【完結】優しい君に「死んで」と言われたある夏の日

雪村

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一瞬の夏休み 桜side

駆け上がる

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全ての荷物をバッグに入れて堤防の上から降りる。

そこまで高くは無いけど降りるのに恐怖が出るが、何とか無事降りれた。

画材のバッグを肩にかけると涼がそのバッグを引っ張る。

持ってくれるんだとわかったので私は素直に下ろして涼に渡した。



「ありがとう」

「次は上り坂だから走るなよ」

「さっきは急いでいたけど、今は急いでないから大丈夫」

「これ重いんだからな」

「沢山入ってるからね」



涼の隣に並んで来た道を引き返す。

下れば上り。

それは当たり前な事だけど、最初に走った私の足は結構辛かった。

涼は何ともない顔で歩いているから、ちゃんと運動をしている証拠だろう。

チャンスがあれば運動を始めてみるのもいいかもしれない。

最近お腹周りに肉が付いた気がする。

私は頑張って足を上げながら坂道と戦った。



「どっか寄り道でもするか?」

「涼何か食べた物ある?お礼に奢るよ」

「いや、いい」

「なんでよ。私の気が済まないから」

「好きな人から金は取れねぇよ」

「……」



本当に吹っ切れたみたいに私を好きと言ってくれる。

でも私はその言葉をどう返していいかわからない。

涼は今でも告白の返事を待っているのか。

そう考えるといつまでも答えを出さないのは失礼になる。

しかし自分の気持ちなんてわからない。

だから返事を焦らさない涼に甘えてしまう。

私は色んな人に甘えっぱなしだなと思った。

そういえば才田さんはどうなったのかな。

スマホには通知が来ていないからきっとまだ確定してないのだろう。

あの頼もしい言葉通りになってほしい。

いや、才田さんなら実現させてくれる。

今回ばかりは期待させてほしい。



「あっ」



色んなことを想っていると頬に水が流れる。

もしかして感情的になって泣いてしまったのだろうか。

昨日から泣いてばかりだから涙腺の制御が出来てないのかもしれない。

私は慌てて水を手で拭って目を擦ると涼も同じ声を出す。



「あー、降ってきたわ…」



私は目から手を離して空を見るとポツポツと水が落ちてくる。

また1滴、顔に付いた。

涙ではなく雨だったらしい。



「傘持ってる?」

「持ってねぇ」

「走る?」

「走るか」



涼と私の意見が一致したと同時に走り出す。

まだ完全に降っているわけではない。

でもこれから本降りになるはずだ。

上り坂を走るのはきついけど、雨で絵が濡れてしまったら元も子もない。

一応私に合わせてくれる涼の後ろを追って坂を駆け上がった。

「なぁ桜!」

「な、何?」

「青春謳歌してるな!」

「はぁ?」

「雨降りの中で走り抜けるって青春の塊だろ!」

「なんで今言うの!」

「今走ってるからだろ!」



雨の音でお互いの声が聞こえにくくなっているため、自然と声量が大きくなってしまう。

でもそれはちゃんと伝え合いたいという証拠だ。

人も歩いていないので私達は構わずに大声で会話する。



「俺もう満足したわ!青春謳歌計画!」

「それは良かったですね!」

「桜と一緒だから楽しい!」

「……またそんなこと言って…」

「何!?」

「うるさい!前見て!転ぶ!」



私は叱るように叫ぶと涼は笑って前を見た。

一応怒ったはずなのに、涼は何だか嬉しそう。

よくわからないなと思いながら絵を抱えて走る。



「駅付近になれば屋根あるから!」

「はぁ、はぁ、り、了解…!」

「大丈夫かー?」

「大丈夫だし!」

「何キレてんだよ」



時々私の方を振り返って笑顔を向ける涼は、言葉通りに青春謳歌を満足しているようだった。

しかしその笑顔は私を困惑させる。

自分自身は青春なんてものを持っているのかと自問自答した。

涼のように日々の生活を充実させたいとか、高校生らしい生活とか、考えたことない。

もし、私の中に涼のような思考があったら…。

また別の道を歩んでいたはずだ。

私の顔に雨では無い液体が流れた気がした。



ーーーーーー



駅前に着くと屋根があったので私達は速度を緩めて走るのをやめる。

雨は本降り近くなっていた。

ゆっくり歩きながら持っている絵を確認する。



「絵は大丈夫」

「良かった」 



少し雨で濡れた部分があるけど、乾かせば問題ない程度だ。

駅のホームに入って私は真っ先に椅子に座った。

涼はそのまま歩いて時刻表を確認してくれる。



「…後5分後だな」

「OK」

「とりあえず最寄駅着いても雨がやばかったから傘買うしかないな」 

「そうだね」



涼は待ってくれていた画材を椅子に置くと周囲を探索する。

あれだけ走ってもなお動ける体は凄いなと感心した。

何かを探すように顔を近づけたり、しゃがんだりしている。



「何してんの?」

「ちょっと探し物」

「落とした?」

「いや」



駅に着いたばかりなのに何を探しているのだろう。

他に人が居ないから多少変な行動をとっても問題はない。

私は涼から目を離して今も降り続けている雨を見ていた。



「桜」 

「何」

「こっち来て」

「涼が来てよ」

「持っていけないから…ほら早く」 

「もー何?」



私は走った衝動で疲れている重い体を立たせて涼の所へ行く。

ホームと線路の境目である黄色い線の前で涼はしゃがんでいた。

私は線の内側に立って涼が指さす方向を見る。

そこには花が咲いていた。

薄い色で、沢山の花が集まっている。

花弁は8枚。

ピンク色に染まった花達が雨に打ち付けられていた。  



「コスモス…」

「あ、これコスモスなんだ」

「知らないで私を呼んだの?」

「だって特徴が似ていたからさ」  



私は改めてまじまじとコスモスを見る。

花弁に付いた雨の雫は1滴ずつ地面へと落ちていく。



「あの人が言っていたのはコスモスだったのかな…?」 



青年が最初に思い浮かんだ花。

それは青年しかわからないけど、私からの答えはコスモスだと確定してしまった。

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