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ワーウルフ討伐クエスト

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 草原の上を二人の少女が駆け回る。
 今はワーウルフ討伐のクエスト中で、俺とタエは遠目から見守っている。
 
 ワーウルフは大きさが2メートルほどで、鋭い牙と爪を持つ狼だ。

 剣聖サクラは桃色の髪を揺らしながら、その手に持つ片手剣を振るう。
 その度に、ワーウルフ達一瞬で真っ二つだ。
 
 あまりに圧倒的で大人が子供の相手をしているようだ。
 これなら俺のチューニングなんて必要ない。
 
 それよりも気にすべきは、魔具使いの方だった。

「なにこれ、楽しい!超楽しいわ!」
 
 ミサキは盾とボーガンを使うと言っていたが、その手にはどちらもない。
 
 腕には腕輪をはめ、右手には黒光りする斧を持ち、足には緑色の靴を履いている。
 そのすべてが魔具だ。それも魔力消費が激しいものばかりで、魔法屋の作った回路ならば1秒持ったかすら怪しい。

 今もミサキが一歩進むたびに、回路のほとんどが崩壊していて、俺はひたすらに修復していた。

「せ、先輩…大丈夫ですか?」
「ああ、止めなかった俺の責任だ。それにしても、ここまでの魔具を持っているとは思わなかったよ」

 緑の靴は飛翔靴と呼ばれる代物で、履くだけで1キロ先まで一瞬で移動できる。
 効果が大きい分、小回りは効きにくいのだが、ミサキは完全に使いこなしていて、動きを目で追えない。
 
 腕輪には筋力アップの効果がある。今なら片手で岩の一つを握りつぶすことも出来る。

 そして斧。あれは宝具だ。
 大きさ故に小柄なモンスターには当てにくく、本来はワーウルフ相手に使うものではないのだが、ミサキは確実に当てている。

 はっきり言って天才だ。

「あー楽しかった」

 戦闘時間およそ5分。
 一瞬にしてワーウルフの群れは消滅した。

「アンタ凄いじゃない!この宝具達を同時に使える日が来るなんて思わなかったわ!」

 ミサキが魔力を絶つと、魔具は手のひらの上にのるぐらいまで小さくなった。
 ミサキはそれを大切そうに撫でた。

「俺も驚いたよ。あれだけの魔具を同時に使いこなせる奴がいるなんて」
「声がするのよ」

 妙なことを言いだした。
 無視してもよかったのだが、気になったので聞いてみた。

「声って誰の?」
「この子達よ」

 そう言って目を向けたのは、さっきまで使っていた宝具だ。
 
「すごいでしょー」

 サクラは自分のことのように嬉しそうに言った。

「ああ、すごいな。闘神とうしんみたいだ」 

 魔具の声が聞こえる。そう言った魔具使いは何人もいる。
 その中でも、複数の魔具を同時に使いこなした例は数えるほどしかない。
 変幻自在に戦い方を変える彼らは闘いの神、闘神と呼ばれた。

「ああそれなら私のおじいちゃんよ」
「そうかそうか…って、まじかよっ!?」
「ええ、もうとっくに引退しているけどね。だからこの宝具達は貰ったの」

 魔具が揃っていたのはそういう理由だったのか…それに闘神の孫か。それならさっきの動きも頷ける。

「今までも魔具を複数使ったことはあるか?」
「ないわね。だからもう楽しくって楽しくって」

 今すぐにでも駆けだしそうなミサキに釘を刺す。

「体におかしなところはないか?」
「大丈夫よ!まだ戦えるわ!」
「今日はもうやめといたほうがいいぞ。明日になって魔力痛になるかもしれない」

 回路は人には本来備わっていないもので、無理やり魔力を使えるようにしているだけだ。
 急に普段は使わない魔力を使ってしまって体の節々が痛くなるのはあるあるだ。
 
 特にミサキは3つの魔具の使用で、相当な魔力を消費しているはずだ。
 今はランナーズハイならぬマジックハイで気が付かないだけで、ダメージは必ずある。

「そう…残念だけどアンタがそう言うなら聞いておいてあげるわ」

 ここでごねられたら回路をしばらく使えなくしようと思っていたが、素直に聞いてくれてホッとした。

「それじゃあ報告に戻ろうよ!思ったより早く終わったね」

 サクラの言葉にうなずくと、元来た道を歩き出す。
 
「これも先輩のおかげです!ありがとうございます!」

 タエは何度も何度もお礼を言ってくる。
 これだけで一緒に来てよかったと思える。

 だけどそれももうすぐ終わりだ。
 このクエストが終わるまで。
 そういう約束で、前を歩く二人には同意してもらったのだ。 

 この次はない。

 寂しさを感じながらも、平静を装う。

「俺は何も。立っていただけだから」
「そんなわけないでしょ!超楽しかったわ!」

 ミサキは急に立ち止まると、小走りに近づいて来て、俺の手をブンブンと上下に振った。
 ずっと無邪気な笑顔を見ていたせいで、警戒心バリバリだった頃の顔を思い出せなくなってきた。
 目を吊り上げて、口を尖らせ…なんか違うな。もうどうでもいいか。

「むー」

 やべ、タエの方が怖い顔をしている。
 俺の視線でミサキも気が付いたようで、手を離すとタエに近づいていった。 

「ご、ごめんね、タエ!」

 タエはほっぺたを膨らませて怒った顔をしていたが、それがわざとなのは誰の目に見ても明らかだった。
 俺とサクラは顔を見合わせると、二人で笑った。
 それはじゃれていた二人の少女にも広がっていき、ギルドに向かう俺たちの間には笑顔が溢れていた。

 あーいいな。
 どうせクエストに参加するならこっちの方がいいな。
 もしかして契約書なんてない方がいいんじゃないだろうか?

 ほのかな疑問を胸に抱えるのだった。
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