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第3章:おかげ犬
第36話:根回し
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柘植定之丞と父親の伝兵衛は、伊賀忍者の末裔である。
先祖は小なりとは言え城を持つ上忍だった。
今も忍者の技を伝え常在戦場の覚悟で生きている猛者だ。
勝ち目のない戦いをする訳がない。
どうしても戦わなければいけないのなら、勝てるように十分な準備をする。
準備をしても勝ち目がないのなら、暗殺も厭わないだけの覚悟があった。
暗殺もできないと判断したら、城を枕に討ち死になどしない。
捲土重来を期して逃げる事も厭わない。
今回は暗殺まではせずにすんだ。
事前の根回し、小心者には脅した後で身の安全を保障した。
欲を持つ者には利を示して、亀谷旅右衛門と足代勝大夫を裏切らせた。
嫡男だけでなく娘や妻にまで売られた亀谷旅右衛門は絶望したが、その耳に嫡男が囁いたのだ。
「父上が足代勝大夫の罪を書き記して自害してくだされば、与力亀谷家は柘植家から養子を迎えて存続できます。
私は江戸の徒士株を斡旋していただけるのです。
安心して腹をお召しください」
「うぉおおおおお」
亀谷旅右衛門に逃げ道は無くなった。
罪を認めたら家族まで断罪されるという言い訳があるなら、家族に裏切られても黙り続けられるが、亀谷家の家名も血も残ると言われては抗い切れなかった。
それは組下の主水同心五人も同じだった。
自分達が責任を取って腹を切れば、妹か娘に柘植家縁の婿が入り、弟か息子は江戸の同心株を斡旋してもらえるのだ。
徒士株を買うには五百両、同心株だと二百両が必要だと言われているが、亀谷家には柘植家から分け与えられた六百両と、普段の付け届けの蓄えがある。
組下同心五家も、柘植家から分け与えられた五十両と、普段の付け届けの蓄えがあるし、江戸表に不始末を知られたくない御奉行の支援が考えられた。
武士は相身互いという言葉が、ここでも幅を利かせる。
亀谷旅右衛門と岡田重蔵以下の主水同心五家の当主が腹を切る事で、見習いをしていた嫡男は役目を辞すだけですんだ。
亀谷家には、柘植定之丞の叔父、柘植次郎右衛門三十五歳が息子の柘植三郎四郎十二歳と共に養子に入った。
当初の約束だった妹か娘の婿になると言う話は反故にされた。
これは江戸表に事件が伝わるのを嫌った奉行が、徒士株ではなく大番組の与力株を千両で買って亀谷家に与えた事で問題とされなかった。
岡田家を始めとする主水同心五家には、亀谷家と同じ大番組の同心株を二百両で買い与える事で問題が治められた。
大岡奉行は、次に狙っている長崎奉行に赴任する際に腹心の配下が欲しくて、株を買い与えた見習与力と五人の見習同心を連れて行くか考えた。
長崎奉行所の与力同心はもちろん、支配組頭、支配下役、支配調役、支配定役下役などは江戸からの単身赴任で、ある程度は奉行の意向が反映される。
だが若く無能な者を同行させる事に不安を感じて止めたのだ。
彼らを後腐れなく大番組の与力同心にすれば、今回の件が江戸表に知られる事もないし、柘植家に恨まれる事も恩知らずと思われる事もない。
長崎奉行就任運動が上手く行っている時に躓きたくはなかった。
自害した同心五家には、柘植家の家臣筋が入った。
剣客としても十分通用する若党木村左門の弟が当主となった。
見習として出仕する跡継ぎは、左門の嫡男が叔父の養嗣子となった。
他の四家は、独自で檀家を開拓して平御師株を手に入れていた平民だった。
だがただの平民ではなく、柘植家譜代の下忍達だった。
彼らが目付組に入り、その能力を発揮する事になった。
亀谷次郎右衛門:三十五歳・御番所詰表撰用与力・柘植定之丞の叔父
亀谷三郎四郎 :十二歳・御目付格見習与力・柘植定之丞の従弟
岡田次郎 :三十五歳・目付組同心・柘植家の若党木村左門の弟
岡田三四郎 :十四歳・目付組見習同心・柘植家の若党木村左門の長男
福井藤次郎 :三十九歳・目付組同心・元平御師・柘植家の下忍者
福井源五郎 :十八歳・目付組見習同心・元御師手代・柘植家の下忍者
山口三十郎 :三十三歳・目付組同心・元平御師・柘植家の下忍者
山口坊七郎 :十八歳・目付組見習同心・元御師手代・柘植家の下忍者
田中九郎五郎 :三十九歳・目付組同心・元平御師・柘植家の下忍者
田中左衛門助 :十八歳・目付組見習同心・元御師手代・柘植家の下忍者
河村甚十郎 :三十三歳・目付組同心・元平御師・柘植家の下忍者
河村角八郎 :十八歳・目付組見習同心・元御師手代・柘植家の下忍者
先祖は小なりとは言え城を持つ上忍だった。
今も忍者の技を伝え常在戦場の覚悟で生きている猛者だ。
勝ち目のない戦いをする訳がない。
どうしても戦わなければいけないのなら、勝てるように十分な準備をする。
準備をしても勝ち目がないのなら、暗殺も厭わないだけの覚悟があった。
暗殺もできないと判断したら、城を枕に討ち死になどしない。
捲土重来を期して逃げる事も厭わない。
今回は暗殺まではせずにすんだ。
事前の根回し、小心者には脅した後で身の安全を保障した。
欲を持つ者には利を示して、亀谷旅右衛門と足代勝大夫を裏切らせた。
嫡男だけでなく娘や妻にまで売られた亀谷旅右衛門は絶望したが、その耳に嫡男が囁いたのだ。
「父上が足代勝大夫の罪を書き記して自害してくだされば、与力亀谷家は柘植家から養子を迎えて存続できます。
私は江戸の徒士株を斡旋していただけるのです。
安心して腹をお召しください」
「うぉおおおおお」
亀谷旅右衛門に逃げ道は無くなった。
罪を認めたら家族まで断罪されるという言い訳があるなら、家族に裏切られても黙り続けられるが、亀谷家の家名も血も残ると言われては抗い切れなかった。
それは組下の主水同心五人も同じだった。
自分達が責任を取って腹を切れば、妹か娘に柘植家縁の婿が入り、弟か息子は江戸の同心株を斡旋してもらえるのだ。
徒士株を買うには五百両、同心株だと二百両が必要だと言われているが、亀谷家には柘植家から分け与えられた六百両と、普段の付け届けの蓄えがある。
組下同心五家も、柘植家から分け与えられた五十両と、普段の付け届けの蓄えがあるし、江戸表に不始末を知られたくない御奉行の支援が考えられた。
武士は相身互いという言葉が、ここでも幅を利かせる。
亀谷旅右衛門と岡田重蔵以下の主水同心五家の当主が腹を切る事で、見習いをしていた嫡男は役目を辞すだけですんだ。
亀谷家には、柘植定之丞の叔父、柘植次郎右衛門三十五歳が息子の柘植三郎四郎十二歳と共に養子に入った。
当初の約束だった妹か娘の婿になると言う話は反故にされた。
これは江戸表に事件が伝わるのを嫌った奉行が、徒士株ではなく大番組の与力株を千両で買って亀谷家に与えた事で問題とされなかった。
岡田家を始めとする主水同心五家には、亀谷家と同じ大番組の同心株を二百両で買い与える事で問題が治められた。
大岡奉行は、次に狙っている長崎奉行に赴任する際に腹心の配下が欲しくて、株を買い与えた見習与力と五人の見習同心を連れて行くか考えた。
長崎奉行所の与力同心はもちろん、支配組頭、支配下役、支配調役、支配定役下役などは江戸からの単身赴任で、ある程度は奉行の意向が反映される。
だが若く無能な者を同行させる事に不安を感じて止めたのだ。
彼らを後腐れなく大番組の与力同心にすれば、今回の件が江戸表に知られる事もないし、柘植家に恨まれる事も恩知らずと思われる事もない。
長崎奉行就任運動が上手く行っている時に躓きたくはなかった。
自害した同心五家には、柘植家の家臣筋が入った。
剣客としても十分通用する若党木村左門の弟が当主となった。
見習として出仕する跡継ぎは、左門の嫡男が叔父の養嗣子となった。
他の四家は、独自で檀家を開拓して平御師株を手に入れていた平民だった。
だがただの平民ではなく、柘植家譜代の下忍達だった。
彼らが目付組に入り、その能力を発揮する事になった。
亀谷次郎右衛門:三十五歳・御番所詰表撰用与力・柘植定之丞の叔父
亀谷三郎四郎 :十二歳・御目付格見習与力・柘植定之丞の従弟
岡田次郎 :三十五歳・目付組同心・柘植家の若党木村左門の弟
岡田三四郎 :十四歳・目付組見習同心・柘植家の若党木村左門の長男
福井藤次郎 :三十九歳・目付組同心・元平御師・柘植家の下忍者
福井源五郎 :十八歳・目付組見習同心・元御師手代・柘植家の下忍者
山口三十郎 :三十三歳・目付組同心・元平御師・柘植家の下忍者
山口坊七郎 :十八歳・目付組見習同心・元御師手代・柘植家の下忍者
田中九郎五郎 :三十九歳・目付組同心・元平御師・柘植家の下忍者
田中左衛門助 :十八歳・目付組見習同心・元御師手代・柘植家の下忍者
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