魔力を失ってもいいんですか?パーティーを追い出された魔力回路師は気ままに生きる

夜納木ナヤ

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闘う魔力回路師

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 進化したモンスターは、直前まで受けていたダメージがすべて回復する。
 まさか、死地に遭遇したときに備えて進化を温存していたのか?

 だとしたら、とんだ凶悪モンスターだよ。

 それに…。

 サクラとミサキ。二人の魔力はもう残り少ない。
 最後まで魔力を使い切ってしまえば、回復までには時間がかかる。
 最悪の場合は二度と魔力が使えなくなるなんてこともある。

「三人とも、下がっていてくれ」
「先輩さん?」
「ちょっと何言ってんのよ…」
「分かりました」

 タエはそう言うと、二人の背中を押して下がっていく。
 本当にいい子だ。

「先輩、必要なものはありますか?」
「剣と斧を貸してくれ」
「サクラ、ミサキ」

 タエに促されるがままに、二人は頷いた。

「先輩さんがそう言うなら」
「わ、分かったわ」

 二人の持つ宝具が宙を舞い、俺の手に収まった。

 その瞬間、体のあちこちでの血管が切れるような感覚に襲われる。
 俺の回路が一瞬で消えかけたのだ。

 さすが宝具…尋常じゃない魔力の消費量だ…。
 俺は、俺の回路を必死に維持する。

 サクラとミサキ。二人の持つ魔力量はかなりのものだ。
 だが俺は違う。
 凡人にちょっと毛が生えたぐらいの魔力量しかない。

 宝具の負担に耐えられるのは、せいぜい三分だ。

「インスタントクッキングと行きますか」

 牛に接近すると、剣を振り、肉体を傷つける。
 だが、まだ足りない。
 サクラが戦っていた時にはほど遠い。そのはずだ。
 俺はまだ名を聞けていない。

 真上から落ちて来た拳に、斧を振り上げる。
 なんという威力だ。
 拳は真っ二つに割れ、俺の真横に落ちた。

「さて、問題はどこが弱点かってことだけど…」

 角は再生していない。
 モンスターは必ずどこかに弱点を持つ。
 別の場所に移動させているはずだが…。

「コネクト」

 魔力を地面に垂らすと、牛の体とリンクさせた。
 角のあった場所は、外からの攻撃を拒むように完全に閉鎖されている。

 それだけじゃない、顔を流れる魔力は毛細血管のように細い回路ばかり。
 その本体は、体の後ろにあった。

「うがっ」

 剣で攻撃を受け流したが、着地したときにふらついた。
 くそっ、そろそろ限界か。

 なんとかして後ろに回り込みたいが、牛が許してくれない。
 しかも、さっき真っ二つにした拳は再生している。

「意地でも後ろには回らせないってわけか」

 剣と斧で必死にあがく。
 二本の腕を切り落とし、弱点である尻尾を目指す。

 見えた!

 狙いを定めると、まっすぐに武器を突き出した。

「ウギャアアア」

 2本の宝具が突き刺したのは、牛の腹だった。
 こんなやろう、体を張って尻尾を守りやがった。
 
「くそっ、やるじゃねえか」

 宝具を引き抜こうとしたが、抜けない。
 しまった、ここまで想定して腹で受けたのかっ?!

 切り落としたはずの腕は再生されていて、脳天に落ちて来た。
 やむを得ず武器を捨てると、そのまま股の間を潜り抜けた。

 こうなったら一撃で決める。
 回路を魔力が腕に集中するように作り変える。
 これで殴れば終わり…。

「しまったっ」

 体が急に重くなった。
 魔力切れだ。
 同時に、体の節々に痛みが出る。
 魔力痛まで同時に来るなんて…最悪だ。

「さっきから最悪しか言っていないな」

 ミノタウロスの正面が俺を向き、狙っていた尻尾が遠ざかっている。
 万事休すだ。

「ウインドカッター!」

 ミノタウロスに何かが当たり、動きが止まった。
 正面を向いた体の股下から、尻尾が落ちるのが見えた。

 俺を狙った拳は降り下ろされることはなく、体ごと地面に落ちていく。

「先輩、大丈夫ですかっ」

 駆け寄ってきたのは、タエだった。
 まったく…まだ倒したか分からないんだから安心するんじゃねえよ…。

 文句を言おうにも、体は動かない。
 
 それに違う。
 俺が言わないといけないのはもっと別の言葉だ。

 目に涙を浮かべるタエを前に必死に言葉をひねり出す。

 ありがとう…。

 そう伝える前に、意識は途切れていた。 
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