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第5章。勇者率いる王国軍を倒す

72話。カインの仲立ちで、帝国と王国が手を結ぶ。真の平和の訪れ

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「皆の者、国王陛下の御前である! 控えおろう!」

 天馬《ペガサス》で国王陛下の後をついてきた宰相が、大声を上げた。

「はっ、はははは!」

 王国軍だけでなく、シュバルツ連合軍も戦いを中断して、片膝をついた。
 俺も片膝をついて、国王陛下に敬意を示す。

「お、おお、お父様!? 不治の病だったのでは!?」

 リディア王女が目を瞬いている。

「おおっ、リディアよ! 実はカイン殿のお抱えの薬師が、妙薬を調合してくれてな。この通り、今ではピンピンしておるぞ!」

 国王陛下は茶目っ気を出して、ウィンクして見せた。

「ち、父上! よ、余が廃嫡の上、追放とはいかなることですかぁ!?」

 間近に降りてきた国王陛下に、レオン王子が取り縋った。

「余に、一体、何の落ち度が!?」
「ふざけるでないレオン! このような内乱を起こして、国を危うくしておきながら、何の落ち度も無いと申すか!?」
「し、しかし、これは聖女セルヴィアを手に入れんがため! 王国の繁栄のためにございます!」

「その聖女殿は、救国の英雄であるカイン殿と深く愛し合っているそうではないか!? それを引き離し、無理やり聖女殿を従わせんとすれば、聖女殿と英雄殿、両方を失うことになるというのが、わからんのかぁあああッ!?」
「ひぃいいい!」

 国王陛下に叱りつけられ、レオン王子は身を縮こまらせた。

「まさか、まさかレオン王子はカイン・シュバルツ殿を逆臣扱いし、いらぬと申すのか? であればカイン殿を、ぜひ帝国にお迎えしたい。聖女殿の伴侶《はんりょ》となればなおさらだ!」
「なぁっ!?」

 皇帝シグルドの弁に、レオン王子は絶句する。
 俺を攻撃すれば、俺が帝国に付く可能性があることに今更ながらに気付いたようだ。

 無論、魔王に魅入られた前皇帝ジークフリートの時代では、その選択肢は無かったのだが……
 今は、完全に話が異なる。

「カイン殿! 今回のレオンめの不始末、お許しいただきたい!」

 国王陛下が俺に対して、深く頭を下げた。

「そして、これからも王国のために、どうか、その力を貸していただきたい! このワシ、たっての願いぞ!」
「はっ、国王陛下。もちろんです。我が忠誠は、陛下に捧げております故に」

 レオン王子が国外追放になるなら、俺としても願ったりだ。
 
「おおっ、なんとありがたい! そなたのような英雄の忠誠を受けられるとは、ワシは世界一の幸せ者であるぞ!」

 国王陛下は俺の手を取って、感激した。

「ガレス、レオンに縄を掛けて拘束せよ。その者は、もはや王家の一員にあらず!」
「はっ!」
「や、やめよガレス!? なぜ王太子たる余が、罪人のごとき仕打ちを受けねばならんのだぁあああッ!?」

 レオン王子はもっとも信頼していた家臣に縄をかけられて、泣き喚いた。

「父上! お慈悲、お慈悲を! 余は、勇者アベルにそそのかされただけです! 余は何も悪く……!」
「逆賊にそそのかされたのだとしたら、なお悪いわ、愚か者が! 命を奪われぬだけありがたいと思え!」
「はぁぐ!」

 父王に厳しく一喝されて、レオン王子は押し黙る。
 一転して、国王陛下は俺に朗らかな顔を向けた。
 
「カイン殿! 勇者を名乗る逆賊から王国を救ってくれたこと、幾重にも礼を申そう! 褒美として、侯爵への陞爵《しょうしゃく》に、領地の加増! いや、もしそなたが望むのであれば、ワシの養子となり、王家の一員となってもらいたのだが、いかがかな!?」
「まあ、素晴らしいですわ、お父様! カイン様が王家の一員となれば、わたくしのお兄様! たとえば、同じベッドで就寝しても、まったく全然、不自然ではありませんね!」
「はぁ!?」

 なぜか、リディア王女が飛び跳ねて喜んでいた。
 いや、そんなことになったら、非常に困るというか、大勢の前で何を言っているんだ、このお姫様は。

「いえ、国王陛下。俺が今回の戦を起こしたのは、婚約者のセルヴィアを守るためです。セルヴィアとの結婚が叶うなら、それ以上に望むモノなどありません」
「なに? なんと無欲な……!」

 国王陛下は感動した様子だった。
 しかし、その目には不安そうな色があった。

 王家の一員になって欲しいというのは、俺がアトラス帝国に取り込まれないようにしたい、ということだろう。
 リディア王女と俺を結婚させるのが無理なら、俺を養子にという訳だ。

 ならば、ここは褒美を願った方が、国王陛下としては、安心だろう。

「ただ、ひとつ欲しいモノがあるとすれば、王国と帝国との永続的な平和です。我がシュバルツ伯爵領は、両国の国境にあります故に」
「な、なんと!?」

 国王陛下とシグルド皇帝が、目を見張った。

「恐れながら国王陛下、今ここでシグルド陛下と同盟を結んでいただけないでしょうか? それが叶うなら、このカイン・シュバルツ、これからも変わらぬ忠誠を国王陛下にお誓いいたします!」
「おおっ!」

 その場に、大きなどよめきが広がった。
 俺の望みはセルヴィアとの平穏で幸福な暮しだ。
 それを手に入れるため、今、ここで両国のトップに手を取り合って欲しかった。

「ハハハハハッ! 抗争を続けてきた両国の仲を結ぶぼうとは!? いやはや、さすがはカイン・シュバルツ殿! まさに稀代の英雄であるな!」

 シグルド皇帝は大笑いした。
 その返答を、俺たちは固唾を呑んで見守る。

「良かろう、父上と違って俺は領土拡大の野心など持たぬ! アルビオン国王殿、今から、我らは盟友となろうぞ!」
「こ、これは願っても無いこと! こちらこそお頼み申す、シグルド陛下!」

 両国のトップはガッチリと手を握り合った。
 その瞬間、戦場に大歓声が轟く。
 内乱だけでなく、両国の暗闘と抗争も終わりを告げたのだ。
 
「できれば同盟の印として、リディア王女を我が妃にお迎えしたいのだが……今、そのようなことを申してはリディア王女に嫌われそうだ。姫の心は、カイン殿にお有りのようだからな」

 シグルドは冗談めかして笑った。

「これはお気遣い感謝します、シグルド様!」

 リディア王女は喜んでいるが、俺としては返答に困る気遣いだ。なので、黙っておく。

「ま、まさか、シグルドお兄様がいらっしゃっている!?」

 そこにドラゴンゾンビに乗ったアンジェラがやって来た。
 シグルドと皇帝親衛隊の姿に、目を白黒させている。

「そこで代わりといってはなんだが、我が妹アンジェラをこれからもカイン殿の側室候補として、おそばに置いてもらうことを許していただこう! よろしいかなカイン殿? いわばアンジェラは両国の架け橋だ」
「えっ、アンジェラ皇女を俺の側室候補にですか?」
「英雄色を好むという。せいぜい我が妹を愛でてくれれば幸いだ」

 これはさすがに俺から同盟を申し込んだために、断りづらかった。両国の架け橋とまで言われてしまうとな……

「はっ。しかし、俺は側室など持つことは生涯ありません。それでもよろしければ、これからもアンジェラ皇女には、俺の友としてシュバルツ伯爵家に滞在していただきたいと思います」
「ふむ、そうか。これは手強そうだ。よし、帝国の繁栄のためにも励むのだぞ、アンジェラ! カイン殿の寵愛を得られれば、値千金だ!」
「えっ、シグルドお兄様、な、何を? 話が見えないのですが……? で、でもカインの側室になれというご命令でしたら、喜んで……!」

 アンジェラは顔を真っ赤にして頷いた。

「むっ! それでしたら、わたくしもカイン様の側室候補として、おそばに置かせていただきたいです!」
「えっ、ちょっと何を言っているんですか、リディア王女!?」 

 リディア王女が俺の腕を取ってきたので、慌てて離れる。
 両国の姫が側室候補として近くにいるなんて、冗談ではない。
 というか、王家の姫君を側室にするなんて、できるのか?

「おおっ、これは良いことであるな! カイン殿のおそばにいれば、リディアも世継ぎとして、より一層成長しよう! カイン殿、しばらくリディアをそばに置いて、勉強させてやってはくれぬか?」
「国王陛下、リディア王女は俺の側室候補になるなどと、おっしゃっているのですが!?」
「うむ。もし、リディアとカイン殿の間に子が生まれたら、次代の国王として大切に育てようぞ!」
「まあ、それは素敵ですね、お父様!」
「はぁ!?」

 なにか、トンデモナイ爆弾発言が飛び出した。
 国王陛下はあくまで俺を、王国にガッチリ留めておきたいようだ。

「なるほど、宣戦布告という訳だなアルビオン国王よ。おもしろい! 我が妹アンジェラは、エルフの血を受け継いだ稀代の美少女。たやすく勝てるとは思わぬことだ!」

 シグルドが真剣な眼差しで、アンジェラに命じた。

「アンジェラよ、必ずカイン殿の寵愛を独占するのだ! アトラス帝国の皇族に敗北の2文字は無い!」
「は、はい、シグルドお兄様!」

 い、一体、二大強国間で、なんの勝負が始まっているんだ?
 これはセルヴィアに誤解されないように、一層気をつけていかなくちゃだな。

「ハハハハハッ! では即位式もまだなのでな、俺はこれにて失礼する! 正式な同盟締結の書状は、後日お送りするとしよう!」

 シグルドは陽気に笑うと、皇帝親衛隊を引き連れて嵐のように去っていった。
 こうして、この内乱は俺たちの大勝利で幕を閉じたのだった。
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