魔力を失ってもいいんですか?パーティーを追い出された魔力回路師は気ままに生きる

夜納木ナヤ

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【ケディ視点】俺は悪くない

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 ミキヤ達がベヒーモスを倒してから数時間後、ケディは目を覚ました。

【ケディ】

「何があった?」
 
 目を開けると、俺を殺しに来ていたはずのモンスターが倒れていた。
 にしてもこんなに金ピカだったか?

 まあいい。
 俺が生きているなら関係ないことだ。

 しかしなぜだ?
 そうか、魔剣だ。

 魔剣が倒したに違いない。
 俺は気絶する直前に、倒したんだ。

 さすが俺だ。

「はっはっは…って、あれ?」

 腰に手を当てると、魔剣がない。
 どこへ行った?

 周囲を見渡すと、壁際で寝ている集団がいた。
 男一人に女3人。しかも男は…あいつ。

「なぜここにいる」

 まったく脳天気な奴らだ。
 モンスターが死んでいるからって安心しきってよ。
 
 いや待てよ…もしかして奴がこのモンスターを倒してっていうのか?

 いや、そんなことはあってはいけない。
 それではまるで俺が無能みたいじゃないか。

 奴を追い出した俺は負け、追い出された奴が勝つ。
 そんなことはあってはいけない。

「もしそうだとしても俺は何も悪くない」

 悪いのは、敵前逃亡をしたパーティメンバーだ。
 奴らが普通に戦っていれば勝てたはずだ。

 それにあの女…魔力回路師と言っていたが全く役に立たなかった。

 寝ている奴と言い、あの女と言い、魔力回路師にまともな奴はいねえのかよ。

「いっそぶっ殺してやろうか」

 そう思ったが、俺は一人で奴は女に囲まれている。
 これで暴力なんて振るったら、まるで嫉妬したみたいじゃねえか。

 そんなことはあり得ない。

 だが奴が今の俺を見たらどんな顔をする?
 想像するだけでぞっとする。

「せいぜいおねんねしたままモンスターでも襲われるといいさ」

 そうだ、俺が手を下す必要はない。
 S級モンスターの出る洞窟だ。
 他にもモンスターがいるに違いない。

「あばよ、俺の言うことを聞かなかったことをせいぜい悔いるといいさ」

 来た道を出ると、朝日は昇りかけてた。

「さて、ギルドにはどう報告しようか」

 少なくとも受けた3つのクエストのうちの2つは完了している。
 
 1つは失敗した。だが俺のせいではない。

 失敗したのはパーティメンバーのせいだ。
 クエストを受けた時のメンバーで、最後まで戦ったのは俺だけだ。

 むしろ讃えられるべきだ。

「く、くくく…あはははは、やはり俺は悪くない。弱い奴らが悪いんだ」

 町に戻ると、鎧の集団とすれ違った。
 たしか冒険者ギルド直属の騎士達だ。
 朝からご苦労なことだな。

 そのまま通り過ぎようとすると、先頭を進んでいた奴が立ち止まった。
 やたら目立つ金髪の男だ。
 ま、俺には関係ないか。

「皆の者、一旦止まれ」

 そう言って集団が立ち止まると、通行人達も驚いたように立ち止まった。
 犯罪者でもいたのだろうか?

 だったらおかしい。
 なぜ俺を見ている。

 勘違いだと思って後ろを振り返ったが、そこには誰もいない。

 たまたま居合わせた通行人も、俺を見ている。

 なんだよ。
 俺が何をしたって言うんだよ。

「クエストはどうした」

 金髪野郎は俺の前に立つと、睨みつけて来た。
 
「何のことだよ」

 騎士はギルド関係者の中でも下っ端だ。
 S級モンスター討伐などという重要事項を知るはずはない。

 だが、男ははっきりと言い放った。

「ベヒーモスは倒したのか?」

 こいつは俺を知っている。
 さて、どう答えたものか。
 
「ギルドマスターがお待ちだ。悪いことは言わない、日が昇ったらすぐに顔を出すことをおすすめする」
「おいおい、何を言ってるんだよ?」

 それじゃあ俺が悪いみたいな言い方じゃねえか。

「俺からの忠告は以上だ。無視するのは自由だが、ギルドに追い回される生活はしたくないだろ?」

 野郎はそれだけ言うと、背を向けて立ち去って行った。

「おいおい、ふざけんなよ…」

 俺が何をしたってんだよ。
 俺は騙されたんだ。クソみたいな魔力回路師とパーティメンバーに。
 そうだ、俺は被害者だ。
 きっとギルドマスターも分かってくれる。

「少なくとも俺はクエストを2つこなし、3つめも最後まで終わらせようとした。実績は十分だ」

 そう言い聞かせると、明るくなるのを待って冒険者ギルドに向かった。 
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