裸の天女様~すっ裸で異世界に飛ばされた災難ファンタジーコメディ~

榊シロ

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71話 ~思案~

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 こそこそと人通りの少ない通りに移動して、サッともらったローブに着替えてから、ひと息ついた。
 なんと、この世界観になじんだ服装なことか! ふつうの服が着られる幸せを、グッと噛み締める。

「いやぁ……ほんと、今までいろいろ……ホントにいろいろあったけど……この世界、いいこともあるもんですねぇ」
『お主の行いが破天荒過ぎるんじゃないかのぉ』
「うぐっ……いやでも、やろうと思ってやったわけじゃないし……!」

 魔物を爆破させたり、処刑台をぶっ潰したり。確かに、ふつうじゃやらないことをやってきた覚えはなくもない。

 うぐぐ、と一人うめいている横で、テルペロン鳥がクルル、と鳴いた。

『さて、これからどうするかじゃが……っと』

 言いかけて、神鳥はわずかに声と羽を震わせた。

「え? なんです、どうしました」
『うぅむ……やはり、長時間の変身は身がもたん……』
「へっ!? ど、どういう」
『……あっ』

 ぼふんっ

 眼前で、鳥が口から煙を吐き出した――かと思うと、一瞬で、いつぞやみかけた美少年の姿に切り替わった。

「あっ……よかった……まともな服着てて……」

 目を逸らす間もなかった為、ホッと胸を撫でおろす。昨今、女から男へのセクハラも厳しいのだ。
 幸い、テルペロン鳥(人間)は、神々しい白いローブを見につけている。その色素の薄さから、今にも消え去りそうなはかなさを感じるほど。

 しかし当人は、私の発言を聞いて、フンッと鼻を鳴らした。

「服を着ているのは当たり前じゃろう。まったく、お主じゃあるまいし」
「おっ……なかなかのパンチ」
「しかし……ふむぅ、やはり、まだまだ神力の器が足らんということか」

 こちらのショックをものともせず、テルペロンはうぅんと唸った。

「というか、大丈夫なんですか? 身が持たないって」
「まぁ、問題ない。人の姿なら、いくらか神力の消費が抑えられるからのぉ」
「人の姿だと……? そっちの方が力使いません?」
「色々事情があるんじゃ。なにせわしは、少々不完全な体なものでな」
「不完全……? それ、聞いてもいいヤツですか?」

 なにやら、深めの事情がありそうな予感がする。
 割とまだ知り合ったばかりのこちらに、話してくれるものだろうか。

 ジーッとテルペロンを見つめると、彼は決まり悪そうに自らのあごを撫でた。

「わしは……神鳥として、まだまだ未熟なのじゃ。お主に力をもらい、なんとか鳥の姿を保てるくらいに、な」
「あの……もしかして、私たちを案内するために、あの泉から離れてしまったからですか……?」

 長い間、あの泉にいたと言っていた。
 生まれの地から離れると弱ってしまう、というのは、神ならあり得そうに思える。

 もしや、好意に甘んじて彼の力をそいでしまったのでは、と思って罪悪感に苛まれていると、テルペロンは首を横に振った。

「あの泉は、あくまで現状維持の為に必要であっただけじゃ。どうせあの場に固執していたとして、三十年もすれば朽ちていたじゃろ」
「えっ……!?」
「じゃから、お主と出会えたのは幸運じゃった。傍にいれば、神力が枯渇することもないしの。……ま、今は少々、鳥の姿でいすぎたからこうなったが」

 鳥の姿が本来の姿なのに? と、脳内でははてなマークが乱打するが、なんとなくそこを聞ける雰囲気ではない。

「とはいえ、一度お主の魔力を取り込んでしまったしのぉ。ここで離れれば、わしはテルペロン鳥ではなく完全に人間になって、なんの力も使えなくなるやもしれんのぉ」
「そ、そんなことが……!?」
「ま、それも悪くないかもしれんが……どうせ人の姿で行動するなら、面白い方がよい。つまり、お主についていくのが一番最善、というわけじゃ」

 ハッハッハ、とほがらかに笑い声を響かせるテルペロンに、ドッ、と肩の力が抜けた。

「はぁ……お楽しみいただけてるようで幸いです……で、次、どうしましょう?」

 とりあえず、杖も手に入れて、地味なローブも着用した。
 さほどひと目につくこともないだろうし、もらった資金は、まだ手付かずで残っている。

「そもそも、いくら入っておるんじゃ?」
「あっ確か……50000Gくらいだったと……」

 袋を開けて、中をもう一度チェックする。
 やはり、入っているのは50000Gだ。だいたい、五万円くらいだろうか。

「これで、この世界だとどのくらい過ごせるものなんですかね?」
「ハッハッハ、人里離れた泉にいたわしに、金銭感覚を聞くか?」
「そうだった……とりあえず、あちこち見て回ってみますかね」

 世紀末レベルのダサファッションも改善されたことだし、と、テルペロンを隣に、表通りに歩き出した。

「おお……!」

 今までは、ひと目を気にしてコッソリとしか見られなかった町並み。

 ザッと見回した感覚では、世間一般で言うヨーロッパよりのファンタジー世界の町、といったところだろうか。
 飲食店から武器防具、薬草などを売っている医療品店や、雑貨店などが見て取れる。

 幸いなのは、みんな日本語で書かれているということだ。今更だが、言語が問題なく通じるのは有難い。

「すごいなぁ……ファンタジーだなぁ……」

 物語で読んだり、ゲームでプレイするのと違い、間近で見るそれらの光景は、また格別の感動だった。

 そもそも、建物が鉄筋コンクリートではなく、皆木造、もしくはレンガ造りなのだ。
 元の世界では海外旅行とは無縁で、こういった建物が並ぶさまは新鮮だった。

「ふむ……これはひとつ『100G』とあるぞ」

 自分がキョロキョロと物珍しく周囲を見回していると、目ざとくテルルが金額をチェックしていた。

「なるほど、このリンゴは1つ100円と。で、あっちのパンがひとつ80円……ちょっと安め、かな」

 元の世界と、物価自体は大きく違いはなさそうだ。
 若干安いかな、くらい。しかしこれは、地方や都会で多少変動するかもしれない。

 あと、リンゴはリンゴって名前だった。もしかしたら言語と同じで、私にわかりやすく翻訳でもされてる可能性はあるけど。

「ふむふむ……なるほど。だいたい物価の感じはわかりました」
「ほお。それで、なにか買うのか」
「うーん……今のところは……」

 自分は食事も睡眠も必要としていない。
 だから、ヴィルクリフが解放された後合流できれば、彼とテルルの分を買い込む、くらいだろうか。

「エリアスさんとヴィルクリフさん、どうしてるかなぁ」

 だいたいの物価調査が終われば、なるべく考えないようにしていた顔が二つ、脳裏に浮かんだ。

 この地に至るまで、旅路を共にしていた二人。短い間ではあったけれど、信頼もしていたし、なにより楽しかった。
 まさか、ここに来て別れるなんて考えてもいなかったから、少し寂しい。
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