無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~

枯井戸

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第2章 丹梅国グルメ戦記・四象の虎

第124話 入国審査の結果

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 あまりの肩透かしに、思わず変な声が口をついて出る。
 私としてはもっと根掘り葉掘り尋ねてくるのかと思っていたのだが――

「なに、面倒くさいから早めに切り上げようってわけじゃないぞ」

 面倒くさかったようだ。
 そういえば、ずっと監視してたんだっけ。
 平和的に話し合いに来ただけとも言ってたし、審査らしい審査はすでに終わっていて、今回、彼が姿を見せに来たのは、本当にただの確認なのかもしれない。

「この国の勇者、つまり俺には一次判断の裁量がある。俺が無害だと判断したから、俺の名でギルドに通しておく。それだけだ。……それに、梁さんのお墨付きだ。あの人が問題ないと言ってるんだから、大した問題はないんだろう」
「そ、そうですか……すごく信頼されてるんですね……」
「ふむ、なにか腑に落ちてないみたいだな。……まさか、なにか隠してることとかあるのか?」

 黄さんが目を細めながらそんなことを言った。
 なんというか、思わせぶりな物言いだ。
 はたして私の真意に気が付いているのか、いないのか。
 その表情からは相変わらず何も読み取れないが――
 彼からは、敵意や害意のようなものは感じなかった。
 強いて言うなら〝見逃してやる〟とでも言いたげな態度に思えた。

「い、いえ、そんなことは……」
「そうか」

 ありがたいことに、これ以上の追及はしないようだ。
 けど、私が言うのもなんだが、私たちみたいなのを見逃してよいものなのだろうか。

「……そうだ。この国に来て、何か困ったこととかあるか」
「え?」
「同じ勇者のよしみだ。見たところおまえさん、まだこの世界に来て浅いだろ?」
「ま、まぁ……わかりますか?」
「まあな。だから、色々と気になることもあるだろうって思ってな。ないならべつに構わんが」

 黄さんの突然の親切心に、思わず気が緩んでしまいそうになったが――

「だ、大丈夫です……」
「そうか。ま、気が向いたらまたいつでも尋ねて来い」

 黄さんはそう言って、長方形の……名刺のようなものを手渡してきた。
 そこには達筆な文字で〝黄嘉偉〟と書かれている。
 自己主張が激しいのはこの人のほうだった。

「ええっと……?」
「なにかあったら、それをギルドの受付に持っていくといい。気が向いたら話くらいは聞く」

 聞くだけで手は貸してくれないようだ。……でも、ありがたい。私は軽く会釈をすると、両手でその名刺を受け取った。
 気軽にあっちの世界のことについて話せる人は貴重だ。

「……ま、話はこんなところだろ」

 そう言って黄さんはいくつかの硬貨を卓の上に置き、立ち上がった。
 彼はまだ一口も食べていないので、おそらくこの金で何か食えということだろう。

「じゃあな、異国の勇者一行」

 黄さんはそれだけ言うと、そのまま美食街の人ごみに紛れて……消えた。

「……彼とは同郷なんでしょう? なにも訊かなくてよかったの?」

 紅月が静かに尋ねる。

「まあ、本当は色々訊いてみたかったけど、そのうちボロが出そうだったし」
「それもそうね。普通に話していたのに貴女、突然しどろもどろになるから……」
「いや、あれはしょうがないって」
「それで彼も、なにか勘づいてそうに見えたわ」
「あんたもそう思った?」
「ええ……でも、本当に話さなくてよかったのかしら」
「大丈夫でしょ。今はもっさんの事より、フェニ子のことを優先しているのは事実だし」
「まったく、嘘の上手い親愛的ますたあじゃの」
「嘘じゃないって。ただ、全部は話してないだけ」
「ふむ、そういうのを〝嘘〟と呼ぶのではないのか?」
「……どうだろうね」
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