史上最強の料理人(物理)~役立たずと言われパーティを追放されましたが、元帝国最強騎士なのは内緒です~

枯井戸

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懐かしのヴィルヘルム

見習い料理人と英雄の孫

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 夕暮れ時。
 レストラン、グロース・アルティヒの入り口前。
 そこに黒いコートを着た、赤髪の少年がいた。
 年の頃は十六から十八歳ほど。
 身長は一七〇センチほどで、すこし痩せ気味。
 髪はくせ毛のようなウェーブがかかっている。
 少年はしきりに胸ポケットから懐中時計を取り出しては、辺りを見回していた。
 そこへ──


「……待たせたな」


 コフー……コフー……。
 息苦しそうに息をする、麻袋をかぶったガレイトが現れた。
 ざわざわ。
 広場の人間の視線が、一斉にその二人に集まる。


「いえ、こちらもさきほど着いたところですよ……お爺さ……ま……?」


 少年はガレイトを見上げるなり、その場で固まってしまった。


「久しぶりだな。アクレイド」


 ガレイトは自身がアクレイドと呼ぶ、赤髪の少年に声をかける。
 アクレイドはそれには答えず、ただじっとガレイトの顔を見ていたかと思うと──


「だ……誰だ!? 貴様は……!!」


 即座に後方へ飛び退いて、ガレイトから距離を取った。
 そしてすぐさま腰に手を持っていくが──


「くそ……! 剣が……!」

「……ふむ、なにやらわからんが、その跳躍力……日々、鍛錬は怠っておるんようだな、アクレイド」

「……き、貴様、卑怯だぞ、このような町中でボクを狙うとは……!」


 アクレイドはそう言うと、ガレイトを睨みつけた。


「おい、落ち着けアクレイド。……エルロンド殿から、なにも聞かされていないのか?」

「貴様のような変態が来訪するなど知らされていない!」

「変態って……」

「そ、それに、お爺様がなんだと言うんだ! 関係ないだろう!」

「いや、関係はあるんだが……」

「と、とにかく、名を名乗れ! 貴様を見逃すのも捕縛するのも、その後だ!」

「ガレイトだ。ガレイト・ヴィントナーズ」

「う、嘘をつくな! あのような方が、貴様のような変態なわけがなかろう!」

「……そんなにダメなのか? この変装……?」


 ガレイトは麻袋をわしゃわしゃと撫でて呟く。


「よかろう……ガレイト殿の名を騙る卑怯者には、剣などは不要。我が徒手空拳にて葬り去ってくれる……!」


 アクレイドはコートを脱ぎ捨てると、シャツ一枚になり、こぶしを固めた。


「おいおい、やめろ、アクレイド……これ以上、騒ぎを大きくするんじゃない」

「どの口で言っているんだ! それに、ボクの名を気安く呼ぶんじゃない……! 覚悟──」

「ガレイトさん、何をやっているんですか。こんなところで」

「い、イルザード……隊長殿?」


 どこからともなく、突然ひょっこりと現れるイルザード。
 その登場に脱力し、目を丸くして驚くアクレイド。


「い、いつ、ニーベルンブルクへお戻りに……?」

「うん? ……ああ、アクレイド……殿か。一昨日ですよ」

「そ、そうなのですね。……しかし、訓練所でも先日の会合でも、お見掛けしていなかったような……」

「まぁ、便所掃除をしていましたから」

「べ……お手洗い清掃!?」

「わざわざ言い直すのだな」


 話を聞いていたガレイトが冷静にツッコミを入れる。


「ええ、それも勅令での便所掃除でしたので」

「王直々に命じられたお手洗い清掃!?」


 アクレイドは広場に響き渡るほどの大声を発すると、ひとり俯き、顎に手をあてた。


「そんなバカな……いやいや、よく考えろアクレイド。相手はあのイルザード隊長殿だ。騎士たるもの、物事の裏の裏、その真意まで読まなければ……この場合、勅令であるのは本当の事だとして、問題は〝便所〟という言葉を使った事の意図……隠語である可能性は十分高いが、それが何を示しているのかは──」

「……相変わらずのようだな、アクレイドは」


 ひとりブツブツと呟くアクレイドを尻目に、ガレイトが口を開く。


「バカ真面目なボンボンぷりは相変わらずですけどね」

「……それで、今日のぶんの便所掃除は終えたのか?」

「ええ、そりゃあもう。今頃、必要以上にピッカピカですよ、王城の便所は」

「は? どういうことだ?」

「……明日、また怒られると思います。王に」

「何をやったんだ、おまえは……」


 ガレイトが腰に手をあて、ため息を吐く。


「それよりも、いきなりアクレイドと打ち解けられているじゃないですか。……よかったですね、ガレイトさん」

「おまえには、これが打ち解けているように見えるのか?」

「見えませんが?」


 ゴツン。
 ガレイトのこぶしがイルザードの脳天に直撃する。
 イルザードは涙目になりながら、ガレイトを睨みつけた。


「……ていうか、その麻袋はやめたほうがいいんじゃないですか?」

「ああ、じつは俺もやめようと思っていたところ……なんだが……」

「どうかしたんですか?」

「他に代案がなくてな」

「いや、たとえば顔を隠すだけでしたら……まぁ、いいです」

「なんなんだ」

「ところでブリギット殿が見当たりませんが……ここにはおられないのですか?」

「ああ、ブリギットさんなら──」


 ガレイトはそう言うと、建物の陰になっている部分を指さした。


「あそこだ」

「ああ、あんなところに……」


 ブリギットはそこで隠れるようにして、ガレイトたちの様子を窺っていた。


「なぜか、あまり連れだって歩きたくないと言われてな。少し困っているんだ」

「……反抗期なのでしょう」

「反ッ!? ……抗期って、俺に反抗しているのか?」

「まぁ……そうでしょうね。おそらく。十中八九」

「お、俺に……反抗? 嬉しいような、寂しいような……しかし、それはそれでブリギットさんが成長したという見方も……だが、俺を……なんで俺?」


 ブツブツと呟くガレイトと、まだ考え込んでいるアクレイド。
 イルザードは二人を見ると、つまらなさそうに眉をひそめた。


「ちょ、ちょっとイルザード殿、歩くのはやいでござ……」


 イルザードの登場からすこし遅れて、サキガケとカミールが姿を現す。
 サキガケはガレイトとアクレイド、そしてブリギットを見て、口を開いた。


「……なんでござる? この状況?」

「さあ?」


 ◇


 レストラン、グロース・アルティヒ。
 その店内は昨日と同じく盛況で、空席がひとつもない。
 ガレイトたちは六人がけのテーブル席に座り、料理の登場を待っていた。

 じぃ……。

 そんな中、アクレイドがガレイトの顔を無言のまま見つめる。
 ガレイトは視線を逸らしたり、水を飲んだりしていたが──


「……ひ、久しぶりだな、アクレイド」


 やがて、おもむろにアクレイドに声をかけた。


「はい。お久しぶりです、ガレイト・ヴィントナーズ団長殿」


 アクレイドは一切ガレイトから視線を逸らさずに答えた。
 その声色は淡々としており、感情は読み取れない。


「あー……元気か?」

「おかげさまで」

「訓練はどうだ? きつくはないか?」

「はい」

「部下たちはきちんとしているか?」

「はい」

「飯は……」

「はい」

「……最近、どんな感じだ?」

「どう、とは?」

「元気かなと」

「それはさきほどお答え致しました」

「お、おう……なんか、わるかった……」

「いえ」


 アクレイドの最低限の受け答えに、ガレイトが固まってしまう。
 その場にいた他の四人も、その空気を察したのか、同様に押し黙ってしまう。


「えーっと……そういえば、アクアから聞いたぞ。俺の料理の試食係をやってくれるんだってな」

「はい」

「やはりか。……てっきり、アクアがまた嘘でもついているのかと思っていたが、引き受けてくれたんだな」

「どうしても、と言われましたので」

「そ、そうか……それでも嬉しいよ。ちなみに、料理だが、あの頃と比べて多少はマシになっているから、それなりに期待してくれていい」

「はい」

「……あー……それとー……」

「それよりも、お爺様は……?」

「ああ、エルロンド殿ならなにか用事があると言っていたな」

「用事……ですか?」

「本当に何も聞いていないのか?」

「はい」

「いや、変な訊き方をしてしまったな。……とにかく、心配する必要はない」

「はぁ……」

「俺も詳しくは知らんが、そこまで大事な用ではないらしい」

「そうですか……」

「あ! いや! どうだろうな。アクレイドとの飯をキャンセルするくらいだから、それなりに大事な用事だったのかもしれん!」

「……気を遣っていただかなくても大丈夫ですよ」

「そ、そうか……」

「それで、ガレイト・ヴィントナーズ元団長殿たちがなぜ?」

「ああ、エルロンド殿がキャンセルしようとしたついでだ。たまたまそこに居合わせていてな……」

「なるほど」

「……いまの説明で理解できたのか?」

「大体は」

「そういえば、すんなりとこの人数でも予約が取れたが……エルロンド殿とアクレイドの他にも、誰か来る予定はあったのか?」

「いえ、僕とお爺様の二人だけです」

「そ、そうか」


 再び、ガレイトたちのテーブルだけが沈黙に包まれる。


「あ、あの、がれいと殿?」


 サキガケが手をあげてガレイトの顔を見る。


「こちらの方が、えるろんど殿のお孫さんの……?」

「ああ、はい。アクレイ──」

「アクレイド殿」


 ガレイトの言葉を遮るようにして、イルザードが発言する。


「いい加減、切り替えたらどうです?」

「イルザード隊長殿……? 切り替えろとは?」

「大好きなガレイトさんが突然、料理人になるって言ってムカつくのはわかります」

「なっ!?」

「ですが、いつまでもそんな態度を取っているのは、さすがに幼すぎ──」

「だ、だれが大好きですか! だれが!」


 アクレイドは顔を真っ赤にして、大声をあげながら立ち上がった。
 店内のウエイターや客が、一斉にアクレイドを注視する。
 アクレイドはハッなって我に返ると──
「す、すみません……」
 と謝罪し、取り繕うように、静かに着席した。
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