53 / 68
第5章:内海船と北前船
第53話:伊勢土産
しおりを挟む
「父上、『一粒金丹』の製法を手に入れたいと思っているのですが、津軽藩に草を入れても宜しいでしょうか」
柘植定之丞は、ゆうと結婚して生まれた息子の一人を檜垣屋に入れようと思っていたので、檀家に渡す新たな土産物を『一粒金丹』にしようと相談を持ち掛けた。
「御師の伊勢土産にする心算か」
父親の伝兵衛も只者ではない。
少し話を聞いただけで定之丞の考えを見抜いた。
「はい、軽くてかさばらなくて高価な物となると、薬が一番です。
他の伊勢御師でも、薬を土産にする家は檀家を集めやすくなっています」
「『一粒金丹』自体は類似品が出ているから、それほどありがたがられるとは思えないが、薬に目を付けたのはいいぞ。
我ら伊賀者には元々薬草や薬の知識がある。
そこに高価な薬や珍しい薬が使えるとなると、越中富山の薬売りにも勝てるぞ」
越中富山藩は、修験者が諸国を越境して護符や牛王宝印の配布を認められているのを上手く利用して、売薬組織を作り上げていた。
香具師が修験者の後裔と称して幕府や諸藩の関所を自由に通り、薬種商のように薬を売り歩いていた。
香具師として江戸京大阪で興行を行うだけでなく、薬も売っていた松井一家を富山藩が支援して、反魂丹を売らせるようにしていた。
だが諸国往来自由なのは伊勢御師も同じだった。
いや、香具師の薬売りより遥かに有名で信用も地位もあった。
柘植家の下忍を草として送り込むにも副業にさせるにも、売薬は最適だった。
「我らが元々使っている万病解毒の紫金丹、大峰山の陀羅尼助、蝦蟇の油、どくだみを丸薬にした十薬、いちょうの葉を丸薬にした銀杏丹。
御師に入り込んでいた者達が調合法を盗み出してくれた、野間家の萬金丹、小西家 の治効圓、はら屋の梅毒丹は作れるようになっております」
「それだけの薬を持って廻り、借金の肩代りまで行えば、これまで以上の檀家を集められるだろうな」
「私とゆうの間に子供ができたらの話ですが、その子達に檜垣屋や新たに手に入れた山田三方年寄家の御師宿を継がそうと思っています」
「その辺はお前が実力で手に入れた物だから好きにすればいいが、檜垣屋や本家、檜垣河内家は何か言ってこないか」
「檜垣河内家やその分家は、今回問題を起こした外宮神官家に養嗣子を送れる事になっていますので、権禰宜家でしかない檜垣屋はもちろん、その分家も私に渡すと約束してくれました」
「興味もなく血統的にも跡継ぎに入るのが難しい神官家を餌にして、本当に欲しい物を手に入れたのだな、よくやった」
「はい、母親の実家ならば旗本の息子が婿入りしても問題はなく、武家も神職家も誰も文句が言えません」
「柘植家は旗本とは言っても僅か二百石、大した力はない。
神職とは言っても地下で権禰宜だと従五位の上か下、大したことはない。
だが両方が親戚で上手く力を合わせられたら、そこそこの力が振るえる。
権威が相手の時には力を使い、力が相手の時には権威を使う。
特に遠国の外様小藩が相手だと、かなりの無理が通る」
「はい、私も藩主を取り込めれば家臣領民全てを檀家にできると思い、その代価に何を渡すべきか考え、薬を思いついたのです」
「確かに津軽藩や富山藩のように、小さくかさばらない高額の薬を藩の特産にできれば、藩財政が一気に上向く。
こちらとしても、意のままにできる藩があれば、御師宿として利を得られるだけでなく、子弟を武士として分家させられる」
「では、津軽藩に入れる草を選んでおきます」
「私も『一粒金丹』について調べてみる。
父上が薬種について研究されておられた」
「お爺様がですか」
「ああ、盗みをする事なく、幕府の御定法を破らずに金を集める方法として、江戸の屋敷に薬園を作られている」
柘植定之丞は、ゆうと結婚して生まれた息子の一人を檜垣屋に入れようと思っていたので、檀家に渡す新たな土産物を『一粒金丹』にしようと相談を持ち掛けた。
「御師の伊勢土産にする心算か」
父親の伝兵衛も只者ではない。
少し話を聞いただけで定之丞の考えを見抜いた。
「はい、軽くてかさばらなくて高価な物となると、薬が一番です。
他の伊勢御師でも、薬を土産にする家は檀家を集めやすくなっています」
「『一粒金丹』自体は類似品が出ているから、それほどありがたがられるとは思えないが、薬に目を付けたのはいいぞ。
我ら伊賀者には元々薬草や薬の知識がある。
そこに高価な薬や珍しい薬が使えるとなると、越中富山の薬売りにも勝てるぞ」
越中富山藩は、修験者が諸国を越境して護符や牛王宝印の配布を認められているのを上手く利用して、売薬組織を作り上げていた。
香具師が修験者の後裔と称して幕府や諸藩の関所を自由に通り、薬種商のように薬を売り歩いていた。
香具師として江戸京大阪で興行を行うだけでなく、薬も売っていた松井一家を富山藩が支援して、反魂丹を売らせるようにしていた。
だが諸国往来自由なのは伊勢御師も同じだった。
いや、香具師の薬売りより遥かに有名で信用も地位もあった。
柘植家の下忍を草として送り込むにも副業にさせるにも、売薬は最適だった。
「我らが元々使っている万病解毒の紫金丹、大峰山の陀羅尼助、蝦蟇の油、どくだみを丸薬にした十薬、いちょうの葉を丸薬にした銀杏丹。
御師に入り込んでいた者達が調合法を盗み出してくれた、野間家の萬金丹、小西家 の治効圓、はら屋の梅毒丹は作れるようになっております」
「それだけの薬を持って廻り、借金の肩代りまで行えば、これまで以上の檀家を集められるだろうな」
「私とゆうの間に子供ができたらの話ですが、その子達に檜垣屋や新たに手に入れた山田三方年寄家の御師宿を継がそうと思っています」
「その辺はお前が実力で手に入れた物だから好きにすればいいが、檜垣屋や本家、檜垣河内家は何か言ってこないか」
「檜垣河内家やその分家は、今回問題を起こした外宮神官家に養嗣子を送れる事になっていますので、権禰宜家でしかない檜垣屋はもちろん、その分家も私に渡すと約束してくれました」
「興味もなく血統的にも跡継ぎに入るのが難しい神官家を餌にして、本当に欲しい物を手に入れたのだな、よくやった」
「はい、母親の実家ならば旗本の息子が婿入りしても問題はなく、武家も神職家も誰も文句が言えません」
「柘植家は旗本とは言っても僅か二百石、大した力はない。
神職とは言っても地下で権禰宜だと従五位の上か下、大したことはない。
だが両方が親戚で上手く力を合わせられたら、そこそこの力が振るえる。
権威が相手の時には力を使い、力が相手の時には権威を使う。
特に遠国の外様小藩が相手だと、かなりの無理が通る」
「はい、私も藩主を取り込めれば家臣領民全てを檀家にできると思い、その代価に何を渡すべきか考え、薬を思いついたのです」
「確かに津軽藩や富山藩のように、小さくかさばらない高額の薬を藩の特産にできれば、藩財政が一気に上向く。
こちらとしても、意のままにできる藩があれば、御師宿として利を得られるだけでなく、子弟を武士として分家させられる」
「では、津軽藩に入れる草を選んでおきます」
「私も『一粒金丹』について調べてみる。
父上が薬種について研究されておられた」
「お爺様がですか」
「ああ、盗みをする事なく、幕府の御定法を破らずに金を集める方法として、江戸の屋敷に薬園を作られている」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
49
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる