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アルバイターガレイト
閑話 味の好み
しおりを挟む──ガツガツガツ!
「う、うまい……! こんなにうまいなんて……!」
打上げの席で、ガレイトが勢いよく火山牛の肉を頬張りながら涙を流している。
「ははは、ガレイトさんが食べてるところを見ると本当に美味しそうに見えるなぁ」
ディエゴがそう言うと、リカルドもうんうんと頷きながら答えた。
「まあ、でも俺も久しぶりに火山牛なんて食ったけど、何度食ってもうまいよ。火山牛は」
「たしかに。でも、ステーキもうまいけどやっぱり刺身じゃないかな?」
「あー、たしかに。刺身も格別だな」
リカルドはそう言うと、うんうんと頷いてみせた。
「さしみ……生で、ですか?」
ディエゴとリカルドの会話を聞いていたガレイトは食べる手を止め、二人を見る。
「はい、火山牛って、ものすごく体温が高いじゃないですか。だから、並大抵の火じゃ焼けないんですよ。塊となると特別な魔法を使わないと」
「そうなんですか」
「ああ。その証拠に、今回のフェアで提供していたステーキはどれもこれも、表面が変色するほど焼かれてなかったろ?」
「はい。言われてみれば、ほんのりと焼き目がついているだけだったような」
「肉が乗ってる鉄板がジュウジュウいってましたからね。それで勘違いしてしまうのも無理はないですよ」
「……ですが、やはり肉の生はすこし抵抗ありませんか? 俺だったらすぐに腹を壊してしまいそうですが……」
「大丈夫、他の動物の肉はともかく、よっぽど変な調理をしない限り、火山牛の肉を食べて食中毒にはならないよ」
「そうなんですか?」
「ああ、そもそも牛自体の体温が高いから、寄生虫も雑菌も生きられないからな」
「死ぬとさすがに人でも食べられる体温まで下がりますが、それでもまだまだ高いままですからね」
「なるほど。だから、生のままでも食べられるんですね」
「──ちなみに、その刺身にワサビと醤油をつけて食べるのがツウの食べ方だよ~」
三人の話を聞いていたレイチェルが会話に加わってきた。
「わさび……ですか?」
「そ。ワサビってのは本来、消毒目的で使用されるから火山牛には必要ないんだけど、それでも一緒に食べるとこれがまた美味しいんだよね~。鼻から抜けるほのかなワサビの辛さと香ばしい醤油が、火山牛の肉特有の滑らかな舌触りと合わさることで……酒が進むんだ。これが」
レイチェルはそう言うと、何も食べていないのにぐびぐびと酒を呷り始めた。ガレイトもその様子を想像したのか、生唾をごくりと飲み込んだ。
「……ああ、ちなみにワサビっていってもちゃんとすりおろしてるやつね。他は邪道だよ」
「──ククク。まだまだだな、レイチェルよ」
リカルドが挑発するように立ち上がる。
「まだまだって……じゃあ、あんたはどうやって食べるのさ」
「よくぞ聞いてくれた。いいか、真のツウは塩さ」
「しおー? 料理中に使うならともかく、出来てるものに使わないって」
「まあ焦るな。もちろん、塩と言ってもただの塩じゃない。岩塩だ」
「が、岩塩……」
「ああ。粗くおろされた岩塩が、ガリガリとした食感とともに、肉本来のうまみを際限なく引き立てる。まさに相互扶助の関係性。塩が肉を引き立てているんじゃない。肉と塩、渾然一体となって口の中で混ざり合い、ハーモニーを奏でるのだ。噛めば噛むほどに原始的な肉の香りが口いっぱいに広がる。いいかレイチェル、肉を食うのなら肉を味わえ。ワサビなんかに頼るんじゃあない!」
「いやいや、ワサビだって肉本来のうまみを引き出せるし良いアクセントになるってー。第一リカルドは、岩塩で食べてる自分をわかってる風に見せたいだけでしょー? 浅い浅い」
「ぐぬ……! そ、そんなことないわい! レイチェルこそ、最終的に醤油とワサビの味しかしないだろ、それ!」
「肉がいいから負けないんだよ。わかってないなぁ」
「なにを!?」
「あはは、懲りないなぁ、二人とも」
リカルドとレイチェルが言い合ってるのを笑ってみていたディエゴが口を開く。
「ああ、そうだ。……ちなみに、ガレイトさんはどっちがいいと思いますか?」
「え?」
突然の、ディエゴからの質問にガレイトが固まる。
「お、俺は……」
「ガレイトさんは?」
「し、塩……」
ガレイトがそう言うと、リカルドの表情がぱぁっと明るくなり、レイチェルはガレイトを恨めしそうに見た。
「や、やっぱりワサビ……」
ガレイトが今度はそう言うと、レイチェルのの表情がぱぁっと明るくなり、リカルドがガレイトを恨めしそうに見た。ガレイトはしばらくの間、腕を組み、視線を落としてうんうんと唸ると、ぽんと手を叩いた。
「塩と……ワサビ! 塩とワサビをつけて、醤油もつける派です! う、うまいんですよこれが! ……食べたことはないんですが……」
ガレイトがやけくそ気味にそう答えると──
「いや、それはないわ~」
リカルドとレイチェル鼻を鳴らすと、口を揃えてそうガレイトを切り捨てた。
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