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第3章:おかげ犬
第30話:思い遣り
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檜垣屋は直ぐに知らせを送りたいのをぐっと我慢した。
翌朝檜垣屋の隠居は、山田三方会合衆として奉行所を訪れた。
先の事件で、八日市町年寄から一気に会合衆筆頭となっていたから、公式な届出のために奉行所を訪れるのは、何の問題もなかった。
主水同心の出仕は朝五つ(八時)までだが、支配組頭と与力の出仕は朝四つ(十時)までなので、朝五つ半に奉行所に着くように訪ねた。
「最近立て続けに事件が起こり、拝田の牢が手狭だという訴えがあり、増築したく届出に来させていただきました」
檜垣屋の隠居は、何事で来たのかと問い質す同心に堂々と答えた。
「少し待っていろ」
奉行所の同心で、柘植定之丞と檜垣屋のゆうが恋仲なのを知らない者はいない。
下手に意地悪をしたら、どのようなしっぺ返しが来るか分からない。
まして十分な心付けをもらったら、直ぐに取り次いで当然だった。
仰々しく時間の無駄でもあるのだが、御番所詰の同心から御番所詰表撰用与力に届出が渡され、受け取った御番所詰表撰用与力が検分する。
検分が終わって問題がない事を確認したら、御普請役格御組頭に提出して見直してもらい、何の問題もなければ同心に戻して御広間まで運ばせる。
御広間の同心が受け取り問題のない事を確認したら、御番頭格与力に届出を渡す。
受け取った御番頭格与力は、検分して問題がない事を確認したら、御普請役格御組頭に届出を渡して確認してもらう。
これを御用部屋でも行い、最後に御奉行に渡して決裁してもらうのだから、時間も手間もかかり過ぎるのだ。
「柘植定之丞様がお呼びだ、ついて参れ」
ところが、大して待たされもせずに柘植定之丞の所に案内された。
山田三方会合衆の筆頭とは言え、奉行所内で支配組頭と座敷を一緒にできない。
支配組頭が奉行所内で平民と内密で話すための部屋、その庭先に案内された。
「届出には目を通させてもらった。
会合衆の言い分はもっともだが、何分手元不如意でな。
奉行所の予算では厳しい。
会合衆が金を用意するというのなら考えよう」
「畏れ多い事でございますが、先の会合衆が大失態を犯したせいで、山田には金の余裕がございません。
御上の御慈悲をもちまして、お助けいただけないでしょうか」
「御奉行にはお伝えするが、期待はするな」
「はっ、有難き幸せでございます」
「それで、他に何か用はないのか」
「私事でございますが、宜しいでしょうか」
「構わん、どうした」
「孫娘が恋煩いで寝込んでしまっております。
色々と手を尽くして入るのですが、一向に良くならないのです」
「ほう、それは心配だな」
「はい、想い人が心変わりしたのではないかと胸を痛めております」
「その想い人も会いたいのだろうが、仕事が忙しいのであろう。
そのような噂を聞いたら、今日にでも会いに行くのではないか」
「そうですね、仕事が忙しいのかもしれません。
柘植様のお考え通り、会いに来てくださればいいのですが」
柘植定之丞様と檜垣屋は、黒幕か黒幕の仲間に聞かれている事を前提に、田舎芝居のような会話を続けた。
柘植定之丞は、檜垣屋の隠居が何か話がある事に気がついていた。
隠居も自分の気持ちが伝わっている確信があった。
その上で、この場では僅かでも疑われるような態度は取らない事にした。
ここで近づいて耳打ちでもしようものなら、毒殺を仕掛けるほど追い詰められている黒幕共が、拝田衆の仕掛けた罠に気付く可能性があった。
隠居はそう考えて定之丞に檜垣屋に来てもらってから全て話す気だった。
一方定之丞は、檜垣屋の孫娘の恋煩い話から、檜垣屋に忍んでいくと思わせて、黒幕たちを誘う覚悟を決めた。
上手く黒幕たちが誘い出されて襲撃してきたら、そこを捕らえる。
襲撃して来なければ、隠居から内密の話を聞いて次の手を打つ。
そう定之丞は決めていた。
一方隠居は少しだけ不安になっていた。
定之丞の言葉と目つきから、敵を誘う気なのに気がついたのだ。
定之丞の事は信用しているが、余計な危険に首を突っ込んで欲しくなかった。
今までは毛嫌いしていたが、用心棒を雇うべきかもしれないと思っていた。
翌朝檜垣屋の隠居は、山田三方会合衆として奉行所を訪れた。
先の事件で、八日市町年寄から一気に会合衆筆頭となっていたから、公式な届出のために奉行所を訪れるのは、何の問題もなかった。
主水同心の出仕は朝五つ(八時)までだが、支配組頭と与力の出仕は朝四つ(十時)までなので、朝五つ半に奉行所に着くように訪ねた。
「最近立て続けに事件が起こり、拝田の牢が手狭だという訴えがあり、増築したく届出に来させていただきました」
檜垣屋の隠居は、何事で来たのかと問い質す同心に堂々と答えた。
「少し待っていろ」
奉行所の同心で、柘植定之丞と檜垣屋のゆうが恋仲なのを知らない者はいない。
下手に意地悪をしたら、どのようなしっぺ返しが来るか分からない。
まして十分な心付けをもらったら、直ぐに取り次いで当然だった。
仰々しく時間の無駄でもあるのだが、御番所詰の同心から御番所詰表撰用与力に届出が渡され、受け取った御番所詰表撰用与力が検分する。
検分が終わって問題がない事を確認したら、御普請役格御組頭に提出して見直してもらい、何の問題もなければ同心に戻して御広間まで運ばせる。
御広間の同心が受け取り問題のない事を確認したら、御番頭格与力に届出を渡す。
受け取った御番頭格与力は、検分して問題がない事を確認したら、御普請役格御組頭に届出を渡して確認してもらう。
これを御用部屋でも行い、最後に御奉行に渡して決裁してもらうのだから、時間も手間もかかり過ぎるのだ。
「柘植定之丞様がお呼びだ、ついて参れ」
ところが、大して待たされもせずに柘植定之丞の所に案内された。
山田三方会合衆の筆頭とは言え、奉行所内で支配組頭と座敷を一緒にできない。
支配組頭が奉行所内で平民と内密で話すための部屋、その庭先に案内された。
「届出には目を通させてもらった。
会合衆の言い分はもっともだが、何分手元不如意でな。
奉行所の予算では厳しい。
会合衆が金を用意するというのなら考えよう」
「畏れ多い事でございますが、先の会合衆が大失態を犯したせいで、山田には金の余裕がございません。
御上の御慈悲をもちまして、お助けいただけないでしょうか」
「御奉行にはお伝えするが、期待はするな」
「はっ、有難き幸せでございます」
「それで、他に何か用はないのか」
「私事でございますが、宜しいでしょうか」
「構わん、どうした」
「孫娘が恋煩いで寝込んでしまっております。
色々と手を尽くして入るのですが、一向に良くならないのです」
「ほう、それは心配だな」
「はい、想い人が心変わりしたのではないかと胸を痛めております」
「その想い人も会いたいのだろうが、仕事が忙しいのであろう。
そのような噂を聞いたら、今日にでも会いに行くのではないか」
「そうですね、仕事が忙しいのかもしれません。
柘植様のお考え通り、会いに来てくださればいいのですが」
柘植定之丞様と檜垣屋は、黒幕か黒幕の仲間に聞かれている事を前提に、田舎芝居のような会話を続けた。
柘植定之丞は、檜垣屋の隠居が何か話がある事に気がついていた。
隠居も自分の気持ちが伝わっている確信があった。
その上で、この場では僅かでも疑われるような態度は取らない事にした。
ここで近づいて耳打ちでもしようものなら、毒殺を仕掛けるほど追い詰められている黒幕共が、拝田衆の仕掛けた罠に気付く可能性があった。
隠居はそう考えて定之丞に檜垣屋に来てもらってから全て話す気だった。
一方定之丞は、檜垣屋の孫娘の恋煩い話から、檜垣屋に忍んでいくと思わせて、黒幕たちを誘う覚悟を決めた。
上手く黒幕たちが誘い出されて襲撃してきたら、そこを捕らえる。
襲撃して来なければ、隠居から内密の話を聞いて次の手を打つ。
そう定之丞は決めていた。
一方隠居は少しだけ不安になっていた。
定之丞の言葉と目つきから、敵を誘う気なのに気がついたのだ。
定之丞の事は信用しているが、余計な危険に首を突っ込んで欲しくなかった。
今までは毛嫌いしていたが、用心棒を雇うべきかもしれないと思っていた。
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