ホストに恋して破滅した私ですが、高級キャバ嬢になってイケメンオーナーから愛されています。

西羽咲 花月

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嬢への道のり

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その日は久しぶりにグッスリ眠って夢も見なかった。
泥のように重たかった体はだんだん軽くなり、次第に疲れが取れていく。

それでもまだ寝たり無くて心地よい睡眠を続けていたときのことだった。
ピンポーン。

と、日奈子を現実へと引き戻す玄関チャイムの音が聞こえてきた。
だけどまだ日奈子は固く目を閉じたまま起きない。

ともすれば毛布にくるまれたまま死んでしまったんじゃないかと不安になるくらいに身動きもしない。
かろうじて毛布が膨らんではしぼんでを繰り返しているので、生きているのだということがわかった。

日奈子が部屋から出てこないため再び玄関チャイムが鳴らされた。
日奈子が小さくうめき声をあげて寝返りをうつ。

だけどここ数日間の不眠がようやく解消されたばかりなのでやはり起きない。
玄関先に立つ相手がしびれを切らしたように連続してチャイムを鳴らす。


するとようやく日奈子のまぶたが揺れた。
長いまつ毛が震えて、ゆっくりとまぶたが持ち上がっていく。

目を覚ました日奈子はまず部屋の明るさに驚いた。
てっきり電気をつけっぱなしにして眠ってしまっただろうかと思ったが、窓から差し込む太陽の光だということに気がついた。

今日はとても天気がいいみたいだ。
そして今はもう昼を過ぎているらしい。

日奈子が寝転んだままで大きく伸びをしたとき、また玄関チャムがなった。
最初に比べるとかなり荒々しい鳴らし方だ。

日奈子はようやく誰か訪問客があることに気がついて体を起こした。
寝起きのままだけれど、チャイムの鳴らし方からしてかなり焦っているか、怒っていることがわかってそのままで玄関へ向かう。

大家さんだろうかと思ったが。家賃は毎月引き落としにしているからちゃんと支払っているはずだ。


まさか、残高不足で催促しにきたわけじゃないだろう。
そう思いつつドアスコープから外を確認してみると、仏頂面の若い男が立っていた。

誰、この人。
一瞬けげんに思ったけれど、すぐに昨日の出来事を思い出した。

包丁を持ってホスト店へ突撃した日奈子を止めた人物だ。
名前はえっと……。

考えていると靴箱の上に名刺と包丁が乗っかっていることに気がついて視線を向けた。
そうだった。

昨日部屋に戻ってきた時に持っていたものを全部ここに乗っけて、そのままだったんだ。
思い出して日奈子はすぐに包丁を片付けた。

そして名刺を手に取り、相手の名前を確認する。
そこには田口光と書かれていた。

その上には『ノアール』と印字されている。
こっちは店名だろう。


昨日は特に何も思わなかったけれど、今見てみるとなんと簡単な名前だろうとプッと吹き出してしまいそうになる。
そうこうしている間にも何度もチャイムが鳴らされて日奈子は「はいはい」と返事をしながら玄関を開けた。

そこに立っていた田口光が頭に角をはやして「襲い!!」と、怒鳴ってきた。
「そんなこと言われたって……」

心地よい睡眠を遮られた挙げ句怒られた日奈子もムッとした顔になる。
「っていうか、なんで私の部屋知ってんの!?」

ハッと気がついて日奈子は警戒する。
「なに言ってんだ。昨日質問したら全部答えただろうが」

光は仏頂面でそう答えると日奈子の体を押しのけて強引に部屋の奥へと入っていく。
「ちょっと、勝手に入らないでよ!」

すぐに止めに入るけれどもう襲い。
そもそも狭い部屋だから玄関先からでもすべて見られているようなものだった。

「こんなボロアパートに暮らしてたのか。家具もほとんどないし」
「わ、悪い!?」


てっきり笑われると思っていたけれど、光はなにも言わず、むしろ痛々しいものを見るような目で日奈子の部屋の中を見回した。
「まぁいい。出かける準備をしろ」

「出かけるってどこに?」
「俺の店に決まってるだろ」

そういやこの男、高級キャバクラ店のオーナーだったか。
思い出してみれば昨日乗った車も高級車だったっけ。

すごく馴れ馴れしい上に今はラフな格好をしているから、全然そんな風には見えないけれど。
とにかく、成り行きとはいえ日奈子は光の経営する店で嬢として働くことになったのだ。

今日から出勤するとは聞いていなかったけれど、部屋で1人でいるとまたカズのことを思い出してしまいそうなので、素直に従うことにした。

「すぐ準備するからちょっと出てて」
一部屋しかないから、着替えを見られてしまうと思い、日奈子は光を外へ追い出した。

玄関を閉める直前で「ここで待ってる」光は真剣な表情でそう言ったのだった。

☆☆☆

あんな風に一言言うなんて、日奈子が逃げるとでも思ったんだろうか。
着替えをしながら日奈子は窓の外を見つめる。

ここは2階だけれどうまく足場を探して行けば1階まで逃げ切ることはできるかもしれない。
だけど日奈子は逃げる気は毛頭なかった。

仮にでも光は自分を助けてくれたのだし、これほど熱心にスカウトしてくるところにも少しだけ興味が出てきていた。
自分は嬢に向いているというなにかがあるんだろうか?

着替えを終えて玄関へ出ると、光がホッとした様子で笑顔を見せた。
「そんなに心配しなくても、私は逃げたりしないわよ」

ふたりで並んで階段を降りながら言うと、光は左右に首を振った。
「逃げるだけならまだいい。あのホストのことを気に病んで自殺するかもしれないと思ったんだ」

その言葉に日奈子は目を見開いて驚いた。
「そんな心配してたの?」


「あぁ。その可能性は十分にあるだろう?」
そう聞かれるととても否定できなかった。

昨日あんなことをやらかしているのだから、心配しても当然だったのだ。
「昨日は助けてくれてありがとう」

光の車に乗り込んだところで、日奈子はようやく昨日のお礼を言っていないことに気がついて、そう口にした。
ほんとにカズのことを刺していたら、今ごろ自分も生きてはいないはずだ。

そう考えると背筋が寒くなる。
自分の両手を開いてジッと見つめていると光が「気にするな」と言ってきた。

「そういう女はいくらでもいる」
そうして車は走り出したのだった。


☆☆☆

光に連れられてやってきたのは飲み屋街の一角だった。
まだ開店まで時間はありそうだけれど、すでに店の裏手には数人の女性たちが集まってきている。

みんな自分の家から衣装を着てくるようで、ミニスカートや胸元が大きく開いていて大胆な服装ばかりだ。
ホストは見慣れているけれど、こういう女性たちを見るのは慣れていないので目がチカチカしてきてしまう。

店の横の駐車場に車を止めて光と共におりていくと女性たちが日奈子を見てこそこそと噂話をしている。
なんだか居心地が悪いな。

そう思って光の後ろに隠れるようにして歩く日奈子。
「ちょっと、早く来てくれなきゃ寒いでしょ」

「悪い。もう少し早く来るつもりだったんだが、こいつが寝坊してな」
光が振り向いて日奈子を見る。

日奈子はビクリと体を震わせて「ご、ごめんなさい」と、小さな声で謝った。


嬢たちの視線を一斉に浴びて体が縮こまってしまっている。
「自己紹介くらいしとけ」

裏口の鍵を開けながら光が言う。
日奈子はかしこまった調子で「こ、小平日奈子です」と、自己紹介した。

一瞬訪れた静寂が心地悪くて日奈子の背中に冷や汗が流れていく。
立ちんぼをしていたときのことを思い出す。

周りの子立ちのほうが自分よりもよっぽど若くて可愛くて、スタイルもよくて。
だから自分なんかがあそこに立っていることを疎ましがられていた。

こうしてお店の中で働くのは始めての経験だけれど、組織になったからこその軋轢は大きそうだ。
日奈子が警戒心いっぱいに他の嬢たちを見ていると、1人の嬢が一歩前に出てきた。

ロングワンピース姿のその人はとても落ち着いた雰囲気があり、危ういところまで入ったスリットからは細くてつややかな足が見えている。

日奈子はゴクリと唾を飲み込んで一歩後ずさりをした。


この人がこの店のナンバーワンだろうか。
近くにいるだけでその存在感に圧倒されてしまいそうになる。

「ここではみんな源氏名で呼び合っているのよ。私はマキ。よろしくね」
マキと名乗ったそのひと人が右手を差し出してくるので日奈子は自然と握手をしていた。

細くてしなやかな指先。
指先の先端まで気を抜いていないのだろう、爪はピカピカに磨き上げられていて、透明なネイルがほどこされている。

決して派手じゃないのにジッと見ていたくなる指先だ。
それに比べて自分はどうだろう。

ふと、日奈子は握手している方の指先へ視線を向けた。
最近指先の手入れまでは行き届いていない上に、寒さのせいでささくれだっている。

栄養が足りていないのと、自分の歯で噛んでしまって爪先はボロボロだ。
途端に恥ずかしくなってすぐに手を引っ込めた。

振り払うような形になってしまったけれど、マキは気にしていない様子だ。


ぞろぞろと店内へ入っていくとすぐに嬢たちの休憩室があり、その奥へ進むと店内へと続けているようだった。
嬢たちは自分のロッカーに私物を入れると慣れた様子で店内へと進んでいく。

日奈子もわけがわからないままにそれに続いて店内へと出た。
お店の広さはカズのいるホスト店よりも随分小さく見える。

そのかわり、店内のすべてのお客さんに目が届くようにできているみたいだ。
また、お店の雰囲気もとても落ち着いていて大人っぽさがある。

一目で高級とわかる装飾品や家具の数々に日奈子の不安はどんどん大きくなっていく。
こんな素敵な場所で自分が働くなんて信じられない。

自分に務まるだろうか。
不安がそのまま顔似出ていたのか、光が手招きをしてきた。

すぐに近づいていくと「もう自己紹介は終わったと思うが、今日から働いてもらうヒナだ」と、もう1度みんなに紹介してくれた。
「ヒナ?」

「お前の源氏名だ」


本名の日奈子から日奈だけとって、それをカタカナにしただけの簡単な名前。
それでも源氏名をもらった瞬間になにか日奈子の中に芽生えるものがあった。

ここでは日奈子でなくてもいい。
その開放感が広がっていく。

「よろしくねヒナちゃん」
日奈子が源氏名をもらったことで安心したのか、マキ以外の嬢たちも笑顔見せてくれた。

てっきり新入りは阻害されるものだと思っていたからこれで心配はなさそうだ。
「ヒナはしばらく雑用係になる。店のことはマキに聞いてくれ」

「は、はいっ」
今日からすぐにお店に出るのではないと知り少しだけ拍子抜けする。

だけどこんな高級店では入りたての新人をすぐさま店に出すようなこともしないのだろうと納得した。
「それじゃ、ヒナちゃんには店の掃除からしてもらおうかしら」

マキがそう言い、ヒナを連れて奥へと向かう。
更衣室の手前の扉を開けると、そこには掃除道具が入っていた。

「まず床掃除からね」


「はい!」
マキに言われてホウキを取り出したが、マキが奥の方から掃除機を取り出してきてくれた。

「お客さんが入っているときにグラスが割れたりしたら、そのホウキで掃除するの。今はお客さんが入っていないから、掃除機を使っても大丈夫よ」

「あ、ありがとうござます!」
お客さんがいるときに掃除機を使わないのは、会話の邪魔をしないための配慮だろうとわかった。

それからヒナは言われるがままに床掃除を開始し、テーブルの上をふいてソファのホコリ取りもした。
狭い店内だけれど、動き回るとすぐに体が熱くなってきた。

最近はずっと部屋に閉じこもりっぱなしだったから、体を動かすのも久しぶりのことだった。
「ありがとうヒナちゃん。少し休憩していいよ」


「え、でも私まだ……」
「ヒナちゃん。自分の体力を過信しちゃダメ。休憩を挟みつつ、少しずつでいいのよ」

マキはそう言うと冷蔵庫から水のペットボトルを取り出してヒナに手渡してくれた。
「あ、ありがとうございます」

ヒナはそれを素直に受け取り、休憩室へと向かった。
休憩室では他の嬢たちがメークしていたり、お弁当を食べていたりして、ヒナは邪魔にならないように隅っこのほうに座った。

ヒナが1人では居心地が悪いだろうと思ったのか、マキもすぐにやってきてヒナの隣に座った。
「ヒナちゃん、あまり眠れてないし食べれてないんだって?」

他の嬢たちには聞こえないように質問してくる。
ヒナは小さく頷き返した。

きっと、光が先にマキに伝えてくれていたんだろう。
「さっき握手したときビックリしたのよ。まるで骨みたいなんだもん」


マキはヒナの右手を握りしめて言った。
マキの手の暖かさが伝わってきてなんだかくすぐったい。

「これからはちゃんと食べます。昨日は久しぶりにゆっくり眠れたし、もう大丈夫です」
「それならよかった。休ませてほしいときはちゃんと光にそう伝えないとダメよ?」

「はい」
まるでお姉さんのような気遣いにヒナの心の中がポカポカと温まってくる。

「あの、田口光ってひとはここのオーナーなんですよね? 呼び捨てでいいんですか?」
自分はまだ光をなんと呼べばいいかわからないでいる。

年下だし、なんだかちょっと生意気な感じもするし、ついタメ語になってしまうのだけれど、オーナー相手だからはっぱり敬語を使うべきだろうか。

「あぁ、そんなの気にしなくていいのよ。このお店は光の趣味でできたお店みたいなものなんだから」
「趣味、ですか?」


こんな立派な店をただの趣味で始められるなんて光は一体何者なんだろうか。
元々普通じゃないことはわかっていたけれど、いよいよその正体が気になり始めてきた。

「そうよ。光のご両親は有名企業の社長さんとそのご婦人。海外に行ったきりでなかなか戻ってこないんですって」
そこで聞いた企業名は世界的に有名な会社で、ヒナは目を剥いて言葉を失ってしまった。

「そんな大企業の御曹司がどうしてキャバクラなんて……」
光ならきっと、一生仕事をしなくても生きていくことができるだけの財産を持っていることだろう。

趣味と言われても納得してしまう。
「それがね……」

途端にマキが小声になった。
ヒナはマキの言葉に耳を傾ける。

「光には妹がいるの。年子だから、すごく仲が良かったんだって」


過去形して言うということは、今は仲が悪くなってしまったんだろうか。

「でもね、その妹さんが20歳の頃にホストにハマちゃって。相手のホストもお金持ちの令嬢だってわかると手放すわけにはいかないでしょう? それで、ついにシてのホストと一緒にどこかへ消えちゃったのよ」

「消えた?」
「おそらく駆け落ちだろうってみんな言ってる。ホストと令嬢の恋なんて誰もが反対するだろうから。それから光はこの店を作ることにしたんだって。誰もが楽しんで飲めて、だけど絶対にその人生を狂わすことのないキャバクラ店。光はそんなお店を目指してるみたい」

絶対に人生を狂わすことのないキャバクラ店……。
その言葉はヒナの胸に突き刺さる。

ホストによって身をほろぼしかけたヒナには痛い言葉だった。


「だからね、ここに集められてきている嬢たちはみんな1度ホストで痛い目を見ているこたちなのよ」
マキが照れくさそうに笑って教えてくれた。

「そうだったんですね」
それじゃあ、マキさんも?

そう聞きたかったけれど、あまり深い質問をするのはもっと仲良くなってからの方がよさそうだ。
「さ、次の仕事はトイレ掃除よ。うちのお客様はみんな礼儀正しいしトイレも綺麗に使ってくれるけど、私達はそれ以上に綺麗に掃除しなきゃいけないからね」

それがキてくれるお客さんに対しての礼儀だと、マキは教えてくれたのだった。


☆☆☆

お店が開店してからのヒナは店の邪魔にならないところでボーイと共に店内を見ているだけだった。
だからといってぼーっと立っているだけじゃない。

ちゃんと先輩たちの立ち振舞を見て勉強したり、お客さんに異変がないか目を光らせている。
それでも立っているのはしんどくて、ヒナは何度も奥へ行って休憩するはめになってしまった。

たった数日間動かなかっただけで自分が思っている以上に体力がなくなってしまったみたいだ。
昼間マキが心配してくれたのも、それが原因だとわかった。

他人からみても今のヒナは倒れてしまいそうな状態なんだろう。


「大丈夫か?」
休憩室から出ようとしたときだった。

光がヒナの様子を見にやってきた。
「だ、大丈夫……です」

今までタメ語だったのに急に敬語になることが難しくて一瞬口ごもってしまった。
光は軽く眉を上げて「別に敬語を使う必要はない」と言う。

「でも、お店に入ればもう上司だし」
「気にするな。それより少しはなにか食べたか?」

そう質問されて今日はまだなにも食べていないことに気がついた。
だけど休憩室に置かれているチョコレートやお菓子は口にしているから、あまり空腹感もない。

「それじゃダメだ。お前はまず栄養のあるものを食べるところから始めないとダメみたいだな」
光は腕組みをして呆れ顔だ。


それほどヒドイ顔色をしているだろうかと、ヒナは自分の頬を両手で包み込んだ。
その時に頬骨が手のひらに触れて一瞬ビクリとする。

頬骨が浮き出てきていることには気がついていたけれど、実際に自分の指先で触れてみると、なるほどヒドイかもしれないと理解できる。

「なにか食べようかな。この辺に食べ物屋さんとかってある? コンビニでもいいんだけど」
自分の口から『コンビニ』という単語が出てきたことに自分自身が驚く。

今までなら少しでも節約するために安いスーパーを選んでいたからだ。
「連れて行ってやる。ついてこい」

光に言われてヒナは立ち上がったのだった。


☆☆☆

光が連れてきてくれたのは店から少し離れたところにある野菜中心のレストランだった。
レストランといっても気取った雰囲気はなくて、若いカップルの姿や家族連れの姿が見られる。

「ここは野菜中心の食事を出してくれるんだ」
「あの、お店をほったかしにしていいの?」

「マキがいるし、他のボーイもいるから問題ない。なにかあればすぐに電話がかかってくるはずだ」
光はそう言って案内されたテーブルに自分のスマホを置いた。

食べ物のいい香りがしてきて日奈子のお腹がグゥと音を鳴らす。
「やっぱり、体は正直だな。いくら食欲がなくても、本当は食べたがってたんだ」

「そうみたい」
日奈子は照れ笑いを浮かべて頷いた。

だけどほとんど食べていなかった胃に突然沢山の食べ物を入れるわけにはいかない。


日奈子はメニューの中で一番軽く食べられそうな温野菜を注文した。
「それだけでいいのか?」

小皿に乗せられてきた温野菜を見て光が顔をしかめる。
「今はまだ、これだけで」

そう答えて野菜を口に運ぶと、素材の甘味が口いっぱいに広がっていく。
柔らかくとろけていく野菜に思わず「美味しい」と、本音が漏れた。

ホストに通い始めてからろくな食事を取っていなかったから、なにを食べてもおいしく感じられる。
日奈子の箸は止まらなかった。


「私ばっかり食べて、ごめん」
気がつけば小皿はすっかり空になり、光はなにも食べずにそれを見つめていたのだった。

「お前に食事をさせるために来たんだ。余計な心配はしなくていい」
光はそう言うと持ち帰り用にサラダを注文した。

他の嬢たちへの手土産みたいだ。
「1人を依怙贔屓することはできないから、仕方なくだ」

そう言いながらも、手土産を受け取る光の表情は明るかった。
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