史上最強の料理人(物理)~役立たずと言われパーティを追放されましたが、元帝国最強騎士なのは内緒です~

枯井戸

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懐かしのヴィルヘルム

見習い料理人と元最強騎士

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「どうしましょう、ブリギットさん」

「どうするんですか、ガレイトさん」


 互いに顔を見合わせる二人。


「一週間って……それじゃあ、帰るのに間に合わないんじゃ……?」

「……はい。少なくとも、待ち伏せという作戦が使えなくなった以上、いますぐにでもその巣へ向かわなければ……!」

「で、でも、どこにあるかわかりませんよね……巣」

「そうだった……!」


 ドシャア!
 ガレイトが苦悶の表情を浮かべ、その場に片膝をつく。


「くっ……! ということは、この一帯をくまなく探すしか……!」

「わ、私もお手伝いします……! 毎日水しか飲めないガレイトさんなんて、見たくないから……!」

「ぶ、ブリギットさん……!」

「──あ、すまね」


 そんな二人のやり取りを見ていたオレンジが口を挟む。


「その続きをまだ話してなかっただ」

「つ、続き……ですか?」

「んだ。前回のイノシシの襲撃がたしか……六日前だから、たぶん、イノシシがまた来るのは、明日の夜から朝にかけてだな」

「あ、明日か……」

「よかった……待ち伏せできますね」


 オレンジの話を聞いた二人は、共に胸をなでおろした。
 こそこそこそ。
 マンダリンがオレンジに耳打ちをする。


「うん、うん……そだな、父ちゃん」

「あの……マンダリンさんは何を?」

「……なんか、ガレイトさんたちも訳ありなんだろ?」

「は、はい……」

「それに、色々と準備も必要だろうし、とりあえず、今日の所は帰ったらどうだって」

「よろしいのですか?」

「んだ。いくらガレイトさんでも、いきなしこんな依頼を押し付けられちゃ、対応しきれねだろ?」

「そ、そうですね……恥ずかしながら……」

「……ま、実際、巣も知らねんじゃ、明日んなんねと対処できねしな。んだから、今日ん所は……」

「……わかりました。知り合いに、動物や魔物に詳しい方がいらっしゃいますので、明日までには必ず、その対処法を考えておきます」

「ん。よろしく頼むよ。オイラたちはガレイトさんだけが頼りだかんな……」


 うんうん。
 その隣で、マンダリンもしかめっ面のまま、強くうなずいた。


 ◇


 黒と橙とが混ざる、夕刻の帝都。
 その大通り。
 みちの両端には、等間隔に設置されている街灯が、ぼんやりと光を放っている。
 色とりどりの菓子を取り扱っている店。
 メニューが書かれた立て看板。
 そして、そのメニューを提供しているレストラン。
 紳士服を取り扱っている店。
 婦人服を取り扱っている店。
 装飾品を取り扱っている店……等々。
 そこでは、様々な店が軒を連ねていた。
 しかし、そんな活気のある場所に、のぞき穴の開いた麻袋・・・・・・・・・・をかぶった大男がひとり。
 ガレイトである。
 彼はその奇怪な出で立ちで、すれ違う人々の奇異な視線を独り占めにしていた。
 そして、そんなガレイトと、はぐれないように手を繋いでいる少女がひとり。
 ブリギットである。
 彼女は目を伏せ、なるべく誰とも目が合わないよう、努めていた。


「……うまくいきましたね。これで誰も、俺を俺と認識できません」


 シュコー。シュコー。
 ガレイトが言葉を発するたびに、口元の袋がぺこぺこと凹凸を繰り返す。


「う、うまくいってる……のかな……?」


 ブリギットは依然、足元の石畳に視線を落としながら言う。


「どうかしましたか、ブリギットさん? お腹でも痛いのですか?」

「え、えっと、やっぱり失敗だったんじゃないかなって……」

「失敗……ですか?」

「は、はい……ガレイトさんだってバレてないけど、みんな、すごい見てるでしょ?」

「しかし、実際こうやって、誰も寄り付いていませんが……」

「そ、そうかな……そうだね……」


 ブリギットはガレイトを説得することを諦めた。


「あ、あの、ところでその、〝グロースアルティヒ〟はまだ……?」

「はい、もうすぐですよ。大通りを過ぎたところにある広場にありますので。あのあたりはお店も多いですが、それでも人が多いので目立つかと──」

「あっ、じゃあ、もしかして、あれ……かな?」


 あまり言葉を交わしたくないのか、ブリギットが慌てて前方を指さす。
 大通りを抜けた先、大きな丸い広場となっているその一角。
 白塗りの外壁に、茶色い窓枠が印象的な、五階建ての大きな建物。
 最上階は屋根裏部屋になっているのか、特徴的な三つの三角屋根がある。


「ああ、そうですね。あそこがここ、帝都ニーベルンブルクで一番のレストランと言われている、〝グロースアルティヒ〟です」

「す、すごい……! うちと全然ちがう……!」

「え……?」


 さきほどまでの陰鬱な表情はどこへやら。
 ブリギットは目を輝かせながら、そのレストランの外観に魅入っている。


「ガレイトさん、早くいきましょう!」


 ブリギットがぐいぐいと、ガレイトの手を引っ張って催促する。
 そんな彼女を微笑ましく思ったのか、ガレイトも目を細めて、楽しそうに笑った。

 麻袋をかぶった大柄の変質者と、その手を引っ張る少女。
 通行人たちの反応は、言うまでもなかった。


「いらっしゃいま──せッ!?」


 グロースアルティヒの店内。
 等間隔に置かれた六人がけのテーブルに、真っ白なテーブルクロス。
 壁には絵画や写真などがかけられている。
 店内には蝶ネクタイや白いシャツ、黒いベストを着たウエイターたち。
 そして、さきほど奇声を発したのは会計係の男性。
 男性はガレイトを見るなり、大量の汗をかきながら固まってしまった。
 店内のウエイターたちも、客も、ガレイトを見るなり、固まっていく。


「すみません。予約はしていないのですが……今日、ここで食事することは……」


 ガレイトが男性に話しかけるも、男性はうんともすんとも言わない。
 それどころか、ピクリとも動かない。


「あ、あの……すみません、こちらで食事をしたいのですが……」

「が、ガレイトさん、ガレイトさん」


 くい、くい。
 ブリギットがガレイトの手を引っ張る。


「なんでしょうか、ブリギットさん」

「顔! 顔!」

「へ? ……ああ」


 ブリギットに指摘され、ガレイトはようやくその麻袋をとった。
 そして、その男性は二度、瞬きをすると──


「こ……これはこれは……! ヴィントナーズ様ではありませんか!」

「す、すみません、驚かせてしまいまして……」

「いえいえ、滅相もありません。驚いたほうが悪うございます」

「そんなはずは……」

「──そんなことよりも、噂は本当だったようですね」

「噂ですか?」

「ええ、はい。団長が戻ってきている、と」

「いえ、もう、団長ではないのですが……」

「おや、そうでしたか?」


 こほん。
 男性は小さく咳ばらいをすると、改めてガレイトに向き合った。


「それはそうと、本日はどのようなご用件で?」

「ああ、すみません。食事をしに来たのですが……」

「何名様で?」

「五人です。もうすこししたら、残りの三人も来ると思うのですが……」


 ちょいちょい。
 男性がウエイターのひとりを手招きする。
 ウエイターはゆっくりと、それでいて素早く、男性の元へと駆け付けた。


「……現在の空きは?」


 男性がこそこそとウエイターに耳打ちをする。


「そ、それが……どの席も満席でして……」

「……ふむ」


 男性はそれだけ聞くと、手元にあった黒い革が表紙の本をパラパラとめくった。
 次に、卓上にあるペン立てからペンを抜き取ると、ササッと二重線を書き足した。


「ちょ!? ななな、なにしてんですか……オイゲンチーフ!」


 ウエイターがオイゲンと呼んだ男性の腕を掴む。


「なにって、予約を取り消しているのだが……?」

「『予約を取り消しているのだが……?』じゃないですよ! オイゲンチーフもご存じでしょう?」

「なにをだ?」

「この店の予約をとるのがどれくらい大変かですよ……!」

「ああ、そうだ」

「ああ、そうだって……わかっているのなら、なぜこのようなことを……」

「逆に、考えてみてくれ」

「逆に……?」

「そんな大変な思いを、ヴィントナーズ様にさせていいと思うのか?」

「……ダメですね」

「だろう?」

「はい。消しましょう消しましょう」


 ウエイターがオイゲンの腕から手を離す。
 オイゲンは、そのページに記載された名前を、黒く塗りつぶした。


「ちょ、ちょっとちょっと、一体何を……?」


 今度はガレイトが慌てて止めに入る。
 その傍らでは、ブリギットがポカンと口を開けていた。


「あっはっはっは」

「いや、なにを笑っているんですか!?」

「いいのですよ、ヴィントナーズ様」

「なにがですか!?」

「国の英雄でもあらせられるヴィントナーズ様に、予約などは必要あるとお思いですか?」

「思いますけど」

「でしょう? ですので、席も今すぐご用意いたしますので、少々お待ちを──」

「話を聞いてくださいよ! ……というか、それなら帰ります!」

「な、なぜですか……!? 何がお気に召さなかったので……?」


 そう言って、ぷるぷると震えるオイゲン。


「いえ、他の人の予約を取り消してまでは結構です! 他の店にするので!」

「そ、そんな殺生な……!」

「殺生みたいなことをしてるのはあんたでしょう!」

「上手い! さすがヴィントナーズ様!」

「なにが!?」


 パチパチパチ。
 オイゲンが拍手をするや否や、店内のウエイターたちもつられるように手を叩く。


「──おいおい、なんなんだ、この騒ぎは」


 不意に、ガレイトたちの後ろから声が聞こえる。


「す、すみません。お騒がせしてしまって……すぐに移動す……」


 ガレイトは頭を下げながら、振り向くと──そのまま固まってしまう。


「おいおい、なんだ。デケェ野郎がいると思ったら……ガレイトじゃねえか。久しいだな」

「え、エルロンド……団長・・!?」
────────
明日の更新はすこし遅めの22時の予定です。
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