ノケモノ黒魔術師のやり直し。勇者に裏切られ、命と愛する者を奪われた俺、過去に戻ってすべてを取り戻します!

こはるんるん

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1章。強くてニューゲーム

1話。勇者に裏切られて殺された俺、5年前のあの日に戻る

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「アヒャヒャヒャッ! これで俺様は魔王を倒した英雄だぜぇ!」

 俺ごと魔王を聖剣で貫いた勇者アレス──俺の双子の弟が歓声を上げた。

「アレス、なぜ……ッ!?」

 驚愕し、血を吐きながらも、俺──黒魔術師のカイは背後を振り返る。勇者パーティのメンバーたちは、アレスの凶行を咎めるどころか、全員ニヤニヤ笑っていた。

「なぜだって? ハッ! 黒魔術師なんて糞クラスを授かった兄貴が、栄光を味わおうなんざ、おこがましいにも程があるんだよぉおお!」

 勇者アレスは憎々しげに絶叫する。
 世界を恐怖に陥れた魔王を、ようやく討伐できると思った瞬間のまさかの裏切りだった。
 俺が魔王の攻撃を防いで、ようやくチャンスを作ったというのに……

「その通り! 聖女コレット様たっての推挙ゆえに、あなたをパーティメンバーに加えましたが。毎日、吐き気を堪えるのに正直、必死でしたよ」

 眼鏡をクイッと押し上げて、聖者ヨハンが冷酷に告げる。

「黒魔術師などという邪悪なクラスを授かった者を、仲間と呼ばねばならないとは。神が私に課した試練だとしても、あまりに理不尽です」
「なんだとッ? 俺は闇魔法で、ずっとお前たちを助けて……」

 反論する間にも、身体から熱と力が抜けていく。

「キャハハハッ! 助けてだって? おこがましいんだよ、最下級クラスが!」

 美貌を傲慢に歪めて、魔法剣士のエルザが吐き捨てる。
 エルザは剣も魔法も達人級に扱える超レアクラスの【魔法剣士】だ。この女は、ずっと俺のことを最下級クラスであるとバカにしてきた。
 
 この世界では、15歳になると神から特別な力であるクラスを授けられる。クラスにはいくつもの種類があり、それぞれに応じたスキルや魔法を修得できる。
 
 5年前に俺が得たクラスは【黒魔術師】だった。
 人間よりも魔族に近いと忌み嫌われる闇属性クラスだ。しかも闇属性クラスの中でも最下級。スキルを一切覚えられない、俗に言う外れクラスだった。

 『最下級クラスは人間じゃない』が、このエルザの口癖だ。
 俺はその不利を補うために、5年間、血の滲むような努力をしてカンストレベル──強さの到達点であるレベル999に達していた。

 おかげで魔王の攻撃すら防げる魔力を手に入れたが、エルザは俺を見下し続けた。

「あんたが生きているとね。私の分け前が減るんだよ。いいから、さっさと、おっ死んじゃいな!」

 魔王討伐に成功したら、聖王から一生遊んで暮らせるだけの報酬が約束されていた。
 エルザはそれが俺に分配することに対して、以前から不満を漏らしていた。
 しかし、まさか裏切りに加担するとは……

「ギャハハハッ! 誰も兄貴を仲間だなんて、思っていなかったってこった! てめぇはもう用済みなんだよ!」

 勇者アレスが聖剣を持つ手に力を込めて、俺ごと魔王を引き裂こうとする。

「おまぇらぁああッ!」

 俺が勇者パーティに入った理由、それは幼馴染の聖女コレットを幽閉から救うためだった。
 【聖女】は守りと癒しに特化した光属性最上級クラスだ。

 コレットは聖王都を、魔王軍から守る大結界を展開するために、王城の一室に監禁されていた。
 魔王を倒せば、大結界を維持する必要は無くなり、コレットは自由の身となれる。
 そのために、俺はどんなに蔑まれ、バカにされながらも勇者パーティに貢献してきたんだ。

「ヒャッハー! これでコレットも俺様のモノだ! 兄貴は魔王に殺されたって、筋書きだぁ!」

 アレスは歓喜の声を上げる。

「うぜぇんだよ、邪魔な黒魔術師が! コレットは俺様がたっぷりかわいがってやるから、安心して逝けやぁああああ! 父上からも兄貴を消せと言われていたからな。これで俺たちはみんなハッピーエンドだぜぇえええッ!」

 なに……? まさか、この裏切りには父上も噛んでいたのか。
 父上は聖王国最強の聖騎士団長──勇者を何人も輩出してきた名門中の名門、オースティン侯爵家の当主だった。

 体面を何よりも重んじる父上は、俺が【黒魔術師】のクラスを得たと知るや、実家から追放を言い渡した。
 だが、もし俺が魔王を倒すのに貢献したら、追放を取り消すと約束してくれた。

 そうすれば、俺とコレットとの婚約も復活してもらえるはずだった。コレットもそれを喜んでくれた。
 俺の左手には、コレットが俺の無事を祈って贈ってくれたミサンガが巻かれていた。

 俺とコレットは15歳まで婚約を交わしていたが、【黒魔術師】と【聖女】とでは釣り合わないとして、追放と同時に婚約も破棄させられた。
 俺たちは、泣く泣く別れるしかなかった。

 マグマのような怒りが湧く。
 結局、俺は父上やアレスたちに、利用されただけだった。
 チクショウ、ふざけるな……ッ!

 こんなことなら、勇者パーティになど貢献せず、コレットを奪い去って逃げれば良かった。
 他人など気にせず、常識も条理も捨て去って、俺は俺だけの幸せを追求すれば良かった。

 だが、身体がもはや言うこと聞かず、凍えるように寒い。
 このままコレットを置いて、ひとり俺は逝かねばならないのか?

『カイ! お願い、死なないでぇえええッ!』

 なぜかコレットの絶叫が耳に届いた。
 薄れゆく視界の中で、コレットのミサンガが淡く光っているような気がする。
 俺は不思議な浮遊感に包まれ、闇の中に落ちて行った。
 
※※※

「おはよう、カイ! いつまで寝ているの?」

 鈴を振るような少女の声で目を覚ます。

「なっ、こ、ここは……ッ!?」

 目の前にいるのは幼馴染のコレットだ。
 俺はベッドから跳ね起きた。
 カーテンの揺れる窓からは、柔らかい朝日が差し込んでいる。

 ……じょ、状況がまったくわからない。
 これは死の間際に、過去を思い出すというヤツかなのか?

「もしかして、寝ぼけているの? 今日は私たちのクラス授与式だって言うのに、大丈夫?」
「……いや、アレスと魔王はどうしたんだ!?」
「アレスと魔王? ぷぷぷっ、やっぱり寝ぼけているのね?」

 コレットは手を口元に当てて微笑した。
 その見目麗しい姿には、まだ幼さが残っており、14、5歳に見える。彼女の年齢は20歳だったハズだ。

 ……どういうことだ? コレットは若くなっている?
 しかも、ここはオースティン侯爵家の俺の部屋か?
 俺は慌てて、姿見鏡を覗き込んだ。

「嘘だろう……?」

 そこには、15歳ほどのあどけない表情の少年がいた。俺はもっと険のある顔をしていたし、身体ももっと大きかった。
 ま、まさか……

「コレット、クラス授与式って言ったか? 今日は聖歴、何年だ!? お前はまだ聖女のクラスを授かっていないのか? 俺のクラスはなんだ!?」

 俺はコレットの両肩をつかんで、矢継ぎ早に質問した。
 この血肉の通った温かい感触は、紛れもなく本物の少女のモノだ。夢や幻などではあり得ない。

「きゃぁ!? ちょっとカイってば、近いって!」

 コレットは顔を真っ赤にして、身をよじる。

「あっ、いや、悪い……!」

 彼女が本物か確かめたくて、顔を近づけ過ぎていた。俺は慌てて身を離す。

「はぅ、びっくりした。やっぱり寝ぼけているのね? もしかして、昨晩は緊張して眠れなかった?」

 コレットは溜め息をついた。

「今は、聖暦999年。待ちに待った、私たちがクラスを授かる日よ。私は【聖女】のクラスを、あなたは【勇者】のクラスを授かれたら良いわね!」

 無邪気な笑みで、コレットは衝撃の事実を告げた。
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