史上最強の料理人(物理)~役立たずと言われパーティを追放されましたが、元帝国最強騎士なのは内緒です~

枯井戸

文字の大きさ
36 / 147
アルバイターガレイト

元最強騎士が身分を偽る理由

しおりを挟む

 思わぬところから指摘に、ガレイトは脂汗を流しながら、チラチラとイルザードを見た。
 やがて、それに気づいたイルザードは『私に任せてください』と言わんばかりに、ガレイトの目を見てゆっくりと頷いてみせた。


「やあ、お嬢さんがた!」


 イルザードは片手を上げると、白い歯を覗かせ、モニカとグラトニーに挨拶をした。


「お嬢さんがた……?」

「なんじゃこいつ……」

「いきなりで混乱なさるのも無理はない……私はイルザード! ヴィルヘルム・ナイツ第五番隊隊長です!」


 突然のカミングアウトに、そこにいる全員──ガレイトも生唾をごくりと飲み込む。
 しかし、ガレイトにイルザードの会話を遮る様子もない。
 ガレイトは今まさに、元部下であるイルザードを信頼していた。


「そして! ここにおられるガレイトさんこそが、誉あるヴィルヘルム・ナイツ第二十三代団長ガレイト・ヴィントナーズ。その人なのです!」


 あまりの事に状況が理解できていないのか、ガレイトは腕を組み、首を傾げると、やがて大慌てで立ち上がった。


「な、なにを言っとるんだ、おまえは!!」

「え? 私はただ、ガレイトさんの紹介を……」

「言っただろう、今の俺はガレイト・マヨネーズだと! 察せ! 馬鹿者!」

「わっはっは! 勘弁してください、ガレイトさん。マヨネーズはダメですってば!」

「なにをこの期に及んで笑っとるんだ、貴様は……!」

「──なるほどねぇ」


 モニカはその場で足を組むと、なじるようにガレイトを見た。


「う……!?」

「たしかにただ者じゃないとは思ってたけど、まさか本当にガレイト・ヴィントナーズ・・・・・・・さん本人だったなんて。……そりゃ火山牛キャトルボルケイノも問題なく倒せるわ」


 ガレイトは、モニカの視線から逃れるように、自身の足元に視線を落とした。


「なんじゃなんじゃ。パパの出身地って、そんなに有名なのじゃ?」

「有名なんてもんじゃないよ。ここから遥か西にある大国の、軍の、その一番偉いの人なんだから」

「ほほう?」

「それで……なにか、申し開きはあるの? ガレイト・ヴィントナーズ・・・・・・・さん?」

「す、すみません……嘘をつくつもりはなかったのですが、こちらにも事情がありまして……」

「事情?」

「は、はい」

「……いちおう聞こっか。ブリもこの部屋の前にいると思うし」


 モニカがそう言うと、部屋の外からバタバタと音がした。


「……自分で言うのもなんですが、ヴィルヘルム・ナイツの、それも騎士団長ともなってくると、その……いろいろと名前が知れ渡れすぎ・・ていまして……」

「まあ、そりゃあね。あたしでも知ってる有名人だよ。でも、それならなおの事、堂々としてりゃいいのに。なんでわざわざ、正体を隠したりしたのさ」

「それは……」

「それは、私の口から話しましょう」


 ベッドの上に座っていたイルザードが、ふふん、と鼻を鳴らしながらベッドから立ち上がった。


「イルザード、おまえはもう黙っててくれ。ややこしくなる」

「わかりました!」


 ガレイトにそう言われると、なぜか今度は背後に回り込み、そのまま蝉のように捕まった。
 ガレイトは長いため息をつくと、気を取り直して話を始めた。


「じつは──」

「あ、そのまま話すんだ……」


 モニカのツッコミが虚しく空中で霧散する。


「じつは俺、マヨネーズではなく、ヴィントナーズだったのです」

「あ、うん」

「傭兵ではなく、本業は帝国の騎士……そこの団長を数年間やっていました」

「たしかダグザオーナーと出会って、料理人を目指すようになったんだよね?」

「はい」

「で、巡り巡ってここへ……」

「じつは、俺が料理人を志し、騎士団を辞めた当初、俺は外国へ行って料理を勉強するつもりはなかったんです」

「あれ、そうなんだ? てっきりオーナーみたいに、各国渡り歩いて色々な料理を勉強してるんだと思ってた」

「たしかに俺も、いつかはダグザさんみたいに、世界中の料理を見て、食べて、研究したいと思っていたのですが、まずは何事も基礎が重要。卵も満足に割れない人間が、ダグザさんと同じことをやっても意味なんてないと思ったのです」

「う、うん。たしかに良い心がけだけど、卵のカラ、割れなかったんだ……」

「い、今は問題なく割れますよ」

「うん。逆になんで割れないのか知りたいくらいなんだけど……」

「なんというか、俺が卵を握ると、なぜか爆発してしまって」

「……爆発?」

「こう……ボン、と」


 ガレイトが手をグーからパーにして実演してみせる。


「卵って強く握ったら爆発するっけ?」

「はい」

「いや、〝はい〟じゃないけど」

「爆発するんです」

「いや、だから……まあ、話進まないから、それはもういいよ」

「ですので、俺はまず、ヴィルヘルムにある大衆向けの食堂で修業を積もうとしたんです」

「うんうん。悪くない選択」

「それで、右も左も知らなかった俺は、まず雑用として雇ってください、と頼み込んだのですが……」


 ガレイトがその時の事を思い出してしまったのか、一層苦そうな表情をしてみせた。


「頼み込んだけど……なに?」

「当時の店長に『国の英雄を雑用係になんて罰が当たる。是非、料理長になってください』と頼み込まれてしまって……」

「そ、それで、店長に?」

「はい。一日にして、その店を任される事に」

「ええー……」

「そして、それを聞いたヴィルヘルムの民たちが大挙して店に押し寄せて……」

「い、嫌な予感しかしない……」

「結果、みな腹を壊してしまい、店に業務停止命令が出されたのです」

「うわぁ……国の英雄がテロ行為って、それもう笑えないじゃん……」

「ちょ、ちょっと待った」


 今まで大人しく話を聞いていたグラトニーが、ここで話を遮るようにして口をはさんだ。


「なんでみんな腹を下したんじゃ? それがパパが料理長になったのと、何か関係があるのか?」


 グラトニーの質問に、ガレイトもモニカも押し黙ってしまった。


「……まあ、食べたらわかるよ」


 やがてモニカが何かを悟ったように、遠い目をしてグラトニーに言った。


「食べたらって……いや、たしかに妾、試食係を自分から買って出たわけじゃが……なんじゃこの、言いようのない不安感は……」

「……それで? 元ヴィルヘルム・ナイツ団長が、国民を病院送りにして、どうなったの?」

「それで俺は……またヴィルヘルム国内の、違う店に移ったのですが……」

「……まさか、そこでも?」

「はい……俺に下っ端なんて、畏れ多いと」

「義理堅い国民性なのか、はたまた抜けた人たちなのか……」


 腕を組み、呆れかえるモニカ。


「ですから俺は、ヴィルヘルム国内で修業をするのをきっぱり諦めて、思い切って国外へと出たのです」

「なるほど。それで」

「……しかし」

「ま、まさか、国外でも?」

「はい。近隣諸国には、俺の名も顔も割れていて、どの店も雇ってもらえず。そして少なからず俺に恨みを持っているような人間もいたので……命を狙われることもしばしば……」

「ひぇ~……」

「たまたま、人の良い主人に雇ってもらえたこともあったのですが、結果、腫物の如く扱われ……その国でまた……」

「あー……」

「そして俺は、ついに旅をする決心をしたのです」

「たしかに。そこまで来たらもうそうするしか……ないのかな?」

「どこでもいい。とにかく俺の名を、顔を知らない人たちの所へと。……そして、気が付けば、ギルドの、冒険者パーティ付きの料理人として雇われていました」

「料理人ね……それで、肝心の料理のほうは大丈夫だったの?」

「はい。一度ひどい食中毒をパーティで起こしてから、『もう余計なことはするな。血を抜いて内臓を取って、焼くだけでいい』と言われていました」

「いや、大丈夫じゃないじゃん」

「ええ、大丈夫ではありません。これでは俺の腕が一向に上がりませんからね」

「でも……だから、肉の捌き方だけは上手だったんだ……」

「はい。……あ、それと、その頃にはもう、卵は割れるようになっていました」

「ああ、うん」

「卵、もう割れるんですよ。綺麗に」

「……なんで二回言うの?」

「思い出したらすこし嬉しくて。それからは、その者たちにクビにされ……」

「今に至るってわけね」

「はい」


 話を聞き終わると、そこにいたほぼ全員が、微妙な顔のまま黙り込んでしまった。


「──おお、そうだ!」


 ガレイトの背中に張り付いていたイルザードが声を上げる。


「今度は私に拾われる、というのはいかがでしょうか、ガレイトさん! 一生、養ってあげますが?」

「もういい。もうしゃべるな、イルザード」

「はい!」

「……じゃあ──」


 おもむろにモニカが口を開く。


「ガレイトさんは、ガレイト・ヴィントナーズだって知られると気を遣われるから、正体を隠してたってことなんだね」

「はい。現役時代、この名で得することもあるにはありましたが……料理をするにあたって〝騎士〟という肩書は、役に立たないうえに邪魔になるので」

「そうなのかなぁ……?」

「ですから、俺はそれ以降、傭兵のガレイト・マヨネーズと名乗っていました」

「……なんでマヨネーズ? 語呂が似てたから?」

「いえ、卵を割れるようになったので……」

「いや、相当嬉しかったんだな!」


 ガレイトは一息置くと、椅子から静かに降り、床の上に膝をついた。


「モニカさん、ブリギットさん、此度は騙すような真似をして、申し訳ありませんでした」


 ガレイトはそう言うと、手をついて頭を下げた。


「顔を上げて、ガレイトさん」


 モニカが、ポン、と(イルザードを避けて)ガレイトの背中に手を置く。


「たしかに嘘をつかれたのはショックだったけど、そうしないといけない理由もわかったし、なによりガレイトさんがやっぱり誠実な人なんだって、わかった気がする」

「こ、これからもよろしくね……ヴィントナーズさん」


 どこからともなく、ブリギットの声が響く。


「モニカさん……ブリギットさん……」


 感極まってしまったのか、ガレイトの目元はうっすらと涙が見える。


「まあ、ぶっちゃけ、薄々わかってたんだけど……」


 モニカが苦虫を食い潰したような顔で言った。


「え?」

「──おふぁぁあ……! よかったですね、ガレイトさん!」


 イルザードはガレイトの背中から勝手に剥がれ落ちると、すっくと立ちあがり、拍手を送った。


「ああ、ありがとうイルザード」

「私は何も! これもそれもあれもどれも、ガレイトさんの人徳のなせる業です」

「……いや、過程はどうあれ、おまえが後押してくれたおかげだ。礼を言う」

「そうですか! では、これで私も──」

「だから、もう帰れ」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。

桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。 だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。 そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。 異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。 チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!? “真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

処理中です...