毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全

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第1章

第5話:美咲対エマ

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アバコーン王国暦287年2月13日ガーバー子爵領アームストン城・美咲視点

(私の身体を返してちょうだい!)

「私の身体?
 この身体の持ち主なの?
 私は本当に転生憑依したの?」

「エマお嬢様!
 何を申されておられるのですか?!
 どこか痛まれるのですか?!」

「大丈夫です、アビゲイル。
 覚えていなかった、あまりにもひどい話を聞いて、心が痛んだだけです」

「申し訳ございませんでした、エマお嬢様。
 傷心のエマお嬢様のお聞かせする事ではありませんでした」

「いえ、よく聞かせてくれました、アビゲイル。
 お陰で今の私の立場がよく理解できました。
 ただ、あまりの事に何をどうすればいいのか分からないのです。
 少し1人にしてくれませんか?」

「いえ、それだけはできません。
 エマお嬢様を1人にする事だけは、絶対にできません。
 どうしても1人になりたいのでしたら、ベッドでお休みください。
 カーテンを閉めてお休みいただきます」

「分かりました。
 しばらく泣き言を口にするかもしれませんが、聞かないようにしてください」

「……部屋の隅にいさせていただきます」

 アビゲイルは部屋の隅にいてくれるようですね。

「貴女がこの身体の持ち主のエマなの?」

(そうよ、分かったらさっさと身体を返してちょうだい!)

「私も他人の身体を乗っ取るような悪趣味はないわ。
 返せる物なら返したいのだけれど、エマは返し方が分かる?」

(身体を乗っ取られたわたくしが、そのような方法を知っている訳がないでしょう。
 身体を乗っ取った貴女が考えなさい)

「エマは勝手に身体を乗っ取ったと言うけれど、私にそんな気はなかったの。
 暴漢に刺されて目が覚めたらここにいたのよ。
 この世界にはそんな事がよく起こるの?」

(……この世界て、貴女、何所から来られたの?)

「どこからと言われても困るわ。
 少なくとも、こんな立派な天蓋付きのベッドに寝られる世界ではなかったわ。
 それに、王太子が婚約者の公爵令嬢を殺そうとして許される世界でもなかったわ」

(それは羨ましい話しね。
 王太子でも人を陥れたら許されないのね?)

「証拠さえ見つけられたら、殺人罪で8年は牢屋お送りよ」

(人を殺して8年程度の牢屋入りなら、大した罰ではないわね)

「私のいた世界は、悪人にも人権がある世界だからね。
 殺された被害者や残された遺族よりも、殺人犯を大切にするのよ」

(そんな話はどうでもいいのよ!
 貴女がこの世界の人間じゃなくて、わたくしの身体を勝手に乗っ取ったのが問題なのよ、分かっているの?!)

「分かっているわよ。
 分かっているから、返せる物なら返したいと思っているの。
 この世界には魔法や魔術はあるの?
 もしあるのなら、魔法や魔術でどうにかできない?」

(大昔には、魔法や魔術があったと聞いているわ。
 魔術士とか魔女と呼ばれる人々が、今も密かに魔術を伝承しているという噂もあるけれど、少なくともわたくしは1度もこの目で見た事がないわ。
 そう言う貴女の世界には魔法や魔術があったの?)

「残念ながら、私が生まれ育った世界には魔法も魔術もなかったわ。
 だから身体を返す方法は知らないの」

(役に立たない人ね!)

「無理を言わないで!
 急に何も分からない世界に連れてこられたのよ!
 常識も何も分からないのに、役に立つわけがないでしょう!」

(……仕方ありませんわね。
 だったら、急いでこの世界の常識を身に着けてもらわなければなりません。
 私の身体を使う以上、恥ずかしい言動は許しません!)

「それくらい分かっているわよ。
 私だって、マナー違反をしたいわけではないし、恥をかきたいわけでもないわ」

(でしたら、明日の朝食からマナーを覚えていただきますわ。
 食事だけでなく、立ち振る舞いも言葉遣いも、全部覚えていただきますわ)

「それはいいけれど、私にも少しは息抜きさせてよ。
 ある日突然に常識の違う世界に転生憑依させられて、何が正しくて何が間違っているのか、一切わからないのよ」

(しばらくは、記憶を失っている事にしなければいけませんわね……
 今直ぐにでも両親の復讐をしたいと言うのに!)

「復讐て、ご両親を殺してエマに毒を飲ませたと言う王太子の事?」

(王太子だけではなく、王家や王家におもねる貴族達もです。
 そして、父上とは母上を裏切ったジェームズもです!
 そして私を毒殺しようとしたイザベラにです!)

「ジェームズて、エマの叔父にあたる人だっけ?」

(あのような卑怯下劣な奴は叔父でも何でもありません!)

「はい、はい、分かりました。
 でも、それだけ大勢を相手にして、勝てるの?
 返り討ちにあったら何にもならないわよ?」

(ハリーお爺様の力をお借りすれば、確実に勝てますわ。
 この国最強の騎士団と傭兵団を相手にして、生き残れる者などおりませんわ)

「私の世界の常識に当てはめていいのか分からないけれど、騎士団や傭兵団は、城壁によって厳重に護られた都市や城を落とせなかったはずよ?
 魔法や魔術を使って城壁を壊したり障壁を乗り越えたりできるの?」

(魔法や魔術は失われたと言ったではありませんか。
 今の騎士団や傭兵団に、そのような事はできませんわ。
 ですが、お爺様の軍に包囲された都市や城は何もできなくなりますわ)

「補給は大丈夫なの?
 主力の騎士団や傭兵団が領地を離れてしまったら、敵に襲われたりしないの?
 味方になってくれる人はどれくらいいるの?」

(貴女、いやに軍事に詳しいですわね?
 女だてらに軍に志願していましたの?
 アビゲイル達のように、修道院騎士でもしていらしたの?)

「軍に志願した事はないし、兵役があったわけでもないわ。
 小説を書くのに、孫子や軍事マニュアルを読んだ事があるだけよ」

(よく分かりませんが、正式な訓練を受けていないのなら、よけいな事は言わないでください)

「でも、間違った事は言っていないはずよ。
 エマの言う通り、最強の軍隊があったとしても、適度に休息ができる本拠地と補給物資がなければ、十分な力を発揮できないわよ」

(悔しいですが、貴女の言う通りですわね。
 お爺様の軍もそれほど長く領地を離れることはできませんわ。
 それに、お爺様のブラウン侯爵家はそれほど豊かではありません。
 騎士団や傭兵団が稼がないと、全ての領民を食べさせていけません。
 まして、周辺の貴族家が絶え間なく略奪をくり返すとしたら……)

「エマが考えても厳しい状態なら、ちょっと試してみない?」
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