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ソランツェの言葉を聞いて何も言えない状態のまま部屋へと戻り、寝室で降ろしてもらった。
「……ありがとう」
「横になって少し休んだ方が良い」
「いや、大丈夫……」
横になったってどうせ落ち着く事なんか出来ないだろうし、とベッドの上に腰掛ける。
言わないといけない事の大きさにどこから話せばいいのか判らない。はっきり判るのは話さないっていう選択肢はない事。
でも、どうしよう、どうしようと思う気持ちばかりが出て来てまともに話せそうにないし、目線は下を向くしかなくてソランツェの顔もまともに見れない。
ソランツェの言葉は本当に嬉しいものだけど、だけど……
「リヒト」
横に座ったソランツェが、いつの間にかシーツをギュッと握りしめていた俺の手を優しく包む。
「俺は負担か?」
「そんな事ある訳ない、でも……」
「それなら、俺だってそうだ」
言葉を遮り、俺を引き寄せ肩を抱くと言い聞かせる様に話し出す。
「具体的にあの問いの答えがどう遂行されるのかは判らないが、意味を理解出来ずに答えた訳ではない」
「……人を捨て、ってどういう意味か本当に判ってる?」
「真実、神の子であるリヒトと共にずっと在る事を望むならば俺も近い存在にならなければならないのは当然の事だろう」
さっき俺が恐れたのは、俺の知らない所で既に同じにされてしまったのでは無いかと言う事。だって、そうするという事は――
「俺と同じ……近くなるっていうのはさ、ソランツェも死んじゃうって事だよ……?そして、死ねない存在に……、あの、言い方はおかしいけど、死ぬっていう自由が無くなるんだよ?」
「そうか」
「そうか、って……」
見当はつくと言っていたから、本当に予想通りという事なのかソランツェの表情に変わりはない。
「何かしらの神の御業によりそう変わるという事だろう。それだけでリヒトと共に在れるのなら俺は構わない」
それに、と続けるソランツェは自分の首に俺の手を持っていき触らせる。
「元々この首は贖いのためリヒトに捧げようと思っていたものだ」
「そうだったな」
「贖いとしては止められたけれども、この命はリヒトを護る為に捧げるという気持ちは変わっていない」
「そんなの……、」
「言うと嫌がるのは判っていたから言わなかったが、俺は常にそういう気持ちも、リヒトを愛しく思う気持ちと共に持っていた」
「ソランツェ……」
俺の手の甲に何回も口付けを落としそのまままギュッと握り、俺の目をじっと見つめたままソランツェは言葉を続けた。
「永遠を生きるという事は孤独を一人行く事でもあるだろう。このままだとおそらく老いもなく変わらぬリヒトに、俺は生きていても死んでしまってもずっと孤独を突き付けてしまう。……リヒトは老いないのだろう?」
俺が頷くと、人と共に老いない俺を残し目の前で老いて弱り死んでいく姿を見せたくないのだと、俺の手を握る手に力がこもる。
「俺はリヒトに独りを与える存在になりたくはない。愛しい者を泣かせたくない、寂しい顔をさせたくない」
「ソランツェ」
「孤独からお前を護る為に、俺は共に在りたいんだ」
ソランツェは、それにそれだけじゃないんだと俺の体を強く抱き締めてきた。
「……俺がいなくなっても時が経てばリヒトがその孤独に慣れて、また新たに心寄せる者が出来るかもしれない」
「そんな事、」
「無いなんて言えないだろう?俺にはそんな可能性すら耐えられないし……許せない」
「…………」
想像した場面への怒りなのか悲しみなのか震えるソランツェに、何か言いたいと思うけれど、言葉は出て来ない。
「醜い独占欲で狂ってしまいそうなんだ」
俺だってソランツェの答えは嬉しかったし絶対に離れたくない。でも、俺といる事でソランツェの人としての生を奪ってしまいたくなくて、奪う存在になりたくなくて……
「頼む、リヒト。俺を救ってくれ」
「……ありがとう」
「横になって少し休んだ方が良い」
「いや、大丈夫……」
横になったってどうせ落ち着く事なんか出来ないだろうし、とベッドの上に腰掛ける。
言わないといけない事の大きさにどこから話せばいいのか判らない。はっきり判るのは話さないっていう選択肢はない事。
でも、どうしよう、どうしようと思う気持ちばかりが出て来てまともに話せそうにないし、目線は下を向くしかなくてソランツェの顔もまともに見れない。
ソランツェの言葉は本当に嬉しいものだけど、だけど……
「リヒト」
横に座ったソランツェが、いつの間にかシーツをギュッと握りしめていた俺の手を優しく包む。
「俺は負担か?」
「そんな事ある訳ない、でも……」
「それなら、俺だってそうだ」
言葉を遮り、俺を引き寄せ肩を抱くと言い聞かせる様に話し出す。
「具体的にあの問いの答えがどう遂行されるのかは判らないが、意味を理解出来ずに答えた訳ではない」
「……人を捨て、ってどういう意味か本当に判ってる?」
「真実、神の子であるリヒトと共にずっと在る事を望むならば俺も近い存在にならなければならないのは当然の事だろう」
さっき俺が恐れたのは、俺の知らない所で既に同じにされてしまったのでは無いかと言う事。だって、そうするという事は――
「俺と同じ……近くなるっていうのはさ、ソランツェも死んじゃうって事だよ……?そして、死ねない存在に……、あの、言い方はおかしいけど、死ぬっていう自由が無くなるんだよ?」
「そうか」
「そうか、って……」
見当はつくと言っていたから、本当に予想通りという事なのかソランツェの表情に変わりはない。
「何かしらの神の御業によりそう変わるという事だろう。それだけでリヒトと共に在れるのなら俺は構わない」
それに、と続けるソランツェは自分の首に俺の手を持っていき触らせる。
「元々この首は贖いのためリヒトに捧げようと思っていたものだ」
「そうだったな」
「贖いとしては止められたけれども、この命はリヒトを護る為に捧げるという気持ちは変わっていない」
「そんなの……、」
「言うと嫌がるのは判っていたから言わなかったが、俺は常にそういう気持ちも、リヒトを愛しく思う気持ちと共に持っていた」
「ソランツェ……」
俺の手の甲に何回も口付けを落としそのまままギュッと握り、俺の目をじっと見つめたままソランツェは言葉を続けた。
「永遠を生きるという事は孤独を一人行く事でもあるだろう。このままだとおそらく老いもなく変わらぬリヒトに、俺は生きていても死んでしまってもずっと孤独を突き付けてしまう。……リヒトは老いないのだろう?」
俺が頷くと、人と共に老いない俺を残し目の前で老いて弱り死んでいく姿を見せたくないのだと、俺の手を握る手に力がこもる。
「俺はリヒトに独りを与える存在になりたくはない。愛しい者を泣かせたくない、寂しい顔をさせたくない」
「ソランツェ」
「孤独からお前を護る為に、俺は共に在りたいんだ」
ソランツェは、それにそれだけじゃないんだと俺の体を強く抱き締めてきた。
「……俺がいなくなっても時が経てばリヒトがその孤独に慣れて、また新たに心寄せる者が出来るかもしれない」
「そんな事、」
「無いなんて言えないだろう?俺にはそんな可能性すら耐えられないし……許せない」
「…………」
想像した場面への怒りなのか悲しみなのか震えるソランツェに、何か言いたいと思うけれど、言葉は出て来ない。
「醜い独占欲で狂ってしまいそうなんだ」
俺だってソランツェの答えは嬉しかったし絶対に離れたくない。でも、俺といる事でソランツェの人としての生を奪ってしまいたくなくて、奪う存在になりたくなくて……
「頼む、リヒト。俺を救ってくれ」
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