幽霊鬼ごっこ

西羽咲 花月

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信一の家

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昨日学校から出たときにはクタクタに疲れていた体が、次の日に目覚めると嘘みたいに軽くなっていた。
「やっぱり、一旦眠るとリセットされるのかな」
私はベッドに上半身だけを起こして自分の体を確かめて呟く。

信一が怪我をしたときも、翌日には怪我が治っていたし。
そのまま階段を下りてキッリンへ向かうと、お母さんが起き出してきたところだった。
普段よりもずっと遅いなと思ってカレンダーを見ると、今日が日曜日であることに気がついた。

昨日は土曜日だったけれど、午後から1時間だけ特別授業が入っていたのだ。
幽霊鬼ごっこのことで頭が一杯で、すっかり忘れていた。
どうりで昨日は放課後になるのが早いと思ったわけだ。

「おはよう裕美。今日は休みなのに随分と起きるのが早いじゃない」
「ちょっと、目が覚めちゃって」
そう答えてから洗面所へ向かい、顔を洗う。
鏡の中の自分の顔は普段どおりに見えるけれど、なんとなく疲れている印象だ。

もう4日間も幽霊鬼ごっこをしているのだから、当然だった。
「お父さんは?」
「今日は仕事ですって。お母さんは午後から習い事へ行くけど、一緒に行く?」

一瞬一緒に行こうかと思ったが、「ううん」と、左右に首を振った。
休日と言っても休んでいる暇はない。

今日の内にまた色々と調べ物をしておこうと思っていた。
「そう」
お母さんはそれ以上追求せず、朝食の準備を始めたのだった。

☆☆☆

午後から家に1人になった私はさっそく由紀に電話をかけた。
「もしもし由紀? 今から出られない?」
『もちろん。出られるよ』

由紀も家で1人で悶々とした時間を過ごしていたようで、私からの誘いにすぐに乗ってきてくれた。
約束場所は学校の近くの公園だ。
休日だから親子連れの姿が多くあって炎天下の中でも走り回って遊んでいる。
自分も混ざって遊びたい気持ちをグッと押し込めていると、自転車に乗った由紀がやってきた。

「おまたせ」
「ううん。待ってないよ」

答えながら自分の青い自転車にまたがる。
「今日はどこへ行くの?」
「うん。信一の家に行ってみようと思ってるんだ」
「そっか。うん。それもいいかもしれないね」

信一の家には何度かお邪魔したことがあるから場所もわかっているし、おばさんとの面識もある。
私達はさっそく自転車で走り始めたのだった。
「信一のお母さんは仕事してないよね?」
「うん。専業主婦だって言ってたと思う。だからきっと、今日も家にいるよ」

学校裏にあるちょっとした坂道を登っていくとそこは住宅街になっっている。
その中央付近にある2階建ての家が信一の家だった。
家の前に自転車を止めて玄関へと向かう。
途中カーポートを覗いてみると白い車が一台停まっているのが見えた。

「よかった。おばさんいるみたいだよ」
そう言って玄関チャイムを鳴らすと、中からすぐに足音が聞こえてきた。
「はぁい。どなた?」

と、声が聞こえながら玄関が開く。
白色のエプロンをつけた信一のお母さんが、私と由紀の姿を見てまばたきを繰り返した。

「お久しぶりです」
ペコリと頭を下げて挨拶すると、おばさんが怪訝そうな顔に変わった。

「どこかでお会いしたかしら?」
頬に片手を当てて首を傾げている。
「あの、私達キズナ小学校の生徒です。5年1組で、信一と同じクラスの」

おばさんは私達のことを忘れてしまったんだろうかと、必死で説明する。
けれどおばさんはしかめっ面をしたまま固まってしまった。
「キズナ小学校? しんいち? なんのことを言っているの?」
「私です。吉野裕美。こっちは川井由紀です。何度かお邪魔したことがありますよね」

「いいえ。私に小学生の知り合いなんていませんよ。さっきからなにを言っているの?」
おばさんの顔つきが徐々に険しくなってくる。
私は思わず後ずさりをしてしまっていた。

「もしかしておばさんも信一の記憶がないんじゃない?」
由紀が後から声をかけてくる。
「そんな……。あ、あの信一って覚えてますよね? おばさんの、子供です」

「そんな子知らないわ。うちに子供はいないのよ」
「で、でもっ」
「変なイタズラなら帰ってちょうだい! いくら子供でも、警察を呼ぶわよ!」

おばさんの言葉が急にキツクなる。
本気で私達のことを警戒しているんだ。
「ご、ごめんなさい。家を間違えました」

由紀が慌てて謝り自転車に飛び乗る。
私は後ろ髪をひかれる気持ちのまま、その後を追いかけたのだった。

☆☆☆

「おばさんまで信一のことを忘れたんだね」
坂を下ったところにあるコンビニの駐車場に自転車を止めて、私はため息を吐き出した。

「そうだね……」
由紀も落ち込んでいるようで、さっきからうつむいたままだ。
日差しが容赦なく照りつけてくるのに、すぐに帰るような気力も残っていなかった。
「今日は信一のお母さんから話を聞こうと思ってたんだけど、大失敗」

気分を変えるためにペロッと舌を出して言うと、由紀がほんの少しだけ笑ってくれた。
「でも、なにを聞こうと思ってたの?」
「信一が戻ってきてるかどうかだよ。私達が普通の生活をしている時間帯に、鬼になった人がどうなってるのかわかるかなって……なにもわからなかったけど」

「そうだね。鬼になってる間の記憶はないけれど、どこか暗い場所に閉じ込められているような感覚はあったよ。それで、鬼ごっこの時間になったら明るい場所へ移動する。そんな感じ」
「そうなんだ。じゃあ今信一は真っ暗な場所でひとりぼっちなんだね」

呟くと、余計に切ない気持ちになった。
信一が鬼になってしまってもう二日目だ。
どうにかして助けたいけれど、由紀の言う暗い場所がどこにあるのかわからない。
もしかしたら、この世には存在しない場所なのかもしれない。

「早く、どうにかしてあげなきゃね」
由紀が私の肩に手を置いて慰めてくれる。
「うん。そのためにも今できることをしなきゃいけないと思うんだけど……」

そこまで言った時だった、コンビニから出てきた人が私達へと駆け寄ってきた。
「あ、榎本さん!?」
私服姿だったからすぐにはわからなかったけれど、図書室で会った榎本さんだ。

手にはジュースのペットボトルが握られている。
「こんにちは。こんなところで会うなんて奇遇だね」
「そうだね。榎本さんは買い物?」
「うん。これから市立図書館に行く所」

「市立図書館?」
聞き返すと、榎本さんはまだ森慎吾について調べているみたいだ。
「キズナ小学校に伝わる『幽霊鬼ごっこ』について、もっとちゃんと調べるためには市立図書館へ行って、10年前の川の事故を調べる必要があると思って」

そう言われて私と由紀は目を見交わせた。
市立図書館へ行けば学校のことだけでなく、この街で起こった歴史を調べることができる。
きっと森慎吾についてもなにか書かれている資料があるはずだ。

「どうしてもっと早く気が付かなかったんだろう。榎本さん、私たちも一緒に行っていい?」
「もちろんだよ」
榎本さんはそううなうくと、ピンクの自転車にまたがった。
そして私達3人は市立図書館へと移動を開始したのだった。
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