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第2章:ハンセン氏病
第16話:癩病船
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「とてもお忙しいのに、余分な事をお願いしてしまい、申し訳ありません」
隠居が深々と頭を下げる。
「ゆうがずっと気にしていたかららな」
「私のために、ありがとうございます」
ゆうは謝るのではなくお礼を言った。
その心の持ちようが柘植定之丞には心地よかった。
自分となじように、身分と役目に縛られているが、本当は何者にも縛られず弱き者を助けたいという想いを持っていると。
「隠居が流してくれた噂は、上手く伊勢一円に広まってくれた。
網元も最初は半信半疑であったが、試しに癩病を乗せた船が豊漁であったようで、それ以来ずっと船に乗せている」
「それはようございました。
豊受大御神様の御利益に違いありません」
「他の網元も、徐々に癩病を船に乗せるようになっている」
「もうこれで何の心配もいらないのでしょうか」
「残念ながらそう言う訳にはいかない。
今までは良き想いの噂からだが、これからは悪しき想いの噂が心配だ」
「どう言う事でございますか」
「誰かが癩病を嫌って悪い噂を流し、その所為で癩病が傷つけられるかもしれないという事だよ、ゆう」
「そのような者がいるのですね、哀しい事です」
「傷つけられる程度ですめばいいが、以前も言ったように、不漁に腹を立てた漁師が癩病を海に突き落とし、海神の生贄にするのが心配だ」
「まあ、何とかならないでしょうか」
「落ち着きなさい」
思わず這いより、柘植定之丞の手に自分の手を添えたゆうを隠居がたしなめる。
「私も見習いとは言え支配組頭だ、できるだけ注意して見守るようにするが、最初の生贄は見逃してしまうかもしれない。
噂話にも気を付けるが、隠居、檜垣屋も聞き耳を立てておいてくれ」
「承りました。
元々は家のゆうが柘植様に無理を言ってお願いしたことでございます。
柘植様のお手を煩わせないように、できる限り噂を集めさせていただきます。
他にもできる事がありましたら、何なりとお申し付けください」
「では、本家の力を使ってくれるか」
「檜垣河内家の力でございますか」
「そうだ、外宮の力を使って、人を生贄に使うような者は、豊受大御神様の天罰を受けると漁師に思わせるのだ。
生贄を使うような漁師や網元には、お祓いを行わないと言わせてもらいたい」
「本家の決める事ですので、絶対とはお約束できませんが、できる限り説得させていただきます」
「そうしてくれ。
ただ、他人頼みでは心もとないので、他の手も打っておきたい」
「他の手でございますか」
「そうだ、本来生まれ育った在所を捨てた者は非人小屋に入れられる。
ただ伊勢の神領では他所から来た野非人を受けいれる事はない。
そこで周囲の非人小屋に話しをつけておくのだ」
「どのように話しをつけておくのでしょうか」
「神領内で他所から来た非人の勧進は許されていない。
だが、神領から僅かでも外れたらその限りではない。
周囲の非人小屋が神領からわずかに離れた場所で勧進を行った時に、山田から苦情を言わない事を条件に癩病を抱えてもらう。
もう既に松阪の非人番善久は承知している」
「柘植様がそこまで骨折りしてくださっているのに、先に無理をお願いした私共が否やを申せるはずがございません。
この檜垣屋の身代を賭けてでも山田の衆を説得してみせます」
「そこまで無理をする事はない。
檜垣屋の本分は檀家をもてなす事だ。
檜垣河内家の分家として考えるのなら、神宮を護る事だ。
それ以外は片手間にしておかないと、愚か者と誹られるだけだ」
「重ね重ねのご厚情、お礼の言葉もございません。
ゆう、今の言葉を忘れるのではありませんよ。
お前の優しい心は尊いですが、それが行き過ぎて神宮を護れないようでは、これまでお前を慈しみ護ってくださった豊受大御神様に迷惑をおかけしてしまうのです」
「はい、決して豊受大御神様にご迷惑をかけるような事はしません。
ご迷惑をかける事の無いように、力をつけて見せます。
柘植様、本当にありがとうございます。
私も精一杯頑張らせていただきます」
隠居が深々と頭を下げる。
「ゆうがずっと気にしていたかららな」
「私のために、ありがとうございます」
ゆうは謝るのではなくお礼を言った。
その心の持ちようが柘植定之丞には心地よかった。
自分となじように、身分と役目に縛られているが、本当は何者にも縛られず弱き者を助けたいという想いを持っていると。
「隠居が流してくれた噂は、上手く伊勢一円に広まってくれた。
網元も最初は半信半疑であったが、試しに癩病を乗せた船が豊漁であったようで、それ以来ずっと船に乗せている」
「それはようございました。
豊受大御神様の御利益に違いありません」
「他の網元も、徐々に癩病を船に乗せるようになっている」
「もうこれで何の心配もいらないのでしょうか」
「残念ながらそう言う訳にはいかない。
今までは良き想いの噂からだが、これからは悪しき想いの噂が心配だ」
「どう言う事でございますか」
「誰かが癩病を嫌って悪い噂を流し、その所為で癩病が傷つけられるかもしれないという事だよ、ゆう」
「そのような者がいるのですね、哀しい事です」
「傷つけられる程度ですめばいいが、以前も言ったように、不漁に腹を立てた漁師が癩病を海に突き落とし、海神の生贄にするのが心配だ」
「まあ、何とかならないでしょうか」
「落ち着きなさい」
思わず這いより、柘植定之丞の手に自分の手を添えたゆうを隠居がたしなめる。
「私も見習いとは言え支配組頭だ、できるだけ注意して見守るようにするが、最初の生贄は見逃してしまうかもしれない。
噂話にも気を付けるが、隠居、檜垣屋も聞き耳を立てておいてくれ」
「承りました。
元々は家のゆうが柘植様に無理を言ってお願いしたことでございます。
柘植様のお手を煩わせないように、できる限り噂を集めさせていただきます。
他にもできる事がありましたら、何なりとお申し付けください」
「では、本家の力を使ってくれるか」
「檜垣河内家の力でございますか」
「そうだ、外宮の力を使って、人を生贄に使うような者は、豊受大御神様の天罰を受けると漁師に思わせるのだ。
生贄を使うような漁師や網元には、お祓いを行わないと言わせてもらいたい」
「本家の決める事ですので、絶対とはお約束できませんが、できる限り説得させていただきます」
「そうしてくれ。
ただ、他人頼みでは心もとないので、他の手も打っておきたい」
「他の手でございますか」
「そうだ、本来生まれ育った在所を捨てた者は非人小屋に入れられる。
ただ伊勢の神領では他所から来た野非人を受けいれる事はない。
そこで周囲の非人小屋に話しをつけておくのだ」
「どのように話しをつけておくのでしょうか」
「神領内で他所から来た非人の勧進は許されていない。
だが、神領から僅かでも外れたらその限りではない。
周囲の非人小屋が神領からわずかに離れた場所で勧進を行った時に、山田から苦情を言わない事を条件に癩病を抱えてもらう。
もう既に松阪の非人番善久は承知している」
「柘植様がそこまで骨折りしてくださっているのに、先に無理をお願いした私共が否やを申せるはずがございません。
この檜垣屋の身代を賭けてでも山田の衆を説得してみせます」
「そこまで無理をする事はない。
檜垣屋の本分は檀家をもてなす事だ。
檜垣河内家の分家として考えるのなら、神宮を護る事だ。
それ以外は片手間にしておかないと、愚か者と誹られるだけだ」
「重ね重ねのご厚情、お礼の言葉もございません。
ゆう、今の言葉を忘れるのではありませんよ。
お前の優しい心は尊いですが、それが行き過ぎて神宮を護れないようでは、これまでお前を慈しみ護ってくださった豊受大御神様に迷惑をおかけしてしまうのです」
「はい、決して豊受大御神様にご迷惑をかけるような事はしません。
ご迷惑をかける事の無いように、力をつけて見せます。
柘植様、本当にありがとうございます。
私も精一杯頑張らせていただきます」
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