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第4章。迷いの森のエルフとボス討伐マラソン

54話。リザードマンたちを支配下に入れ、闇の王と呼ばれる

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 よし。暗黒系のレアスキル【黒炎の加護】をゲットできたぞ。
 これで、俺の【黒月の剣】による闇属性ダメージをさらにアップさせることができた。
 
 これは防御系スキルでもあり、発動させるとほぼどんな攻撃も無効化できるので、【デス・ブリンカー】×2を使って生命力(HP)が1になった場合にも役立つ。

 再使用可能時間《クールタイム》が60分と長いので戦闘中一度しか使えない、まさに切り札だ。

「今回、黒竜に勝てたのは、なんといってもソフィーのおかげだ。怖かっただろうに、本当に助かった。ありがとう!」
「い、いえ、そんな……! 私のユニークスキルの使い方を教えてくださったカイン様のおかげです! も、もし、カイン様に出会わなかったら、きっと一生、私は自分はダメな子なんだと思い込んでいたと思います! 本当にありがとうございます!」

 俺が感謝を告げると、ソフィーは恐縮したように、ペコペコ頭を下げた。

「どうかこれからも、よろしくご指導お願いしますカイン様!」

 ソフィーは【転倒】のユニークスキルに特化した一芸タイプのキャラだが、この素直さと努力しようとする姿勢が、何よりも美点だ。

 ゲーム本編でも、天才揃いの勇者パーティに必死に付いて行こうと、涙ぐましい努力をしているエピソードが語られていた。

 俺は改めてソフィーに好感を持った。彼女を追放するなんて、この世界の勇者アベルは狂ってしまっているとしか思えない。

「よし、今後はレベル上げと平行して、デバフ魔法の効果範囲と射程距離を上げるスキルを中心に習得していこう! 使用するデバフ魔法は、効果範囲の広い【ミスト】系が最適だと思う。ピンポイントに対象を狙っていくなら、幻惑系だな」
「は、はい! あの、これからは、お師匠様とお呼びしてもよろしいですか? カイン様の元でなら、私はもっともっと、上を目指せる気がするんです! 私はダメなドジッ娘を返上して生まれ変わりたいんです!」
「お師匠様か……もちろん、良いぞ」
「はい、ありがとうございます! お師匠様!」

 パーティのムードメーカー、底抜けに明るいソフィーがこんなコンプレックスを抱えていたなんて、ちょっと意外だった。
 もしかすると、この世界の勇者アベルに追放されて、すっかり自信を無くしていたのかもな……

「ふぅ。この私が何も役立てないまま終わるなんて……黒竜は予想以上の強さだったわね」 

 アンジェラが、残念そうなため息をついた。

 黒竜との戦いでガウェインなどの【死霊騎士団《デスナイツ》】を使わなかったのは、ドラゴンは物理攻撃に滅法強く、ダメージを与えられないからだ。

 またアンデッドは炎に弱く、ドラゴンブレスが掠めでもしたら、一瞬で滅びてしまう。
 そういった点から【死霊使い】にとって、ドラゴンは相性の悪い相手だ。
 
「いえ、アンジェラ皇女のおかげで助かりました。黒竜の意識が私に向かないように、立ち回って下さいましたよね?」
「ええっ。それがカインの頼みだったから……」
「ありがとうございます。おかげで、私も聖女の力を使うことに集中できました」
「俺からも礼を言わせてくれアンジェラ。セルヴィアを守れたのは、アンジェラのおかけだ」

 すると、アンジェラは照れたように顔を赤らめて、ソッポを向いた。

「そ、そんなに褒められると、ちょ、調子が狂うわね。これくらい当然よ。セルヴィアにもお母様に会わせてもらった恩がある訳だし……!」

 おおっ、冷酷な【死の皇女】のこんなに照れた姿なんて、ゲームじゃ絶対に拝めなかった。眼福だな。
 思わず口元が緩んでしまう。

「セルヴィアも、よくやってくれた。本当にすごかったぞ」
「はい! 兄様から教えていただいた【アルビドゥス・ファイヤー】は確かに強力ですが。それだけに頼っていてはいけないと考えていました。もっと、聖女の力を使いこなせるようにならなければと……お役に立ててなによりです」
 
 セルヴィアは、はにかんだように笑う。

「うん、えらいぞ、えらいぞ」

 愛おしさを込めて、いっぱいセルヴィアの頭を撫でてやる。

「カイン兄様、き、気持ちいいです。もっと、もっと!」
「うぉっ」

 セルヴィアが俺に抱きついて、甘えてきた。
 花のような良い香りが鼻腔をくすぐり、ドギマギしてしまう。

「こ、こうかな……?」
「はい! あぁああっ、カイン兄様と、こうしている時間が一番幸せです」
「……ふぅ。あの、後ろで、いちゃつかれていると、集中できないのだけど?」

 黒竜をアンデッド化しようと、魔法詠唱を始めたアンジェラが俺たちにジト目を向けてきた。

「わ、悪い……」
「……あっ、ごめんなさい」
「お二人は、本当に仲が良いんですね。うらやましいです!」

 ソフィーは屈託の無い笑みを浮かべている。

「ああっ、完成したわ。なんという勇壮さと美しさ。これぞ、アンデッドの最強種【ドラゴンゾンビ】!」

 死んだハズの黒竜が、不気味な光を眼に宿しながら起き上がる。
 息が止まるほど禍々しいオーラが、その巨体から放たれた。

 ゴォオオオオン!
 
 ドラゴンゾンビが復活の雄叫びを上げる。

「きゃあッ!?」
「ひゃあ!? は、迫力満点ですね!?」

 セルヴィアとソフィーが、気圧されて仰け反った。
 俺も味方だと分かっていても、ドラゴンゾンビには恐怖心を抱いてしまう。

 推定レベル75のまさに究極クラスのモンスター。野に放たれれば、国をも滅ぼしかねない不死の怪物だ。

「なんということだ!? 我らが黒竜様が!?」

 その時、ボス部屋に満身創痍のリザードマンが転がり込んで来た。他のリザードマンより、ガタイが良くて、いくつもの輝く装飾品を身に着けている。

「ふんっ……まだ、生き残りがいたの? ちょうど良かったわ。さあ、討ち滅ぼしなさいドラゴンゾンビ!」
「おっ、お、お待ち下さい! 我らの負けです、偉大なる死霊使い様! 我はリザードマンの王リザードマンキング! あなた様に、ぜ、絶対なる忠誠を誓います!」

 リザードマンキングは、恥も外聞もなくその場にひれ伏した。
 アンジェラはゴミでも見るかのような目で、リザードマンキングを見下ろす。

「何を勘違いしているのかしら? 我が主は、こちらにおわすカイン様よ。降伏を申し出ておきながら、拝跪すべき相手を間違えるなんて不快だわ」
「はっ、はひぃいいい!? も、申し訳ありません、カイン様!」

 大慌てでリザードマンの王は、俺に頭を下げた。

「ふふふっ、カイン様、この者の処遇いかがなさいましょうか? ドラゴンゾンビの準備運動の代わりに、後腐れなく殺してアンデッド化させても、よろしいかと存じますわ。この者らは、シュバルツ伯爵家の兵や鉱夫を手に掛けてきましたものね?」
「ひっ、ひぃいいいいッ!」

 アンジェラはいたずら心を催したのか、ボスキャラの貫禄満点で、俺に向かってお辞儀した。

「いや、せっかくリザードマンの王が忠誠を誓うと言ってくれているんだ。許してやろう」

 アンデッド化して従えても良いのだが、ここの変異リザードマンはミスリルを採掘して、武具に加工する技術を持つ。
 それなら、生きたまま支配下に加えた方がメリットが大きかった。

 それに降伏した相手を殺すのは、良心がとがめる。

「はっ、仰せのままに……! 聞いたわね。我らが主、カイン様の寛大なる御心に感謝なさい。これからはその命果てるまで、カイン様に忠誠を尽くすのよ」
「ははっ! リザードマンキングは偉大なる闇の王カイン様に、絶対にして永遠なる忠誠を誓います!」

 ものすごく怯えた様子で、リザードマンキングは地面に頭を擦りつけた。

 闇の王って……
 まあ、ドラゴンゾンビや【死霊騎士団《デスナイツ》】を従えていたら、そう見えるのかもな?

 アンジェラも元々がボスキャラ美少女なので、悪役っぽい立ち振舞いが洗練されているし、見栄えもする。

「わかった。よろしく頼むぞ、リザードマンキング」
「はっ! カイン様の敵は、我らが敵、何者であろうと、打ち倒してご覧に入れましょう」
「それは頼もしいな」

 こうして、ミスリル鉱山最下層に巣食っていた約1000匹のリザードマンが、俺の配下に加わった。

 やや数が少ないのは、半数以上が【死霊騎士団《デスナイツ》】によって倒されてアンデッド化したためだ。
 これで総数2000体もの戦力を新たに得ることができた。
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