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アルバイターガレイト
元最強騎士と少女の旅立ち。プラス忍者
しおりを挟む「……どう? モニモニ?」
オステリカ・オスタリカ・フランチェスカの厨房。
そこにはガレイトと、もぐもぐと口を動かしているモニカ。
そして、そんなモニカを心配そうに見ているブリギットがいた。
「う~ん……やっぱちょっと臭いかも……?」
「そうなの?」
「やはり、鴨と熊では違いますか……」
そのやり取りを聞いていたガレイトが、残念そうに肩を落とす。
「うん、グランティ・ダックのほうはまだ食べられたんだけどね、こっちはちょっと、獣肉によくある、独特の臭みが……」
「このままでは……ただ焼いただけでは、提供するのは厳しいということですか?」
「まあね──」
◆
数分前。
オステリカ・オスタリカ・フランチェスカ店内ホール。
「──いい機会だ。ついでにこの子も連れてってよ」
「……ええええええええええええええええええええ!?」
ガレイトとブリギットの声がホール内に響く。
「も、モニモニ……?」
「モニカさん、一体、どういうおつもりで……?」
ガレイトとブリギットがほぼ同時に、モニカに質問を投げかける。
「な~に。可愛い子には旅をさせよって言うだろ?」
「わ、私、旅なんて……」
「でも、外国の食べ物には興味あるでしょ?」
「そ、それは……そうだけど……」
「モニカさん、いくらなんでも、それは急では……?」
「べつに急じゃないよ。それにさ、こういう仕事やってると、オーナーみたいにブラブラしない限り、まともな休みもないでしょ?」
「ブラブラって……」
「ちょうど、ガレイトさんっていう心強い護衛さんもいるしね」
モニカに言われると、ガレイトはすこし間を置いて、ブリギットを見た。
「……ブリギットさんはどうしたいですか?」
「わ、私……ですか?」
「はい。たしかに、モニカさんの仰っていることも一理ありますし、俺自身も、賛成です。これから、間違いなくオステリカ・オスタリカ・フランチェスカはどんどん人気になっていくでしょう。そうなってくると、今以上にいろいろなことが経験できなくなる。だから、その前に色々なことを経験しておく……というのは、ブリギットさんのプラスになると思うのです。──ですが、最終的に決めるのはブリギットさんです」
「そう……ですよね……経験……」
ガレイトが諭すように言うと、ブリギットはしばらく押し黙り、やがてモニカを見て、口を開いた。
「モニモニは……?」
「ん、なに? あたしがどうしたの?」
「モニモニはついてきてくれないの?」
「あはは、あたしがついてってどうすんのよ。これはブリの為の旅なんだから。それに、あたしがいたら、また頼りっきりになるだろ?」
「それは……そうかもだけど……」
「だから、その旅にはあたしはむしろ邪魔なんだよ。……だけどまぁ、ブリがどうしてもイヤってんなら、あたしも無理にとは言わないけど……どうする?」
ブリギットはガレイトとモニカを交互に見ると、やがて、モニカと向かい合った。
「……行く。行きたい。ガレイトさんについてく」
それを聞いたモニカは一瞬驚いてみせると、すぐに満面の笑みを浮かべて、ブリギットの頭をガシガシと乱暴に撫でまわした。
「よく言った! 成長したね、ブリ!」
「や、やめて、モニモニ……いたいよ……」
そう言っているブリギットの顔も、どこか嬉しそうにしている。
「──よし、そうと決まったら、旅費を稼ぐために、はやく鴨熊フェアの準備に取り掛からないとね。あの熊肉を食べられるようにしなきゃ」
「旅費……ですか? いつもお世話になっていますし、ブリギットさんの旅費については、俺が負担──」
「だめだめ。ただでさえ、ガレイトさんにはまともな給料は払えてないのに、これ以上頼れないっての」
「ですが──」
「だからそのぶん、どうか、ブリのことをお願い」
強く言うでもなく、ただまっすぐにガレイトを見て言うモニカ。
ガレイトも、それ以上は何も言わず、ただ黙って頷いた。
「ブリも、料理なんかを作るときは、なるべくガレイトさんと一緒に作るんだよ?」
「う、うん……わかった──」
◆
「──ガレイトさんも、食べてみます……?」
さっきと同じ、オステリカ・オスタリカ・フランチェスカの厨房。
ブリギットはフォークで熊肉のステーキを刺すと、肉汁が零れないように、手で受け皿を作り、それをガレイトに差し出した。
ガレイトはそれを受け取ると、すこしだけ肉をじぃっと見たのち、一気に口の中へと入れた。
もぐもぐもぐ……。
「どう、でしょう?」
「うん。たしかにモニカさんの仰っていた通り、鼻の奥にツンと来る独特な香りがあります……ですが、これは許容範囲内では? むしろ、こういう原始的というか、ワイルドな味を好む方も、それなりにいらっしゃると思いますが、いちおうメニューにも独特な味だという注意書きをしておけば──」
ガレイトがそう提案すると、モニカは静かに首を振った。
「たしかに、こういう肉を好む人もいるけど……裏を返せば、この肉じゃなくてもいいんだよ」
「どういうことでしょう?」
「つまりね、臭い味を好む人は、べつに臭くない肉も食べられる。……けれど、臭くない肉を好む人は、臭い肉は食べないんだ」
「な、なるほど。たしかに臭い肉を嫌いだと言う方はいますが、臭くない肉を嫌いと言う方は、そもそも肉自体が好きじゃない方ですからね」
「そう。こっちはそういうニッチなのじゃなく、普通の人も相手に商売したいからね。それに、なるべく肉の廃棄はしたくない。店にとってもマイナスだし、なにより肉になってくれた獲物に申し訳ない。……だから、出来る限り、臭みはなくしたほうがいいの」
「となれば、どうやって臭みを消すか、という問題ですが……」
ガレイトとモニカが腕組みをしながら、小さく唸る。
「あ、あの……でも、熊さんはダメだったけど、鴨さんのお肉は大丈夫なんでしょ?」
「ああ、そうだね」
「じゃあ、臭みを消すのは後にして……先に鴨フェアだけ開催する? 生のお肉だし、このまま悩んでても……腐っちゃう……」
「いや、同時開催にしないと、今度はブリたちがヴィルヘルムに行く船に間に合わないでしょ。フェアになるとかなり忙しいから、臭い消しなんて考えてる暇もないし」
「そう、だね……。フェア中はほとんど動きっぱなしだし……モニモニも痩せちゃうし……」
「いや、あたしが痩せるのはべつに関係ないでしょ。……だから、それまでの猶予を逆算して……って、次に港から船出るのってどれくらいだっけ?」
「一週間後くらいでござる~」
ホールから厨房へサキガケの間延びした声が聞こえてくる。
「じゃあ、あと明日、明後日あたりにはなんとか食べられるようにしないとね」
モニカがそう言うと、ブリギットは小さくうなずいた。
「……酒はどうでしょうか? たしか以前、モニカさんから聞いた方法の中にありましたよね」
「あー……うん。お酒もいいんだけど……」
モニカはそう言うと、口に手をあて、サキガケには聞こえないほどの声量で話し始めた。
「……前にも言ったけど、お酒や調味料はギルドから横流し品だから、あんなに大量な熊肉を調理するとなると、調味料はともかく、お酒が全然足りないの」
「あ、たしかにそうですね。鴨鍋のほうに使いますし……」
「うん。だから、調味料やお酒に頼らない感じで、臭いを消したいんだ」
腕組みをし、さらに低い声で唸るガレイト。
「では、この前、モニカさんとイルザードが大量に摘んだ、あの野草は……?」
「あれは臭みを消すというよりも、旨味を増幅させるようなものだからね。臭みも多少は消えると思うけど……」
「厳しいですか?」
「だね。あの獣臭さまでは消せないと思う。……うーん、やっぱ臭みが消えるくらい強い味付けにするか、他の野草に頼るくらいしかないんだけど……ここらへんに生えてたかな?」
「そのうえで、大量に無いと使えないですよね……」
「──失礼」
音もなく、サキガケが厨房へと入ってくる。
「うわあ!?」
「びっくりした……!」
モニカとブリギットが声を上げる。
「失礼。……ですが、話は聞かせてもらったでござるよ」
「ど、どこから!?」
「ギルドの品を横流ししている、というところから」
「いや、ダメじゃん」
「あ、大丈夫。そのことについては誰にも言わないでござるよ」
サキガケがそう言うと、モニカはホッと胸をなでおろした。
「うん、それで? なにか用?」
「なに、すこしばかり、提言しておきたいことが……」
「提言?」
「ニン。拙者の故郷──千都でも、じつは熊肉は食べられているでござる。拙者は好きじゃないけど」
「ああ、うん。さっきも言ってたね」
「ニン。と言っても、一般的なものではござらんがな。……それでも、ある地方においては、熊肉が名物になっている所もあるのでござる」
「そうなんですね。ちなみに、どのような食べ方なんですか?」
「専ら、熊鍋でござるな」
「おなべ……」
ブリギットが小さく呟く。
「たしかに、今、ぶりぎっと殿がやっておられる熊の〝すてえき〟という食べ方も、あるにはあるでござるが……あれは、木の実や山菜だけを食べている熊の食べ方。此度の熊は、同種の熊まで食っていた肉食の熊でござるから、熊鍋にすればよいのでは、と。味噌と野菜で煮込まれた熊鍋は、それはもう絶品だと聞き及んでいるでござるよ」
「まあ、選択肢にはあるけど、熊鍋って言ってもねぇ……」
「む? 何か、問題でもあるでござるか?」
「あのね、ミソ、最近見ないの……」
勇気を振り絞って、ほぼ初対面のサキガケ相手に声を出すブリギット。
「見ないとは……?」
「この街では、食料品の流通量が制限されているのです。ですから、サキガケさんがおっしゃっておられた、〝ミソ〟というものが手に入らないものだと、ブリギットさんはおっしゃっているのかもしれません」
「なるほど。この街にも、のっぴきならない事情が……しかし、安心してほしいでござる」
「え?」
「ふっふっふ。じつは拙者、実家から大量の醤油と味噌を持ってきているのでござる」
両手を腰につき、ふんす、と鼻息を荒げるサキガケ。
「だからもし、もにか殿たちがご所望とあらば、拙者、喜んでそれらを──」
「み、ミソ……あるんですか……!?」
ブリギットが、キラキラと目を輝かせながら、サキガケの手を取った。
「あ、う、うん……あるお……」
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