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懐かしのヴィルヘルム
見習い料理人と反逆者
しおりを挟む「──失礼、取り乱しました。……あの、皆さん」
アクレイドはこほんと咳払いをすると、テーブルにいた全員の顔を見る。
「ひとつ、付け加えさせていただきますが、僕は決して、ガレイトさ……ヴィントナーズ元団長殿が好きだとか、そういうのはないですから。というか、そもそも、なんとも思っていませんので」
「すきなんだ……」
「がれいと殿は人気でござるな……」
ブリギットとサキガケがそれぞれ小声で呟く。
しかし、それを聞いたイルザードは挑発するような感じで続ける。
「まぁ、ガレイトさんが騎士を辞めて、団内で一番へこんでいたのはアクレイド殿だったからな」
「へこんでいませんが!?」
「おや、そうでしたか?」
「勿論ですとも」
「なら、その後、一週間ほど自室に引きこもって、エルロンド殿に叱られていたのは……どこのアクレイドでしたか?」
「そ、それは……!!」
「──その辺にしておけ、イルザード。そもそもの話、俺が無責任に自分の仕事を放棄したのがすべての元凶だ」
ガレイトはそこまで言うと、改めてアクレイドのほうを向いた。
「……すまなかったな、アクレイド」
「ガレイトさん……」
ガレイトはそう言うと、軽く頭を下げた。
「せめて一度、きちんと話し合ってから辞めるべきだった」
「……いえ、僕は気にしていませんので」
アクレイドはそう言って、ガレイトから視線を逸らした。
「ちなみに、一週間自室に引きこもっていたのは、ヴィントナーズ元団長の料理を食べたからです」
「あ、ああ、そうだったのか……すまなかった。でも、いちおう食べてはくれたんだな……」
ガレイトは引きつったような苦笑いを浮かべた。
◇
すっかり陽が暮れた、夜のニーベルンブルク。
グロース・アルティヒの前。
そこにレストランで食事を終えたガレイトたちが居た。
「……ヴィントナーズ元団長」
アクレイドが、帰路に着こうとしていたガレイトに話しかける。
その頭には相変わらず、麻袋がかかっていた。
「なんだ?」
「その、明日の会場についてはご存じですか?」
「会場?」
「はい。料理の……」
「ああ、そういえば詳しくは聞いていなかったな。てっきり城でやると思ていたのだが……違うのか?」
「いえ、会場は野外訓練場横に併設されている、野外炊事場で行うそうです」
「ああ、あの、ミカン畑へ行く途中の──」
「はい。それと、その二人には、使いの者がすでに場所を伝えているはずです」
「それも知っていたのか」
「ええ、皇帝陛下よりそう聞き及びました。『もしガレイトに会ったら伝えておけ』と。おそらく、ご自宅のほうにも、通知の文は届いているはずかと……」
「そうか。……なにからなにまで、悪いな」
「いえ、それは僕ではなく皇帝陛下に……」
「……だが、なぜ外でやるんだ?」
「それは──」
「外なら、そのまま吐いても大丈夫だからじゃないですか?」
イルザードがその会話に参加してくる。
「いや、そんなはずが……」
ガレイトはそう否定しかけて、口をつぐむ。
「……本当なのか? アクレイド」
「い、いえ、それは僕にもわかりません」
「むぅ……」
ガレイトは腕組みをすると、低く唸った。
「ただ……」
「ただ?」
「皇帝陛下は……いつもよりどこか、楽しげでした」
「……そうか」
「とにかく、場所はお伝えしましたので、僕はこれで……では、ヴィントナーズ元団長、また明日……」
アクレイドはそれだけ言うと、軽く会釈をし、そのまま立ち去ろうとした。
「ああ、また明日……」
ガレイトはそう言って、手をあげかけて──口に手を添える。
「……アクレイドォ!」
ガレイトが大声でアクレイドを呼び止める。
アクレイドはすこし驚いたような表情を浮かべ、振り向いた。
「は、はい……! なんでしょうか……!」
「明日は楽しみにしてくれていい! とびきりの料理を馳走してやる!」
「……わかりました。楽しみにしています」
アクレイドはほんのすこしだけ笑うと、そのまま再び歩き始めた。
「……いいんですか? そんな大見得切っちゃって?」
イルザードがガレイトに尋ねる。
「ああ」
ガレイトはアクレイドの背中を見送りながら答えた。
「自信、あるんですか……?」
「まあな」
「……それとも、自分の尻に火をつけるために言ったんですか?」
「いらんことを訊くな。……まぁ、どっちもだな」
「へえ、じゃあ本当に自信あるんですね。……私も食べにいこっかな」
「おまえは便所掃除だろう」
「ええ~? そんな~……」
ダダダダ……!
石畳を大勢の人間が踏み鳴らす音。
いつの間にか、ガレイトたちは武装した兵に囲まれてしまった。
イルザードとサキガケは姿勢を低くし、即座に臨戦態勢に入る。
ガレイトはブリギットとカミールをかばうようにして、一歩前へ進んだ。
「……こんな時間に何の用だ?」
ガレイトがそう言って、兵のひとりを睨みつける。
「が、ガレイトさん……!」
ブリギットが心配そうに、ガレイトの服の裾を引っ張る。
「大丈夫です。ブリギットさ──」
「あ、あの……その、麻袋……!」
ブリギットがおそるおそる、ガレイトの麻袋を指さす。
「え?」
「それで、憲兵さんに通報されたんじゃ……」
「そ、そんなバカな……! こんなに風通しが悪いのを我慢しているのに……!」
「か、風通し……? でも、それ以外考えられないし……」
「し、仕方ない……ですね。誤解を解くためには、もう脱ぐしか──」
「ヴィントナーズ元団長殿」
兵のひとりが口を開く。
ガレイトは麻袋から手を離すと、もう一度、兵の顔を見た。
「……なんだ。俺を知っているのか」
「はい。もちろんです」
「なら、この騒ぎはなんだ? 俺たちは今から……」
「失礼ですが、そこを退いていただきたい」
「なんだと?」
「私たちは貴方に用はありません」
「なら誰に──」
ダッ──!
イルザードが兵の頭上を飛び越え、一目散にその場から走り去った。
「逃げたぞ!」
「追え!」
「逃がすな!」
兵はそれぞれ声をあげると、そのままイルザードの後を追った。
ガシッ。
ガレイトは兵のひとりの肩を掴むと、そのまま尋ねる。
「なんなんだ、この騒ぎは? イルザードが何かしたのか?」
「え? ご存じないのですか?」
「なにをだ」
「イルザード隊長殿が、城のトイレをすべて破壊したのです」
「は?」
「そのせいで城は大混乱で……」
「そ、そうか……引き留めて悪かった……」
兵はガレイトに会釈すると、そのまま走り去っていった。
「……野外になった理由、わかりましたね」
ブリギットがそう言うと、ガレイトは手で顔を覆った。
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