伊勢山田奉行所物語

克全

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第2章:ハンセン氏病

第15話:檀家獲得

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「柘植様、お陰様を持ちまして、宮川の渡しの手前で待ち受けての檀家獲得は、予想以上の大成功でございます」

「ほう、それほど檀家が増えたのか」

「はい、檀家衆には手代がついておりますので、宮川手前で手代のついていない方々に、片っ端から声をかけさせていただきました」

「ふむ」

「檜垣屋でも、農繁期は部屋が空いている事がありますので、外宮神官家の従五位上の権禰宜が直々に営む御師宿だと申せば、多くの者が泊ってくれます」

「宿賃は見合うのか。
 木賃宿で三十二文、旅籠でも高くて三百文程度であろう。
 無理をして損をしているのではないか」

「最初にどれくらいの御足を出せるのか、手代によく確かめさせております。
 懐の寂しい方には、一汁一菜に魚を一皿つけて泊まっていただいております。
 その上で、伊勢講の方々がどのようなもてなしを受けるかのを見ていただき、差を実感していただくようにしております」

「ほう、それで檀家になる者が多いのか」

「全ての方という訳にはいきませんが、半数の方は講に加わってくださいます。
 檀家になっていただけなかった方々も、次の御参りの折には、暖簾分けした御師宿に泊まってくださるとの事です」

 隠居が言う暖簾分けした御師宿というのにも二つあった。

 一つは暖簾分けした後で、檜垣屋が持っている小さな御師宿を使う者達の事だ。
 檜垣屋に務めている間に新規の檀家を獲得して講を作った手代が、檜垣屋が持っている小さな御師宿に宿泊させるのだ。

 もう一つの御師宿は、暖簾分けした手代が頑張って購入した御師宿だ。
 だが、その元手になる御金は檜垣屋が報奨金として与えた物なので、本家分家として強い絆で結ばれている。

「新しく関係ができた伊勢参りの者達の懐具合によって、案内する御師宿を変えているのだな」

「はい、特に女だけでお伊勢参りする方々は、安心して泊めれる宿を熱望されておられるようで、手前ども持っております御師宿の一つを女人専用にしようかと思っております」

「隠居、御師宿は飯盛り女や按摩を置いていないから、伊勢参りの者達が余計な金を心配する事なく泊まる事ができる。
 その事も知らせるようにすれば、今以上に誘いに乗る者が増えるかもしれんぞ」

「ありがとうございます、直ぐにやらせてみます」

 旅籠の宿賃が、一汁一菜に焼魚か煮魚が付いた二食で二百文から三百文なのに、大きな宿の飯盛り女が五百文から七百文もするのだ。

 自ら精進落としに古市遊郭に行くのならともかく、止め女に無理矢理旅籠に引きずり込まれ、同じ女が今度は飯盛り女になり、強引の交渉をされてずるずると買ってしまうのが男の哀しい性だ。

 それに、やり手の飯盛り女は値段交渉にも長けている。
 払うのは飯盛り女の代金だけでない。

 四百程度の酒と肴を取らなければいけないし、番頭や仲居に二百文くらいのご祝儀を渡さなければいけない。

 本当なら高くても三百文程度の旅籠代が、千三百文も余分に支払わなければいけないのだから、安心して泊まれる旅籠が求められて当然だった。

「隠居、檜垣屋に余裕があるのなら、山田だけでなく、伊勢参宮街道沿いに御師推薦の旅籠を持ってはどうだ」

「それも考えたのですが、少々厳しいのです」
 
 伊勢講にも豊かな所もあれば貧しい所もある。
 毎年代表を送れるような大規模な講もあれば、五年に一度しか小規模な代参を送れない貧しい講もある。

 中には最初から伊勢参りを諦めて、年に一度、代表の家に御師からいただいた掛け軸を祭り、酒食を共にするだけの講まであるのだ。

 これまでの御師と檀家のように、一度お伊勢参りに出たら全ての支払いを檀家廻り手代に任せるような事ができなくなる。

「何もこれまで通りのもてなしを檜垣屋がやる必要はない。
 先ほど隠居が申していたではないか。
 檜垣屋はその格に相応しい檀家だけを迎えればいい。
 貧しくても伊勢神宮を信心する者のための御師宿を、暖簾分けした手代にやらせればいい」

「息子や暖簾分けした者達と話してみます」
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