徳川慶勝、黒船を討つ

克全

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第1章

13話

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「秀之助、浪士隊の選別は大丈夫か」

「お任せください兄上。
 水戸家系の尊王派浪士は、兄上が新たに創設された尾張黒鍬衆に任命して、全員蝦夷に派遣致しました。
 何があっても江戸や京で暴れる心配はありません」

「そうだな。
 南蛮が攻め寄せた機に乗じて、討幕運動を起こされてはかなわん。
 蝦夷地を抜けだすようなら追手を放って殺す」

「はい、兄上」

 徳川慶恕は、誰よりも信頼する松平武成を江戸に常駐させ、全てを相談していた。
 その様子を江戸にいる弟達に見せ学ばせていた。
 今回打った手は、上覧武芸試合で優秀な成績を納めた者で、尾張家に仕官することを望んだ者達に対する処遇であった。

 徳川慶恕が何よりも恐れているのが、水戸家の尊王思想だった。
 徳川御三家の一つ水戸徳川家が、幕府より皇室を重んじることを危険視していたが、徳川松平一門内で表立って争う愚も分かっていた。
 そこで裏で水戸家と尊王を封じる策を考えた。
 それが尊王浪士を懐柔する事と、懐柔できない尊王浪士の蝦夷流しだった。

 尾張家黒鍬衆には十五俵一人扶持が与えられ、更に十町の開拓地が与えられる。
 しかも屯田兵の役割が与えれれ、武具鉄砲が貸し与えられる。
 それだけではなく、開拓に役立つ馬まで貸し与えられるのだ。
 だが当然、露国軍が攻め寄せてきたら、命懸けで戦わなければならない。
 危険だが、開拓に成功すれば、地行百石の上士、騎乗士となれるのだ。
 ただやらねばならない義務として、開拓のために貸し与えられた馬は、繁殖させて仔馬を藩に献上しなければいけないし、採れた雑穀は酒にすることを求められる。

 それでも、多くの浪人や部屋住みにとっては夢のような話だった。
 いや、当主や跡継ぎにも夢のような話だった。
 将軍家に仕える旗本でも、騎乗資格のない者がいる。
 知行地を与えられず、一段低く見られる蔵米取の旗本もいる。
 それが百石とはいえ、一国一城の主、知行取になれるのだ。
 家督を子弟に譲り、尾張家に仕官する者が沢山現れた。

 同時に、将軍家、徳川松平家に忠誠心厚いと判断された者達は、徒士組として取立てて、尾張家の最低蔵米三十俵が支給された。
 もちろん武家長屋を貸し与えられるし、なによりも大きかったのが、騎乗資格が与えられ、軍馬と武具が貸与された事だった。
 浪人や微禄の出身で、甲冑などをそろえられない者達には朗報だった。
 同時に尾張家が軍馬農耕馬を買い集めたため、奥羽の困窮する諸藩には、藩財政が息をつける朗報となった。
 
 「年貢基準一反(三百坪)」
上田 :一石五斗
中田 :一石三斗
下田 :一石一斗
下下田:九斗
上畠 :一石二斗
中畠 :一石
下畠 :八斗
下下畠:六斗
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