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第2章:ハンセン氏病
第13話:山田奉行所
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宮川の雪解け水が増えるに従い奉行所は忙しくなっていった。
雪解け水や梅雨の雨水で宮川が決壊しないように、万全の準備をしなければいけないのだ。
「柘植様、此方の亀裂を見てください。
こういう所の修繕に手抜くと、取り返しのつかない事になります」
「ありがとう、覚えておく」
まだ見習でしかない柘植定之丞は、熟練の御目付役与力の補佐を受けながら、宮川堤防修築の検分を行っていた。
山田奉行所の頭は他でもない御奉行だが、御奉行を支える次席は、御船手御組頭とも呼ばれる、焼火の間格の御普請格役御組頭七家だ。
御普請格役御組頭の下には十家の与力家があり、御番頭三人、御番頭格二人を上席に、御目付五人、御目付格四人、奥撰用二人から五人、表撰用五人から六人と、とても十家ではこなせない役目を分け持っていた。
同心七十五家は、奉行所の役目と軍船の役目に分かれている。
主水五十家は、普段は軍船専従要員として鍛錬に励んでいた。
山田奉行所が将軍家からお預かりしている軍船は、江戸の船手組に劣らない見事な軍容だった。
三代将軍家光が御座船として建造させた安宅丸と天地丸は有名だが、解体を免れた天地丸の全長は二十八メートル、胴幅七・二メートル、七十六挺立の巨船だ。
だが山田奉行所に配属されている御座船虎丸もそれほど負けておらず、全長二十五・九メートル、胴幅六・八メートル、六十八挺立の巨船だ。
しかも同規模の御座船孔雀丸と、小関船の天地丸、鬼丸、千速丸、一楽丸、小鷲丸、乙矢丸、小鳥丸の合計七隻もの水軍を擁している。
江戸にある御座船、天地丸と同じ船名の小関船があるのはご愛敬で、家光公の命名に唯々諾々と従った結果である。
「柘植様、与力の叩く太鼓一つ、掛ける調子一つで、水主たちが漕ぐ櫓の力が変わり、船足が変わってしまうのです」
「ほう、祭りの太鼓と同じなのだな」
「はい、与力が倒れる事も考えておかなければなりません。
年寄役の同心はもちろん、柘植様にも太鼓と掛け声を覚えていただけなければなりません」
「心得た」
その維持管理はもちろん、主力として櫓を漕ぐ水主と主水同心の鍛錬、指揮を執る与力や御普請格役御組頭も経験を積まなければいけない。
手を抜いて適当にやるのならともかく、本気で役目に励むと、とても当主だけでは手が回らない。
まして当主が急逝しようものなら、未経験の跡継ぎが一から役目を覚えなければならず、奉行所は回らなくなってしまう。
或いは特定の個人に負担がかかり過ぎてしまうのだ。
特に板子一枚下は地獄と言われる船では、何の経験もない素人を正式な人員として扱う訳にはいかない。
それ故、山田奉行所では親子出仕が常態化していた。
与力家が十家しかないのに、役目が二十以上あるのも当然だった。
雑用ともいえる役目を見習の嫡男が経験していくのだ。
練達の親世代と子世代が組んで当番をこなし、親世代のやる事を見て覚え、徐々に自分でもやれるようになっていくのだ。
今日も柘植定之丞は陸の役目の合間を縫って船に乗る。
潮風に吹かれながら伊勢の湊を漕ぎだす。
心密かに漁船に乗る癩病の無事を願いながら。
「奉行所下僚の格式と家数」
支配組頭:4家から7家に増員、二百俵二十人扶持
与力 :6家から10家に増員、大阪船手組と同じように現米六十石が三十六石
同心 :20家から75家に増員、二十俵二人扶持が二十両二人扶持
主水 :40家が50家に増員、現米七石一人半扶持から七両一人半扶持
「奉行所下僚の格式と定員」
支配組頭:御普請格役御組頭4人
: 御組頭格3人
与力 : 御番頭3人
: 御番頭格2人
: 御目付5人
: 御目付格4人
: 奥撰用2人から5人
: 表撰用5人から6人
同心 : 御広間詰10人(同心)
: 御広間番10人(同心)
: 御番所詰10人(同心)
: 御番所番10人(同心)
「奉行所下僚の格式と配属先」
御用部屋:御普請格役御組頭2人(同格の4人で2人1組で交替日勤勤務)
: 御組頭格3人(表撰用与力と宿直)
: 奥撰用1人(当番与力が1人)
: 表撰用2人(当番与力が2人だがその内の1人は宿直)
御広間:御普請格役御組頭1人(同格の4人で2人1組で交替日勤勤務)
: 御番頭1人(与力)
: 御番頭格1人(与力が御組頭と組んで宿直)
: 御目付5人(与力)
: 御目付格4人(当番与力が宿直)
: 御広間詰10人(同心)
: 御広間番10人(同心)
御番所:御普請格役御組頭1人(同格の4人で2人1組で交替日勤勤務)
: 御番頭2人(与力が門番所を宿直)
: 御番頭格1人(与力が御組頭と組んで宿直)
: 表撰用2人(当番与力が2人だがその内の1人は宿直)
: 御番所詰10人(同心)
: 御番所番10人(同心)
雪解け水や梅雨の雨水で宮川が決壊しないように、万全の準備をしなければいけないのだ。
「柘植様、此方の亀裂を見てください。
こういう所の修繕に手抜くと、取り返しのつかない事になります」
「ありがとう、覚えておく」
まだ見習でしかない柘植定之丞は、熟練の御目付役与力の補佐を受けながら、宮川堤防修築の検分を行っていた。
山田奉行所の頭は他でもない御奉行だが、御奉行を支える次席は、御船手御組頭とも呼ばれる、焼火の間格の御普請格役御組頭七家だ。
御普請格役御組頭の下には十家の与力家があり、御番頭三人、御番頭格二人を上席に、御目付五人、御目付格四人、奥撰用二人から五人、表撰用五人から六人と、とても十家ではこなせない役目を分け持っていた。
同心七十五家は、奉行所の役目と軍船の役目に分かれている。
主水五十家は、普段は軍船専従要員として鍛錬に励んでいた。
山田奉行所が将軍家からお預かりしている軍船は、江戸の船手組に劣らない見事な軍容だった。
三代将軍家光が御座船として建造させた安宅丸と天地丸は有名だが、解体を免れた天地丸の全長は二十八メートル、胴幅七・二メートル、七十六挺立の巨船だ。
だが山田奉行所に配属されている御座船虎丸もそれほど負けておらず、全長二十五・九メートル、胴幅六・八メートル、六十八挺立の巨船だ。
しかも同規模の御座船孔雀丸と、小関船の天地丸、鬼丸、千速丸、一楽丸、小鷲丸、乙矢丸、小鳥丸の合計七隻もの水軍を擁している。
江戸にある御座船、天地丸と同じ船名の小関船があるのはご愛敬で、家光公の命名に唯々諾々と従った結果である。
「柘植様、与力の叩く太鼓一つ、掛ける調子一つで、水主たちが漕ぐ櫓の力が変わり、船足が変わってしまうのです」
「ほう、祭りの太鼓と同じなのだな」
「はい、与力が倒れる事も考えておかなければなりません。
年寄役の同心はもちろん、柘植様にも太鼓と掛け声を覚えていただけなければなりません」
「心得た」
その維持管理はもちろん、主力として櫓を漕ぐ水主と主水同心の鍛錬、指揮を執る与力や御普請格役御組頭も経験を積まなければいけない。
手を抜いて適当にやるのならともかく、本気で役目に励むと、とても当主だけでは手が回らない。
まして当主が急逝しようものなら、未経験の跡継ぎが一から役目を覚えなければならず、奉行所は回らなくなってしまう。
或いは特定の個人に負担がかかり過ぎてしまうのだ。
特に板子一枚下は地獄と言われる船では、何の経験もない素人を正式な人員として扱う訳にはいかない。
それ故、山田奉行所では親子出仕が常態化していた。
与力家が十家しかないのに、役目が二十以上あるのも当然だった。
雑用ともいえる役目を見習の嫡男が経験していくのだ。
練達の親世代と子世代が組んで当番をこなし、親世代のやる事を見て覚え、徐々に自分でもやれるようになっていくのだ。
今日も柘植定之丞は陸の役目の合間を縫って船に乗る。
潮風に吹かれながら伊勢の湊を漕ぎだす。
心密かに漁船に乗る癩病の無事を願いながら。
「奉行所下僚の格式と家数」
支配組頭:4家から7家に増員、二百俵二十人扶持
与力 :6家から10家に増員、大阪船手組と同じように現米六十石が三十六石
同心 :20家から75家に増員、二十俵二人扶持が二十両二人扶持
主水 :40家が50家に増員、現米七石一人半扶持から七両一人半扶持
「奉行所下僚の格式と定員」
支配組頭:御普請格役御組頭4人
: 御組頭格3人
与力 : 御番頭3人
: 御番頭格2人
: 御目付5人
: 御目付格4人
: 奥撰用2人から5人
: 表撰用5人から6人
同心 : 御広間詰10人(同心)
: 御広間番10人(同心)
: 御番所詰10人(同心)
: 御番所番10人(同心)
「奉行所下僚の格式と配属先」
御用部屋:御普請格役御組頭2人(同格の4人で2人1組で交替日勤勤務)
: 御組頭格3人(表撰用与力と宿直)
: 奥撰用1人(当番与力が1人)
: 表撰用2人(当番与力が2人だがその内の1人は宿直)
御広間:御普請格役御組頭1人(同格の4人で2人1組で交替日勤勤務)
: 御番頭1人(与力)
: 御番頭格1人(与力が御組頭と組んで宿直)
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: 御番所番10人(同心)
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