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呼び出し
しおりを挟む今日はもう何事もなく1日が過ぎていく予定だった。
だって、陸がいないんだから。
力を使える相手がいない状況で美紀が動くとは思っていなかった。
「あんたたち、ちょっと来てくれる?」
だから、放課後になって美紀に声をかけられたとき正直驚いてしまった。
咄嗟に夢へ視線を向けると、夢は愛子と靖に挟まれてしまっていた。
これは行くしかなさそうだ。
他のクラスメートたちはいつものように見てみぬふりを決め込んでいて役に立たない。
先生はとっくに教室を出て行ってしまっていた。
美紀たちに連れられて来たのは校舎裏だった。
ジメジメと湿っぽく、花壇は手入れされずに枯れた花がそのまま放置されている。
その花を見ているとまるで自分と夢を見ているような気になって、胸がチクリと痛んだ。
そしてすぐに考えなおす。
確かにあたしたちは数日前まで枯れた花同然だったかもしれない。
でも今は違う。
『恐怖アプリ』のおかげで自分たちの足でしっかり立つことができている。
だからあたしはまっすぐに美紀を見つめることができた。
美紀はあたしの視線に一瞬戸惑ったようだけれど、すぐに睨み返してきた。
「なにその目。生意気なんだけど」
そう言ってあたしの肩を押す。
体のバランスを崩したが、すぐに両足で踏ん張った。
そしてまた睨み返す。
と、その時だった。
美紀があたしへ手を伸ばしてきたかと思うと、鞄を奪い取っていたのだ。
まさか鞄を奪われるとは思っていなかったから、油断していた。
「なにすんの!」
すぐに声を上げるが、美紀は鞄を開けると中身を地面にぶちまけた。
そしてふみ付ける。
それを見た靖と愛子が同じように夢の鞄を奪い取り、逆さまにして中身をぶちまける。
まるで物まねするように汚れた靴でそれを踏みつけ始めた。
「あたしの彼氏を笑った罰」
美紀はおかしそうに笑いながら言うと、ポケットからタバコを取り出して火を付けた。
慣れた手つきで一服吸うと、あたしの教科書の上に落とす。
燃え移るかと思ったが、幸いタバコの火はすぐに消えてくれた。
でも、教科書には数ページ分、黒い穴が空いてしまった。
他の2人も楽しげに笑いながら教科書やノートを踏みつける。
愛子が布製のペンケースが踏みつけられた瞬間、中でペンが折れる音がした。
それが楽しいのか、愛子は必要にペンケースを踏みつけた。
中でどれだけボロボロになっているのか想像にたやすい。
あたしと夢は黙ってその様子を見ていた。
やり返したら何倍にもなってやり返されるとわかっていたから。
それに、今のあたしにはやはり余裕があった。
今日は陸がいないことが一番大きい。
あたしたちは今日は蹴られたり殴られたりすることはないはずだ。
やぱり、肉体的に痛いのはキツイ。
何日も腫れが引かないときもあるし、制服は汚れてしまうし、いいことはひとつもない。
「ほんっと、お前らが人の彼氏笑うとかあり得ないんだけど?」
「ごめんなさい……」
美紀の言葉にうなだれて謝る。
夢もさっきからうつむきっぱなしだ。
「謝るなら最初から笑ってんじゃねぇよ!」
美紀は怒鳴ると同時にあたしの文房具を蹴りあげた。
それらは空中を舞い、花壇へ落ちて土まみれになってしまった。
最後には文房具に唾を吐きかけられて、3人は帰って行った。
「あ~あ、ボロボロになっちゃったね」
あたしは夢の教科書を拾いながら言う。
夢はどうにか体を起こしてあたしの教科書を拾い集めてくれた。
「次は美紀だね」
あたしは片付けをしながら短く言った。
なんの感情もこもっていないような声色になったけれど、本当は怒りの炎で燃えている。
夢は一瞬片付ける手を止めてあたしを見た。
そして笑う。
「それ、いいね」
「詳細はあたしが決める」
あたしの言葉に夢は頷いた。
「わかった。明日、また楽しみにしてるから」
夢の言葉にあたしは大きく頷いたのだった。
☆☆☆
家に戻るとリビングから「おかえり」と、お母さんの声が聞こえてきた。
あたしはそれに返事をせず、リビングに顔を出すこともなく自室へと向かった。
花壇でこけてしまったから、制服が汚れている。
こんな姿を見せるとまたなにを言われるかわからないからだった。
しかしあたしは自室へ戻ると着替える前にスマホを取り出していた。
「次は美紀の番だ」
小さく呟き、D組の集合写真から美紀の写真をアプリにUPする。
『UP完了しました』
その赤文字を見て、あたしはゆっくりと口角をあげたのだった。
☆☆☆
イジメの主犯格は美紀だ。
美紀には他の3人よりもずっと苦しんでほしいと願っている。
そのためにはどうするべきか……。
「靖子!」
翌日、D組に入ると同時に夢が駆け寄ってきた。
目が期待に満ちて輝いている。
「おはよう夢」
「昨日アプリを使ったんでしょう?」
夢の言葉にあたしは周囲を確認してから頷いた。
「なんて記入したの?」
「それは秘密」
口に指を当てて言うと夢は唇を尖らせた。
「どうして? 教えてくれたっていいじゃん」
「夢にはびっくりしてほしいからダメ」
「そんなこと言って、アプリが関係しているかどうかわからなかったらどうするの?」
夢は不服そうだ。
でもあたしは終始笑顔だった。
昨日記入した内容なら、きっとアプリが関係しているとすぐにわかるはずだから。
「まぁ、その時になったらわかるから待ってなよ」
あたしは自信満々にそう言ったのだった。
☆☆☆
夢との会話を終えて自分の席へ向かうとタイミングよく美紀が近付いてきた。
片手にはパックのいちごミルク。
それを飲みながら教室を歩いていた美紀があたしに気がついた。
ジトッとした視線を送ってきた美紀はなにかを思いついたのか、不意にあたしの机へと向き直った。
嫌な予感がしたその時、美紀は持っていたジュースを逆さまにしてあたしの机にこぼしたのだ。
「あっ!」
咄嗟に駆け寄るといちごミルクの甘い香りが漂っている。
クラスのどこからか笑い声も聞こえてきた。
「ごめーん、手がすべっちゃった」
ヘラリと笑って言う美紀を、思わず睨む。
すると美紀は一瞬で険しい表情に変化して「なにか文句でもあんの?」と、詰めよってきた。
あたしは数歩後ずさりをしてうつむく。
「……別に、なにも」
きつく出られない自分が情けない。
「あっそ」
美紀はフンッと鼻を鳴らすとあたしの机から離れていった。
残されたのは汚されたあたしの机と、クスクスと笑うクラスメートたちの声だけだった。
☆☆☆
その後も、夢の机に落書きをされたりとか、教室の通路でこかされたりとか、地味なイジメが続いていた。
それでも、夢はなんでもないことのように素知らぬ顔をしているから、美紀たちが君割るがりはじめていた。
「お前さ、感情どっか置いてきたのか?」
夢に近づいて行ったのは陸だった。
昨日の放課後病院へ行ったはずで、ドアで挟んだ指は奇麗な包帯が巻かれていた。
「なんのこと?」
夢は陸が近付いて行っても余裕の表情で会話をしている。
その様子にはクラスメートたちも気味悪がっていた。
「いつもならすぐ泣くくせによ」
「あたしが泣くのはあんたたちのせいでしょ」
その言葉に美紀が反応したのがわかった。
立ちあがり、夢に近づいてくる。
あたしは咄嗟に椅子から腰を浮かした。
夢はアプリがあるから自信がでているのだろうけれど、自ら火に飛び込むようなことしちゃいけない。
下手をすればイジメは更にエスカレートして、とどまることを知らなくなってしまうから。
夢を助けようとした時、ドアが開いて先生が入ってきた。
美紀がチッと舌打ちする音が聞こえてくる。
あたしはホッと胸をなでおろして、椅子に戻ったのだった。
次の休憩時間中、4人は珍しく教室にいなかった。
どうせトイレでタバコでも吸っているんだろう。
そんなことを思っていると2人の女子生徒があたしと夢に近づいてきた。
「あ、あの……」
おずおずと話しかけてきたお下げ髪の女子生徒は田淵さんだ。
隣りにはショートカットでメガネをかけた和田さんもいる。
2人とも読書が好きなようで、休憩時間になるとよく本を読んでいた。
2人とあたしたちの接点はほとんどない。
クラスメートと言ってもグループは違うし、挨拶くらいしかしたことがなかった。
「なに?」
あたしは驚きながら2人へそう尋ねた。
「あ、あの。2人ともごめんね」
不意に田淵さんが謝ってきたのであたしと夢は目を見かわせた。
田淵さんと和田さんになにかされた記憶はなかった。
「あたしたち、気にはしてるんだけどなにもできなくて」
和田さんが周囲を気にしながら言った。
それがイジメに関することだとすぐに理解した。
「田淵さんと和田さんが気にすることじゃないよ」
あたしはすぐに言った。
他のクラスメートの中には面白がって率先して大笑いしている連中だっている。
田淵さんは和田さんは、いつも隅っこのほうで怯えながら美紀たちを見ているのだ。
田淵さんと和田さんだって、平穏な学生生活を奪われた被害者側だ。
「でも、あたしたち何もできないし……」
和田さんがうつむき、申し訳なさそうに呟く。
この2人は大人しいから、あたしと夢がいなければイジメのターゲットになっていた可能性がある。
だから余計に気にかけてくれていたのだろう。
D組の中にこんな子がいたなんて思っていなくて、あたしは温かい気持ちになった。
少なくても、この2人はイジメられているあたしたちを見て笑ったりしないんだ。
「2人ともありがとう。でも、大丈夫だから」
あたしは2人へ向けてそう言った。
アプリをダウンロードする前なら、きっとこんな余裕のあること言えなかっただろう。
気にしているなら助けてよ。
どうして先生に伝えてくれないの。
自分たちは安全地帯で眺めているだけじゃない。
そんな風に罵ったかもしれない。
田淵さんと和田さんはそんなこと露知らず、自分たちの気持ちを伝えたことでスッキリした表情になった。
「あたしたち、新田さんと巻口さんの味方だからね」
そう言って、2人は自分の席へ戻って行ったのだった。
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