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72話 ~大魔王~
しおりを挟む「気になるようなら、屋敷の方へ見に行ってみるか?」
「だ……大丈夫、ですかね?」
「まあ、遠目に様子を見るくらいならいけるじゃろ。ヴィルクリフあたりはそろそろ目を覚まして、追い出されてるかもしれんしなぁ」
「あー……あり得るかもしれませんねぇ」
町中でウロウロしているよりは、目的があった方がいい。
テルペロンの提案に頷いて、町の北方、そびえたつアスタリカの屋敷へと足を向けた。
「えーっと、この道を通って……で、来るときはあの建物の脇を通ったから……」
「ハナ、お主、大丈夫なんじゃろうな……?」
「だ、大丈夫大丈夫! 最悪、通りすがりの人に聞きますし!」
慣れない町中を、記憶を頼りにアスタリカの屋敷へ向かう。
少し小高い丘にあるから、そっちに向けてまっすぐ行けばつきそうなものの、案外道が入り組んでいるのだ。
そして案の定、ルートがわからなくなって住民に尋ねると、丁寧に道案内をしてもらえる。
これはやはり、服装の力が大きい、と言わざるを得ない。
(あの裸エプロン……ゲーミングローブの時と、町の人の目が段違い……!!)
やっぱり服装って大事だ。
そんな当たり前のことを心に刻みつつ、近づいてきた屋敷を見上げる。
「それにしても、バルシュミーデ家ってすごいんですねぇ。この辺りの町をそれぞれ統治してるんでしょうか」
「そうじゃな。わしの記憶でも、かなり昔から続いておる。フェゼント国の中央から北方のこの付近は領地じゃな」
「へえーかなり昔……それって百年前とか、そういう感じですか」
「なんと、三百年ほど続いておる。なんでも、かつて大魔王を討伐した一員が祖先らしいぞ」
「……だ、大魔王」
不吉な単語に、ビクッと震えた。
大魔王。なんとも、怪しい響きだ。
「それって……その、どんなヤツだったんですかね」
「わしも、詳しくは知らんのだ。しかし、その頃の世界は、ひどく荒廃していたらしいと聞くが」
「アレですかね……その、大魔王は封印されてるとかそういう……」
「おお、よく知っておるな。なんでも、選ばれし者たちの活躍により、体をバラバラにされ、それぞれ地中深くに封印されたと聞いておる。それから、今年でちょうど三百年、だったか?」
「……へえ~……」
思わず、上ずったような相槌が漏れた。
だって、三百年。三百年、だ。
もし大魔王が復活するなら、あり得そうな数値だった。
「どうした? なんだか、微妙な顔をしておるが」
「いやー……えぇと、もし大魔王が復活なんてしちゃったら……大変だなぁと思いまして……」
「それは一大事じゃろうなぁ。なにせ大魔王じゃ。人は魔物にとって恰好のエサじゃし、前回の恨みも重なれば、根絶やしにされかねんのぉ」
「ね、根絶やし……」
とんでもない単語に、ぶるっと身震いする。
(まさか私、その大魔王を倒すために呼ばれた、とか……? いやいや、だったらホラ、だいたい最初に神様とかに会って、ちゃんと説明されるのが定番だし……大丈夫だよね、きっと)
というか、元の世界にはどうやったら戻れるのだろう?
今まで、そんなことを冷静に考えている余裕がないような旅路だった。
死んで転生というわけではないのだから、戻れる手段はきっとある、と思う。
いや、もしかして自分は死んでいるのだろうか?
温泉でおぼれ死んだ可能性もあるか。いや、でも転生だったら幼子として生まれ変わるだろうし、現状、外見は元のままだ。
(あれ? でも、選ばれし者の末裔がこの世界にいるなら戻れない可能性も……あ、いやいや、その選ばれし者が異世界転生した人とも限らないか)
などとうだうだ考えていると、足が止まっていた。
首を傾げたテルルが声をかけてくる。
「ハナ、どうした?」
「あ、いえ……その、大魔王を倒した人たちって、どんななのかなぁって」
「うぅむ……国の中央であれば文献が残っておるじゃろうがなぁ。わしが聞きかじった話では、選ばれし者たちの中には、別の世界から呼び出された者がいたと聞いておるぞ。バルシュミーデ家は、それを継いだ特別な血筋じゃな。ゆえに、もし大魔王を倒す者がいるとすれば、別世界から呼ばれるのじゃろうなぁ」
思いっきり、別世界って設定でてきてるじゃん!!
もしや、自分もその選ばれし者の一人だったりするんだろうか。
思わずソワソワと体を動かすと、テルペロンは不審なまなざしでこちらを見た。
「なに不思議な動きをしておるんじゃ」
「い、いえ……なんでも……」
「まったく変なヤツじゃのぉ。聞いた通りであれば、このままぐるっと回りこんで……ん?」
と、テルペロンは私の先に立ってズイズイと足を進めて行っていたが、ふいに視線を上へ――アスタリカの屋敷へと向けた。
「え、テルペ様どうし……あっ!」
つられるように屋敷を見上げ、声を上げる。
「け、煙がすごい……火事……!?」
ひときわ大きな屋敷の頭上から、黒い煙がモクモクと立ち上っている。
空の色が変わるのではないか、と思えるほどに黒々と広がる煙。
そして、建物のあちらこちらから、よく見ると赤い炎がチラついていた。
「ウソ……っ!? あそこ、エリアスさんやヴィルクリフさんもいるのに……!!」
近づくにつれ、赤い炎がより鮮明になる。
ゴウゴウと赤い炎に飲み込まれ、だんだんとその勢いが増しているようにも見えた。
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