ヤンデレ乙女ゲームに転生したら

果桃しろくろ

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本編(裏)

ーー 怒れるサポートキャラ02

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「愛ちゃん、大丈夫?」
「……う、うん」
 次の休み時間に、葵が私の様子を見に、保健室に来てくれた。
「あ、そうだ! これ、さっき落としていたよ?」
 そう言った葵の手にあるのは、私の大事な端末。
「壊れてないかな? 動く?」
 心配そうに、覗き込む葵はいつもの調子で……朝に感じた違和感は―気のせいだったのかと思わせる。
「ありがとう。後で見ておくね」
 私は端末をベッド脇に一旦置き、ベッド下に置いてある上靴を履いた。休み時間なのに、教室から少し離れた保健室は、シーンと静まり返っていて、呟かれた言葉が嫌でも耳にはいってきて……。
「みんな終わった(・・・・)後で、それって……何かの役に立つのかな……」
 ―!
「葵……? 何か言った?」
「ん?」
 ニコリと葵の笑顔。
 いつものに笑顔。
 なのに、感じるのは……。
「顔色悪いから、寝ていてもいいのよ?」
 という優しい養護教諭に曖昧な笑いを浮かべて断り、葵と二人、教室に戻った。
 教室に戻ってからの葵は、いつもと違う気がする。終始ご機嫌で、笑顔のバーゲンセールだった。
「桃園さん、何かいい事あったの?」
「んー? 内緒」
 クラスの男子の質問に、笑顔で答える美少女。周りの男子が耳を赤くしてほうけている。元攻略対象者でクラスメートの緑川拓海を除いて。

 ―昼休み
 いつもは葵たちと一緒にお弁当を食べるのだが、そういう気分にもならず端末とお弁当箱を持って、どこか一人になれるところに向かった。
 自販機で紅茶を買い、中庭のどこかベンチが空いていないか探す。
「六勝さん」
 私の後ろには、元攻略対象者―白兼聡会長の元ファンクラブ会長で現彼女と噂されている玄田華澄が立っていた。
(どうして?)
 私と彼女はクラスも違うので、すれ違ったくらいはあるが、話した事もない。ただ、私からすると厄介な彼氏を持ってしまった同級生というくらいだった。
 彼女は、周りをキョロキョロと見渡して「ちょっと、ごめんなさい」と私の腕を掴み、垣根の陰まで私を連れて来た。そして再度あたりを見渡し、背を低くしてしゃがみこんだので私も同じようにする。
 いきなりの事で少々苛立ったが、彼女の怯えた様子でただならぬ雰囲気を感じて好奇心の方が優ってしまった。
「いきなりで、ごめんなさい」
「い、いえ。玄……田さんよね?」
 彼女は頷き、そしてどこか迷っている風で「ちょっと、言葉の整理がつくまで一緒にいてもらっていい?」と申しわけなさそうに問われた。
「いいけど……ごめん。それじゃあ、ここでお昼食べていい?」
「あ、はい。私こそ、ごめんなさい」
「玄田さんは? もう食べたの?」
「……最近、食欲がなくて」
 そういえば、彼女は以前見かけた時よりも、やつれている様子。綺麗な黒い髪は肩甲骨まであり、顔を隠す様に顔を覆っていた。私と彼女は二人して、中庭の隅で小さく隠れるように座り込んだ。
 ふと、彼女の視線を感じる。私の―お弁当を通り越して、持ってきた端末にだった。
(そうだ。私、端末(これ)を確認しにきたんだった)
 彼女と別れた後!に、確認しようと心に決め、モクモクとお箸を動かす。
 二人の沈黙を破ったのは彼女の方だった。
「……それって、『好感度』とか見られるやつ?」
「……!?」
 箸が手を滑り落ちそうなって、慌ててつかみなおす。
「はは、何を……」
「六勝さん、私が今から変な事言うけど、何も言わずに聞いて欲しいの」
「……」
 私の沈黙を肯定ととった彼女は、息を少し吐いてから話しだした。



「玄田さんも、前世持ちだったんだ」
「六勝さんも?」
 驚いた。まさか、同郷といっていいのか……同じゲームをしていた同じ世界からの転生者が私以外にも居たなんて! 玄田さんの前世は大学生までの記憶しかないそうで、道理で私よりもおばさん臭くないはず。
 仲間に会えた嬉しさと、多少(?)の前世での年の差に凹んだがテンションが高くなってしまう。
「そうなの。私は『サポートキャラ』になっちゃって大変だよ。こんな端末持って人の色恋の助言するんだよ? どこのお見合いババアかよって、中身おばさんだから適役なのかな?」
 おどけた調子で言うと、彼女が笑った。
 あ、やっぱり、この子美人顔。流石生徒会長の彼女になるだけあるわ。
(―ん? 前世の記憶持ちでゲーム経験者?)
「よく白兼会長の彼女になろうと思ったわね。赤松も大概だけど、アレも大概なんでしょ?」
 私は前世での娘の攻略していた『赤松ルート』というのしかプレイしたことがなく、他の攻略キャラのプロフィールなどは端末で知っているけど、どう攻略していくのかは知らなかったりする。でも攻略キャラは全員“ヤンデレ”わざわざ、そんな厄介な彼氏を作らなくてもというのが本心だ。
「……私が浅はかだったの」
「玄田さん?」
「六勝さん。六勝さんはどうして、赤松先生と面識があるの?」
「え? どうしてって言われても……」
(なぜ? それは、私がサポートキャラだからじゃないの?)
 玄田さんは垣根を見つめていた。そして、私に言うのではなく……一人、自分自身に確認するかのよう声をおとす。
「前世持ちがここに二人もいるって事は……やっぱり、彼女も(・・・)……」
(彼女?)
《ブルルルルルルルル》
 スマホが震え、彼女の顔が凍ばった。
「ごめんなさい。行かなきゃ!」
「玄田さっ!?」
 慌てて立ち上がった彼女につられるようにして、私も立ち上がる。すると、彼女は真剣な表情で私に一歩近づき、私にだけしか聞えない小さい声で忠告をした。
「六勝さんは、赤松先生のルートにはいっているかもしれない……。先生は従順にしていれば、取り敢えず大丈夫な……ハズだから。―それと……桃園さんには気をつけて」
「!!」
 耳元で囁いた彼女はサッと身体を離し、曖昧に、儚く笑った。言葉の意味を聞こうとしたのに、私を置いて彼女は走り出す。走った先を見ると、そこには―何本もの指に包帯を巻いた白兼会長の姿が。
 私が玄田さんと居たのを確認したのか私の事を鋭く睨み付け玄田さんの肩を抱いて去っていった。
(……何、あいつ……)
 元座っていた場所に座り直し、息を吐く。
(玄田さん……私が『赤松のルート』にはいったと言っていた……)
 嫌な予感がする。
 冷静になるために、さっき買った紅茶を飲み干す。残ったお弁当を平らげ、人が近くにいないことを確認した後、端末の電源を付けた。

『ノーマルエンド』

 画面には、ヒロインが誰にも結ばれなかったという
 ―ゲーム終焉の文字が浮かんでいた。
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