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08 懺悔の手紙

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 ライノルトから届いたものは、木彫りの花のブローチ。精巧なつくりの意匠箱にたいして、中身の素朴なブローチは、みょうにチグハグしていて不釣りあいに感じる。
 ブローチを手に取ってみると、裏にアディの名前が彫られていることに気がついた。

 ライノルトがなぜこれを送ってきたのか? 同封されていた分厚い手紙を読んでみる。手紙に綴られていたのは、彼の懺悔の告白……





 アルトヴァルツ・トゥラリウス王太子殿下

 どうかリル姉様をブィア鑑別所からお救いください。父があそこに送られた者は、死んだ者と考えるようにと言います。
 実際、リル姉様は父のなかでは死んだ者となっているのでしょう。領地の公爵邸の裏庭に、ひっそりとリル姉様の墓が建てられています。名前は彫られていません。罪人の名を残すのは、領民の生活のためにならないから……と、父が許さなかったそうです。

 でも、リル姉様は罰を受けるような罪を犯していません。
 リル姉様をすぐ解放していただけるよう、僕の罪を告白いたします。

 僕はアカデミーに入学したその日から、アディ・フィーリー男爵令嬢に恋をしました。彼女の関心をひきたくて、彼女の望みはなんでも叶えてあげたかった。
 アディが殿下を望んでいたから、僕は殿下の側近を目指しました。将来は殿下の片腕として殿下とアディのそばに仕えることができるように……

 だから僕は、リル姉様を罠にはめた。

 リル姉様が殿下から婚約破棄されるように、慎重に行動していました。いわれなき誹謗中傷を受けつづけるより、侯爵領でのんびりすごしたほうが、リル姉様のためになるとも信じていました。

 同封のブローチはアディのものです。アディの母親の形見が盗まれた事件は、覚えていらっしゃいますでしょうか? リル姉様の部屋から見つかり、大騒ぎになったあの事件です。これは、その盗まれたブローチです。

 リル姉様の寮の部屋に隠してほしいと……アディに渡されたものです。小さな黒い小箱が机の上にあるから、そこに入れてきてほしい……と。

 これでおわかりになったでしょ? 少なくともあの事件は、アディの自作自演です。僕はアディから手渡されたブローチがどうしても欲しくなってしまった。アディの私物を、こっそり宝物にしておきたい……そう、思ってしまったのです。
 アディのブローチに似ているものを街で買い、本物のように裏に彼女の名前を彫って、小箱に入れました。

 リル姉様が、それは自分のものだと騒いだため、問題が大きくなってしまいましたが、少なくともリル姉様が目撃したアディに返された小箱は、リル姉様のもので間違いありません。
 リル姉様は、あの中に見知らぬブローチが入れられていたことを知らなかったのですから……

 あの日からリル姉様が、アディのところに頻繁にかようようになりました。アディが受け取った、自分の小箱を取り戻したかったようです。

 その執拗にアディに絡むようすが、いじめと騒がれても……リル姉様にとって、小箱のほうが大切だったのです。

 どうか、アディに母親の形見のブローチをお返しください。そしてリル姉様が解放されましたら、アディの手元にあるリル姉様の宝物の小箱を、リル姉様にお返しください。

 僕がなぜ隣国に留学しなければならないのか? 殿下とアディのそばから引き離される理由はなんなのか? その原因が僕の過ちであると認識するのに、1年もかかってしまいました。
 今は僕の軽率な行動が、バリィ侯爵家の衰退につながってしまったのだと理解しています。

 どうか、リル姉様の心が傷つきすぎて死んでしまわないうちに、リル姉様を公爵邸へお返しください。リル姉様のことを考えるたび、忘れていたリル姉様との幼い日々が走馬灯のように浮かんできて、後悔の渦が僕の体を奈落へ引きずりこむような……激しい頭痛に襲われます。
 僕の良心が、はやくリル姉様を助け出すよう働きかけろ! と、警告しているように感じるのです。
 僕は愚かだった。リル姉様の笑顔が大好きだったはずなのに、今はもう泣き顔しか思い出せないのです……

 ライノルト・バリィ




 ライノルトから返された母親の形見をアディに渡してみたが、彼女はブローチにわずかな反応すら見せなかった。

「これはきみの母親の形見じゃないのか?」
「ママのこと? ママは生きているわよ」
「フィーリー男爵夫人のことではない。産みの親のことだ」
「ママは私の帰りを待っているわ! だからはやく帰りたいの! それはただの『盗まれた形見』イベント用のアイテムよ」

 また訳のわからないことを……いらだちがつのっていく。
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