廃嫡されることはないだろう?」

 アンジェラの皇女という身分は、いざという時かなり使えるので、維持しておきたかった。

「ぐぅうううッ! ここまでいくつもの手を同時に打つなんて! あなた、一体どこでこれだけの軍略を学んだの!?」

 さすがにゲームだとは言えないので、黙っておく。
 敵を倒して捕まえて、奴隷にして利用するのが、このゲームの必勝法だ。

 ゆえに、『皇帝より鬼畜な正義の勇者(笑)』と、ネットではネタにされていた。

 その時、アンジェラのお腹の虫が、くぅとかわいらしく鳴いた。
 彼女は耳まで赤面する。

「とりあえず腹が減ったし、一緒にご飯を食べないか? アンジェラの口に合うかはわからないけど、燻製肉とチーズ、硬いパンならあるぞ」
「それは良いわね……って待ちなさい! その前に、私の質問に答えるのよ!」

 アンジェラはがなり立てながら、俺に付いてきた。
 皇女である彼女は、質問すれば必ず答えが返ってくると、思っているらしい。

 傲慢な奴だが、そこがイイ! と思う。

 ゲームでも登場時には大物感を出していたのに、勇者に負けまくって涙目になっているアンジェラが良かった。

「おお、カイン殿、ただい王宮より戻りましたぞ!」

 天幕の外に出ると、朗らかな顔をしたエドワード殿が駆け寄ってきた。

「宰相殿はアンデッド軍団討伐を大変喜ばれ、多大な褒美をくださいました。これはすべて、カイン殿のモノです」

 エドワード殿は俺の前にひざまずいて、背後を見やる。
 すると、金銀財宝を重そうに抱えた兵たちが、続々とやってきた。

「いえ、これはエドワード殿に与えられた褒美なのですから、俺が貰うわけにはいきません。フェルナンド子爵領の発展のために役立ててください」
「なにをおっしゃられますか!? こたびの勝利は、すべてカイン殿のご活躍のおかげです。宰相殿から、私は【不死殺しの英雄】などと讃えられて、なんとも居心地が悪うございました。これは本来なら、カイン殿が受けるべき名誉と褒美ですぞ!」

「俺ひとりで勝ったのではありません。セルヴィアの活躍も目覚ましかったですし、ランスロットやゴードン、シュバルツ兵団のみんな。エドワード殿の援軍にも助けられました。俺たち全員で掴み取った勝利じゃないですか?」

 俺は困り果てて頬をかいた。

 これでセルヴィアは英雄の娘となった。もうセルヴィアを偽聖女などと罵倒する者はいなくなるだろう。
 レオン王子も、救国の英雄であるフェルナンド子爵家には手出ししにくくなったハズだ。

 俺にとっては、それが最大の報酬だな。 

「ご謙遜を! カイン殿が敵総大将のアトラス帝国の皇女を一騎打ちで倒した時は、あまりの興奮で魂が震えましたぞ! これが帝国の奸計(かんけい)であることまで、見抜かれていたとは! このフェルナンド子爵エドワード、感服いたしました!」
「ふんっ。それは、ごあいさつね……」

 アンジェラが、俺の背後から不機嫌そうな顔を見せると、エドワード殿はびっくり仰天した。

「あっ、いや。失礼つかまつりました。あなた様は……ッ!」
「改めまして、私はアンジェラ・アトラス。【死霊騎士団(デスナイツ)】の主にして、アトラス帝国の第三皇女……ですが、今はカイン様を主と仰ぐ者よ。どうぞ、お見知りおきくださいな」

 アンジェラが気品のある所作で一礼する。

「なんと!? で、では、やはりカイン殿はアンジェラ皇女を奴隷に?」
「はい。アンジェラの力は、俺の切り札となりますので。宰相殿には、今回の騒動は自然発生したアンデッド災害であって、アトラス帝国の関与はないとの旨、説明していただけましたか?」
「はっ。それはもちろんでございます!」

 まるで主君に対するかのようにエドワード殿は、うやうやしく返事した。

 アンジェラが俺の陣営に加わったことは、秘密にしておきたかったので、病気の国王に代わって政務を取り仕切っている宰相には嘘の報告をしておいた。

「クスッ。カイン様ほどの殿方に、お前が欲しいと、あれほどまで情熱的に求められては、拒むことなどできませんわ。改めてまして、このアンジェラ・アトラス。カイン・シュバルツ様に身も心も捧げることをお誓いいたしますわ」

 アンジェラは何を思ったのか、甘えるように身体を擦り寄せてきた。
 ちょっ、な、なぜ胸を押し付けようとしてくるんだ? 何を考えて……

「……カイン兄様、どういうことでしょうか?」
「あっ、セルヴィア。いや、これは違うんだ!?」

 セルヴィアが肩を怒らせて歩み寄ってきたのは、その時だった。

「お、おいアンジェラ、仕返しにしてはタチが悪いぞ!」
「俺はアンジェラを幸せにしたいと、そうおっしゃってくださったこと、生涯忘れませんわ。式はいつ、どこであげましょうか?」
「い、いや、待て! 確かに言ったけど、別にプロポーズじゃない!」

 俺はアンジェラを引き剥がそうとするが、彼女は強引にしがみつこうとしてくる。

「ええっ、そうですわよね。私の身体を拘束した上で、アンジェラが欲しい、俺の奴隷になれと、何度も強引に迫られたのですよね?」
「おおっ……」

 周囲から、どよめきが上がった。
 
「ちょ!? お前、なんて人聞きの悪いことを!? 本当のことを話せ!」
「真実ですわ!」

 俺はアンジェラと押し合いへし合いする。

「カイン兄様、私という者がありながら……」

 ボワッと、セルヴィアの周囲に炎が散った。

「兄様の婚約者は、私です! 私たちは、服を脱いで、お互いの身体を洗いっこする程の仲なんですよ!」
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