史上最強の料理人(物理)~役立たずと言われパーティを追放されましたが、元帝国最強騎士なのは内緒です~

枯井戸

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懐かしのヴィルヘルム

見習い料理人とミカン喰い

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「どうしましょう、ブリギットさん」

「どうするんですか、ガレイトさん」


 アルブレヒトとアクアのいなくなった、ヴィルヘルム・ナイツ訓練場。
 ガレイトとブリギットは互いに、青い顔で見つめ合っていた。


「……もし、俺がここで失敗すれば、有り金はすべて没収され……」

「そして、私たちがガレイトさんに、お賃金を渡さないとダメなんですよね……」


 沈黙。
 そして──


「あれ?」


 ブリギットが何かに気づいたように首を傾げる。


「そもそもの話、私たちがきちんとしてたら済む話、なんじゃ……?」

「いえ、騎士団を出て数年……満足に料理も作れない俺に非があります。ブリギットさんは何も気に病む必要はありません」

「そ、そう……なのかな?」

「そうなのです」


 ガレイトが力強く言う。


「は、はぃぃ……」

「とにかく──」


 ガレイトはアルブレヒトから渡された地図と、写真付きの紙を見た。


「アクアが言っていたとおり、失敗した時のことを考えている場合ではありませんね」

「それ、ガレイトさんが言ったんじゃ……?」

「……とはいえ、まずはこのイノシシを狩らなければ」


 写真付きの紙。つまりは標的・・の手配書。
 そこには──
 ミカンのように黄色い体毛。
 下あごから鋭く伸びている牙
 そんなイノシシの写真が張り付けられていた。


「イノシシの名前は……〝クレメンタイン・エバー〟ですか」


 ブリギットがぐぐぐ……と背伸びしながら、ガレイトの手元を覗き込む。
 ガレイトはそれに気が付くと、その場に片膝をついた。


「……ブリギットさんは、この種はご存じで?」

「う~ん……」


 顎に指を当て、上を見るブリギット。


「ないかも……ですね」

「そうですか……」

「私、おじいちゃんがイノシシを使って、料理してるところは何度か見たことがあるんですけど、ここまで黄色いのは……」

「たしかに、ここまで鮮やかな色だと、まず忘れませんね……」

「あ、あの、ガレイトさん?」

「はい、なんでしょうか」

「ちなみに、このイノシシって、魔物なんですか?」

「いえ、ここに書かれている限りだと、魔物……ではないようです。ただし、注意書きみたいなのが気になりますけど……」

「なんて書いてあるんです?」


 ガレイトは手配書を持っていた指をどける。
 しかし、その部分の紙は破れていた。


「あ……なんか、破れてますね……」

「はい。ですが、読むのには支障はないようです。……えーっと、『群れの首領ドンに注意』」

「ど、ドン……ですか……」

「〝クレメンタイン・エバー〟通称、ミカン食いのイノシシ。ニーベルンブルクの周辺の土地は、水はけもいいので、ミカンの栽培に適しているのです。ですから、このイノシシの被害は無視できないようですね」

「なるほど、ミカンが……あ、そういえば、ミカンの木って背が低いから……」

「はい。簡単に食べられてしまうそうです。被害も年々増えてきているようで……さすがに見過ごせなくなったのか、こうやって、陛下の元に依頼が来たのでしょう」

「なるほどですね。……あれ、でも、王様が直々に依頼を受けてくれるんですね。なんかすごいなぁ……」


 無邪気に言うブリギット。
 対して、ガレイトはすこし眉をひそめる。


「おそらく……暇、だったのでしょう……」

「お、王様って、暇なんですか?」

「なんというか……いちおう、フォローさせていただきますと、殿下があれこれ頑張っているからだと……」

「そ、そう、ですよね。……じゃあ、いいこと、なのかな……?」


 ◇


 帝都ニーベルンブルクの東にあるヴィルヘルム・ナイツ訓練場から、さらに東。
 そこに、ミカン畑があった。
 土地の大きさはおよそ、十ヘクタールほど。
 畑はなだらかな斜面になっており、ミカンの木も等間隔で植えられている。
 そして注目すべきは、その木。
 木の上部に生えているものを除き、ほとんどが食い荒らされている状態であった。


「これは……ひどいな……」


 ガレイトが地面に転がっているミカンを拾い、息を呑む。


「──ああ、オイラたちも参ってんだ……」


 そう答えたのは、ブリギットよりもすこし年上の少女。
 髪は淡い赤毛。そして邪魔にならないよう、三つ編みに縛っている。
 服装はオーバーオールのような作業着に、頭には麦わらでつば広の帽子。
 少女は時折、額から垂れる汗を、日焼けした前腕で拭っていた。


「……けんど、まっさか、国の英雄であらせらるる・・ガレイトさんが来てくれるとはねえ。こりゃもう解決したも同然だなあ!」


 ガッハッハッハッハ!
 そう言って、少女は豪快に笑った。


「ところで、オレンジ・・・・さん。この畑の代表者はどこに……?」

「ん? ああ、父ちゃんなら、まだそこらへんで作業してると思うべ」

「作業……ですか?」

「んだ。まあ、作業っつっても、食い荒らされたミカンの後片付けなんだが……」

「そこへ案内してもらっても?」

「構わねえだ。オイラより父ちゃんのが詳しいからな。けんど……」


 オレンジと呼ばれた少女はそう言いかけて、ぽりぽりと頬を掻いた。


「どうかしましたか?」

「いや、いいや。……ついてきな、案内するよ」


 さくっ。さくっ。
 青々と茂っている草を踏み鳴らし、ミカンの木をかき分ける。
 ガレイトたちは、すいすいと先を歩くオレンジのあとに続いた。


「ほれ。あそこに見える頑固そうなおっさんが父ちゃんだ」


 オレンジの指さした先──
 そこには、オレンジと同じような格好をした、しかめっ面で、初老の男性がいた。
 身長はそこまで高くはないが、体型はがっしりとしている。
 男性は大きな籠を背負っており、その中に食い荒らされたミカンを入れていた。


「おーぅい! 父ちゃーん!」


 ブンブンブン。
 オレンジが大声をあげながら、大きく手を振る。
 男性は、ガレイトたちに気が付くと、ゆっくりと歩いてきた。


「……こちら、オイラの父ちゃんの、マンダリン」


 オレンジは、隣にいるマンダリンと呼ばれた男性を指さす。
 マンダリンは相変わらずのしかめっ面のまま、うなずいた。


「あっはは……すまねぇなぁ。父ちゃん、見ての通り、口下手でさぁ。あまり人と話すのは得意じゃねんだぁ」

「ああ、なるほど……」

「……まあ、オイラが通訳すっから、大丈夫だよ」


 そう言ってガッハッハとまた豪快に笑うオレンジ。


「あの、はじめまして。俺はガレイトと言います。そして、こちらの方は──」


 カッ!
 ガレイトの名を聞いた瞬間、マンドリン目が大きく開かれた。

 ズン! ズン!
 マンダリンはそのまま、大股でガレイトに近づいて行くと──
 ギュッ。
 ガレイトの手を両手で強く握った。


「え? えーっと……」

「ガレイトさん、父ちゃんはな、ガレイトさんのふあん・・・なんだよ」

「ふあん……」

「そ。だっから、こうやってガレイトさんが来てくれて、興奮してるみてぇだな」

「そ、そうでしたか。ありがとうございます……」


 こそこそ。
 マンダリンがガレイトの手を離し、オレンジに耳打ちをする。


「……なにか?」

「あの、たびたびすまね。ガレイトさん」

「は、はい」

「父ちゃんがあとでサインくれってよ」


 オレンジの横で、マンダリンがしかめっ面のまま、頬を赤くする。


「さ、サイン……ですか……」


 ガレイトが呆気に取られていると、その隣にいたブリギットが一歩前に出た。


「あ、あの、えっと……ブリギット……です。よろしくお願いします!」


 カッ!
 ブリギットの名を聞いた瞬間、マンドリン目が大きく開かれた。


「ひぇっ!?」


 ブリギットが途端に涙目になり、ガレイトの脚にしがみつく。
 ぐるぅり!
 マンダリンはそのまま、ゆっくりとブリギットのほうを向き──


「ぴ、ぴぎゃあああああああああ!? たたた、食べないでぇえええええええ!!」


 ギュッ。
 ブリギットの手を両手で優しく握った。


「……へ?」


 こそこそ。
 マンダリンはブリギットから手を離すと、またオレンジに耳打ちをした。


「え? え? なに? なんですか? 私、どうなっちゃうんですかあ!?」

「あー……すまね。いきなり驚かせちゃってよ」


 オレンジがそう言うと、マンドリンと一緒に頭を下げた。


「……あんた、ブリギットさんなんだってな?」

「は、はぃぃ……」

「あの、どこかでお会いしたことが……?」


 ブリギットの代わりに、ガレイトがオレンジに尋ねる。


「いんや。会ったことはねえが……えーっと、おす……おす……ふら……なんだっけ?」

おす・・? ふら・・? ……もしかして、オステリカ・オスタリカ・フランチェスカのことですか?」

「……な、なんでいまのでわかっちゃうの?」


 ブリギットが小さくツッコむ。


「そだ。その……雄鶏おんどり雌鶏めんどり・炊き込みご飯……」

「オステリカ・オスタリカ・フランチェスカ」

「そう、それ。とにかく、その店のブリギットさんだろ?」

「はい、そうですが……お会いしたことがないのに、なぜブリギットさんのことを……?」

「そりゃ、ダグザさんと知り合いだからだよ」
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