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2章。バフ・マスター、Lv5覚醒
25話。バフ・マスター、敵国の王女からダンスを申し込まれる
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「アベル殿! そのような問答は不要です。一連の事件の裏にフォルガナがいることは、明白!」
「さよう! のこのこ、ひとりでやって来たフォルガナの王女を捕らえ、人質として利用すべきです!」
大柄な武官たちが武器を手にして、アンジェラに詰め寄った。
バフ・マスターの強化を受けて、力に酔いしれているのかも知れない。
「えっ、お待ちを! 祝いの使者に剣を向けるのは……!」
下手をすれば、戦争の口実にされる恐れもある。
僕は慌てて武官らを制止しようとしたが、彼らのひとりが構わずアンジェラに掴みかかった。
「あら。乱暴なのね。それでも紳士?」
「ぬぁっ!?」
アンジェラの影が、ぬっと盛り上がり、黒い騎士の姿となる。武官は黒い騎士に殴り飛ばされ、料理の盛られたテーブルに突っ込んだ。
貴族の女性たちの悲鳴が響く。
「バフ・マスターで強化された武人を、片手で!?」
ティファが目を見張った。
「紹介するわ。彼は私を守る史上最強の騎士ゼファーよ。どうかしら? リディア王女。あなたのナイトも素敵だけど、私のナイトに勝るかしら?」
「な、何よ。そんな奴、アベルの方が強くて、カッコいいもん!」
リディアが、アンジェラを睨み返す。
「クスッ、かわいらしい。恋する乙女は盲目なのね。でも残念。ゼファーに剣でかなう者はいないわ」
ゼファーは、それ程の強者なのか?
油断なく観察すれば、そのスキのない佇まいは僕の父上に似てる気がした。
たが、何者であるかは、顔を隠す兜のためにわからない。
「アンジェラ王女。こちらの非礼はお詫びします。その上で、先ほどの質問にお答えいただきたいのですが?」
「フォルガナが一連の事件の黒幕というお話?」
アンジェラは、可笑しそうに微笑む。
「ええ。そうよ。ご推察の通り。リディア王女を狙ったのは【聖女】のスキルが、私の天敵となりうるから、早々にご退場いただきたくて」
「……祝いの使者じゃなくて、宣戦布告の使者だったのか」
完全にこちらを侮った態度だった。
アンジェラは会場全体から浴びせられる敵意を涼しい顔で受け流す。
「キミは【死霊使い(ネクロマンサー)】だな? いざとなったら、この会場の人間を殺してアンデッドにして逃げるつもりなのか?」
会場の人々への警告も兼ねて、僕は尋ねた。
アンジェラの使う魔法については、【聖女】を天敵と言ったことからも察しがつく。
どうやら、隠すつもりはないらしい。
【不死者の暴走(アンデッド・スタンピード)】を引き起こしたのはこの娘だ。
黒衣の騎士ゼファーは、先ほどから彫像のように一言も話さない。
たぶん彼はアンデッドだろう。およそ生気が感じられなかった。
「ご名答。私は【死霊使い(ネクロマンサー)】よ。以後、お見知りおきを」
「【死霊使い(ネクロマンサー)】?」
「我らを殺してアンデッドにするだと!?」
会場の貴族たちから、息を飲む声が聞こえてくる。
彼らの顔には、恐怖がありありと浮かんでいた。
「ご安心なさって。初めに申し上げた通り、今夜はお祝いに参りましたの。あなた方が私に危害を加えないなら、私も何もいたしませんわ」
「それは助かる。じゃあ、来て早々に悪いんだけど帰ってもらえないかな? 今夜は身内だけで楽しみたいんだ」
「つれないお方。私のダンスのお相手は、してはくださらない?」
「……ダメ。絶対にダメです。アベル様!」
「言われなくてもわかっているよ、ティファ」
相手に触れて発動する類いの魔法もある。こんな危険な相手と踊るなど、絶対に有り得ない。
「そう。残念だわ」
アンジェラは、ドレスの裾を摘んで一礼した。
「それでは最後に、次期国王陛下アベル様。我がフォルガナの属国となって、くださいませんか? もう私たちの力の強大さは十分にご理解されたでしょう?
アーデルハイドの民たちも、死ぬより奴隷となる方が幸せだと思いますわ」
「さよう! のこのこ、ひとりでやって来たフォルガナの王女を捕らえ、人質として利用すべきです!」
大柄な武官たちが武器を手にして、アンジェラに詰め寄った。
バフ・マスターの強化を受けて、力に酔いしれているのかも知れない。
「えっ、お待ちを! 祝いの使者に剣を向けるのは……!」
下手をすれば、戦争の口実にされる恐れもある。
僕は慌てて武官らを制止しようとしたが、彼らのひとりが構わずアンジェラに掴みかかった。
「あら。乱暴なのね。それでも紳士?」
「ぬぁっ!?」
アンジェラの影が、ぬっと盛り上がり、黒い騎士の姿となる。武官は黒い騎士に殴り飛ばされ、料理の盛られたテーブルに突っ込んだ。
貴族の女性たちの悲鳴が響く。
「バフ・マスターで強化された武人を、片手で!?」
ティファが目を見張った。
「紹介するわ。彼は私を守る史上最強の騎士ゼファーよ。どうかしら? リディア王女。あなたのナイトも素敵だけど、私のナイトに勝るかしら?」
「な、何よ。そんな奴、アベルの方が強くて、カッコいいもん!」
リディアが、アンジェラを睨み返す。
「クスッ、かわいらしい。恋する乙女は盲目なのね。でも残念。ゼファーに剣でかなう者はいないわ」
ゼファーは、それ程の強者なのか?
油断なく観察すれば、そのスキのない佇まいは僕の父上に似てる気がした。
たが、何者であるかは、顔を隠す兜のためにわからない。
「アンジェラ王女。こちらの非礼はお詫びします。その上で、先ほどの質問にお答えいただきたいのですが?」
「フォルガナが一連の事件の黒幕というお話?」
アンジェラは、可笑しそうに微笑む。
「ええ。そうよ。ご推察の通り。リディア王女を狙ったのは【聖女】のスキルが、私の天敵となりうるから、早々にご退場いただきたくて」
「……祝いの使者じゃなくて、宣戦布告の使者だったのか」
完全にこちらを侮った態度だった。
アンジェラは会場全体から浴びせられる敵意を涼しい顔で受け流す。
「キミは【死霊使い(ネクロマンサー)】だな? いざとなったら、この会場の人間を殺してアンデッドにして逃げるつもりなのか?」
会場の人々への警告も兼ねて、僕は尋ねた。
アンジェラの使う魔法については、【聖女】を天敵と言ったことからも察しがつく。
どうやら、隠すつもりはないらしい。
【不死者の暴走(アンデッド・スタンピード)】を引き起こしたのはこの娘だ。
黒衣の騎士ゼファーは、先ほどから彫像のように一言も話さない。
たぶん彼はアンデッドだろう。およそ生気が感じられなかった。
「ご名答。私は【死霊使い(ネクロマンサー)】よ。以後、お見知りおきを」
「【死霊使い(ネクロマンサー)】?」
「我らを殺してアンデッドにするだと!?」
会場の貴族たちから、息を飲む声が聞こえてくる。
彼らの顔には、恐怖がありありと浮かんでいた。
「ご安心なさって。初めに申し上げた通り、今夜はお祝いに参りましたの。あなた方が私に危害を加えないなら、私も何もいたしませんわ」
「それは助かる。じゃあ、来て早々に悪いんだけど帰ってもらえないかな? 今夜は身内だけで楽しみたいんだ」
「つれないお方。私のダンスのお相手は、してはくださらない?」
「……ダメ。絶対にダメです。アベル様!」
「言われなくてもわかっているよ、ティファ」
相手に触れて発動する類いの魔法もある。こんな危険な相手と踊るなど、絶対に有り得ない。
「そう。残念だわ」
アンジェラは、ドレスの裾を摘んで一礼した。
「それでは最後に、次期国王陛下アベル様。我がフォルガナの属国となって、くださいませんか? もう私たちの力の強大さは十分にご理解されたでしょう?
アーデルハイドの民たちも、死ぬより奴隷となる方が幸せだと思いますわ」
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