叔父にできること

すいすい

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8.叔父、逃走する(1)

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 目を覚ました時、俺は何故か姉家族の家にいた。え、なんで……?俺何時姉さんの家に来たっけ……?訳が分からずに戸惑った俺は慌ててベッドから起き上がろうとした。
 がしかし、あまりの腰の痛さと体の倦怠感に床に倒れ込んでしまった。そしてその衝撃で俺は全てを思い出した。――俺は晃に犯されたのだと。その瞬間、体から血の気が引くのを感じた。俺がここに居るってことは晃が姉さん達にバラしたんじゃないか!?やばい、終わった。『社会的死』頭にその文字が浮かんだ俺は絶望し、涙を流した。そして怖くなった俺はせめてもの抵抗として布団を被さり、中で丸まった。するとちょうどそのタイミングで部屋の扉がガチャリと開き、思わず肩をビクつかせる。こちらへ近づく足音が聞こえてくる。その度にがたがたと体が震えてしまう。
 だけど聞こえて来たのはいつも通り優しい姉さんの声だった。

「物音がしたみたいだけど優一起きたの?」
「は、はひ……」
「体調はどう?昨日お父さんたちの家に行ったきり帰ってこないと思ったら、晃が急に優一が倒れたって言うから焦ったわよ」
「えっ……」

 もしかして晃は姉さんに何も言ってないのか……?俺は恐る恐る布団から顔を出して姉さんの顔を覗いた。

「あ、あの、晃がなんか他に言ってたりしなかった?」
「えー特に何も言ってなかったけどもしかしてまだケンカしてるの?まあ今回は晃のお陰で助かったんだから後でちゃんとお礼言いなさいよ」

 姉さん違います。俺が体調悪いのは晃に犯されたからです。そんなこと口が裂けても言えないので俺は曖昧に返事をしながらははは……と乾いた笑みを浮かべていた。

「とりあえず食べれそうだったらお粥食べて、それから薬も飲んでおくのよ。それじゃ私仕事に行かなきゃだからもし何かあったら連絡してね」
「あ、うんごめんありがとう……」

 姉さんが足早に部屋を去って行くのを見届けて、俺はほっと息をついた。
 良かった、本当に良かった……。姉さんにバレてないと分かり、心底安心した。
 けれど晃が俺にしたことを取り消すことは出来ない。どうにかして晃と距離を置かなければ……。そうなるとやはり家を出るしかない。昨日まではどうやって晃の気を引こうと考えていたのに自分でもこうなるとは思っていなかった。まあこれで社会復帰するきっかけを与えてもらったと思えば全然……良くはないんだけど俺ももうアラサーだし働かなければと思う。
 そんなことを考えていると、誰かが帰ってきたような音が聞こえた。誰だ?もしかして晃か……!?俺は痛む体に鞭打ってベッドから下りると隣のクローゼットの中に隠れた。緊張しながらも隙間から様子を伺う。
 しかし部屋に入ってきたのは義兄さんだった。
 義兄さんは俺が部屋にいないと分かると首を傾げて探しに行こうとする。慌てて俺はクローゼットから飛び出した。

「あ、あ、すみません俺ここにいます……!」
「何故そんな所に……?」
「あ、えっと、なんとなく?」

 俺が反応に困って誤魔化すと、義兄さんはクスリと笑って俺の頭を撫でてきた。

「大丈夫、晃は学校に行ってるからしばらく帰ってこないよ」
「えっなんで……」

 もしかして義兄さんは晃との事を知っているのか?そう思い、焦る俺に兄さんは俺を落ち着かせるように穏やかに微笑んで言った。

「安心してくれ、由香里さんやお義父さんたちには言ってないから。それにしても優一君には本当に申し訳ないことをしたね……すまなかった」
「いや、そんな俺は別に……今回の件で晃が俺のことをどう思っていたのか分かったし、俺もそろそろ自立しなきゃいけないなって思ってたので」
「そうか、晃は昔から優一君のことになると酷かったけどここまで重症だとは私も思っていなかったよ……」

 眉間のしわを揉み込みながら義兄さんは渋い顔をしている。
 俺そんなに昔から嫌われてたんだ……。義兄さんの話を聞いて思わず胸が傷んだ。いやそれならちょうどいいじゃないか。晃は俺が居なくなれば会わなくて清々するだろうし、俺は社会復帰できる。どちらにも都合がいいはずだ。

「すみません、俺がこんなんだからきっと晃もおかしくなっちゃったんですよね……。俺この際だからもう家を出ようと思います」
「いやそれは違うよ悪いのは優一君じゃない。ただこのままだと優一君が危険だろうし、その方がいいかもしれない。良かったら私が管理しているマンションの方に住むっていうのはどうかな?」

 漠然と寮付きの会社とかで働こうと思っていた俺からしたら義兄さんからの提案は願ってもない事だった。

「いいんですか?」
「あぁ、もちろんだよ。今は体調が悪いみたいだし明後日ぐらいに引っ越す形で手続きは済ませておくよ。だから安心して今日はゆっくり休んでくれ」

 晃とは違う紳士的な優しさに感動しつつ、俺は感謝を述べた。その後義兄さんも仕事へ行くために出かけて行き、一人になった俺は姉さんが作ったお粥を食べ、薬を飲み終えると再び深い眠りに落ちたのだった。


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