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4章。限界突破の外れスキル《バフ・マスター》で世界最強

69話。エピローグ

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「アベル団長、剣に魔法がうまく付与(エンチャント)できません。教えていただけないでしょうか?」

 ルーンナイツの練兵場で、小首を傾げた少女騎士が可愛らしくお願いしてきた。

「ええっと、それは……たぶん、余計な力が肩にかかっているじゃないかな? 肩の力を抜いてリラックスして」

「こ、こんな感じですか?」

「いや、まだ固い」

 僕が少女の肩を軽く叩くと、彼女は顔を赤らめてモジモジした感じになった。

「きゃあ! ズッルイ! アベル団長っ! 私、剣の振り方がなにかちょっと変で、手を取って教えて下さい!」

「私も! 私も! お願いしますっ!」

 周囲の女の子たちが、一斉に僕に指導を求めてくる。
 今は魔法剣の訓練の真っ最中だった。

 この2ヶ月、ティファに魔法剣をみっちり教えてもらったおかげで、僕は指導役に回れるようになっていた。

「わかった。えっと、キミの場合はっ……」

「あん! もっと密着して、ご指導願います!」

 手を取って教えてあげると、少女は瞳を潤ませて荒い息を吐く。

 うんっ……? なにか変な感じだな。

「アベル様! 女性の身体にみだりに触れてはいけません! 指導なら私が!」

 ティファが飛んできて、僕を少女から引き離した。

「え? ティファはいつも僕の身体にペタペタ手を触れながら教えてくれるから、そういうモノだと思っていたんだけど……?」

 周囲の女の子たちが、一斉にジト目でティファを見た。

「わっ、わ、私の場合は……っ!
女性から男性へのボディタッチは良いんです! 特に訓練以外の意図とかは、な、無いんですからね!」

「いや、それはわかるが……」

「それならアベル団長! 私はもっとボディタッチ多めでご指導いただきたいです!」

「私も! これを夢見てルーンナイツに入ったんですから!」

「私はもっともっと、アベル様に厳しく指導されたいです! できればマンツーマンで!」

 女の子たちは、口々に僕の指導方法を肯定する。

「あ、あなたたち! 不潔よ! アベル様のお身体に触れようなんて。大事な訓練を何だと思っているの!?」

「ティファ副団長こそ、職権を乱用してアベル団長を独り占めしようとしないで下さい!」

「そうですよ! 夜にふたりきっりで、魔法剣の修行なんかしちゃって! うらやまし過ぎます!」

「わ、私は亡きシグルド様のご意志を継いで、アベル様に魔法剣を極めていただこうと……決して不純な気持ちからではっ!」

 ティファはムキになって反論する。

「ティファの指導はすごくありがたいよ。今夜もふたりでがんばろうな」

「今夜もふたりでがんばる……! は、はい! ふたりだけの熱い夜を過ごしましょう!」

 なぜかティファは、耳までリンゴみたいに真っ赤になった。
 彼女はときどき、よくわからない反応をする。

「アベル! 精力がつくフォルガナ産のスッポンエキスが手に入ったわ! これで今夜は明るい家族計画を盛り上げましょう!」

 リディアが満面の笑みを浮かべて、やって来た。
 言っていることが意味不明だ。明るい家族計画って、なんだ?

 女の子たちから「きゃ~! 王女様、だいたんっ!」といった声が上がる。

「リディア様! 今は訓練中ですよ! それに……は、はしたない! アベル様は今夜は私と、ふったりきっりで過ごすんです!」

「むぅ!? お世継ぎを作るのは王女としての大事な使命なのよ? それにアベルはフォルガナに勝ったら、私といっぱい愛し合うって約束したんだから!」

「結婚したら、好きなだけアベル様を独占できるんですから、いいじゃないですか!?」

「あなた、最近、積極的になりすぎよ! アベルは昔も、今も、これからも、ずっと私だけのモノなのよ! それを勘違いしないことね!」

「いいえ、違います! アベル様は、私とずっと一緒にいたいって、言って下さっているんです!」

 リディアとティファは、顔を突き合わせて押し合いへし合いしている。
 最近、このふたりは仲が良いんだか悪いんだかわからない。

「アベル。剣の修行も良いけれど。今夜は私と踊ってくださらない? 社交ダンスの嗜みは、王族にとって必須よ」

 アンジェラがやって来て、僕の手を取った。

 アンジェラからは、魔法以外にダンスや礼儀作法なども教えてもらっていた。リディアと結婚して、王族の一員となるには必要なことだ。

「この前の舞踏会では、リディアの足を踏んづけて恥をかいたからな……まあ、今夜はティファと魔法剣の修行をするんで、明日にでも頼むよ」

「ふふふっ……魔法剣なら、私も使えましてよ? そろそろ次のステップに移る段階ではなくて? 私も今夜の訓練に参加させていただくわ」

「アンジェラ王女。何を勝手に話を進めているんですか!?」

 ティファが歯をむき出しにして、アンジェラに突っかかる。

「あら、怖い怖い。ご主人様と親睦を深めようとしていただけよ。決して、あなたからアベルを横取りしようなんて、思っていないわ。むしろ、私はあなたとアベルの仲を応援したいと思っているのよ。
 それに、あなただって、私の暗黒の魔法剣には興味があるでしょう?」

「それは、まあ、ありがたい、お話ですがっ……」
 
「だったら、私も参加するわ。暗黒魔法が失敗した場合に備えて、聖女がいた方が良いでしょう!?」

 リディアが僕と、アンジェラの間に割り込んでくる。リディアは僕にギュッと抱きついた。

「いっぱい汗をかいたら、一緒にお風呂に入りましょうね。アベル!」

「はっ? いや、それは……」

「はしたないです!」

「はしたないわよ!」

 僕が言葉に詰まると、ティファとアンジェラがハモった。
 3人娘は、やいのやいの言い合いを続ける。

 毎日、にぎやかだ。そして、幸せである。

 父上もきっと天国から、この光景を見て喜んでいるに違いない。
 僕は感慨にふけりながら、訓練を続けた。

 ティファのおかげで父上が残してくれた魔法剣を使いこなすことが、できてきている。アンジェラやリディアも協力してくれるし、もっともっと僕は強くなれるだろう……

 この時、僕はまだ気づいていなかった。

 これが後世に永遠に語り継がれる英雄譚のほんの始まりでしかなかったことを。
 アーデルハイド王国が、僕の治世の元、世界最大の国家として繁栄していくことを。

 終わり。
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