夢にまで見た異世界召喚に巻き込まれたけれど、虐め勇者の高校生に役立たずはいらないと追放された。

克全

文字の大きさ
8 / 37
第一章

第3話:奴隷商人

しおりを挟む
異世界召喚から6日目:佐藤克也(カーツ・サート)視点

 俺を魔境と呼ばれる魔の森まで運んだ騎士はそれなりの人間だった。
 勇者召喚に紛れ込んだ罪人とされている俺に暴力を振るったりしなかった。
 それどころか、国王から与えられてもしない食事まで提供してくれた。

 俺はそんな騎士と配下を殺すほど悪人ではない。
 素直に魔の森まで連れていかれてやった。
 彼らが暴力に訴えなくてもいいように、進んで魔の森に入ってやった。

 別に彼らの為だけに魔の森に入ったやったわけではない。
 自分に何ができて何ができないのか、確かめる為でもあった。
 5日間色々と確認した結果、大量のゴーレムと従魔を手に入れられた。

 ガタ、ゴト、ガタ、ゴト、ガタ、ゴト、ガタ、ゴト。

 手入れの行き届いていない、凸凹の道を汚い馬車が進んで来る。
 こちらが風下になっているので、とんでもない悪臭がただよってくる。
 汚物でも運んでいるのかと疑いたくなる臭さだ!

(クレアヴォイアンス、千里眼。
 プレゼンス・ディテクション、気配察知。
 インフラレド・ディテクション、赤外線探知。
 アルトゥラサニク・ディテクション、超音波探知……)

 俺は元々慎重な性格なのだ。
 何故なら、正義のヒーローには間違いが許されないから。
 悪人だと思って退治した相手が実は善良な人間だったなど、絶対に許されない。

 だから使える魔術を全て使って臭い馬車の正体を探った。
 映像、気配、熱源、音声などを使って調べた。
 その結果は、やはり奴隷商人の馬車だった!

「止まれ、止まらないと問答無用で叩き殺すぞ!」

 俺は馬車の前に立ちはだかった!

「なんだてめぇ!
 俺様達を、泣く子も黙る奴隷商人、コナン商会と知っての事か?!
 かまわねぇ、金になりそうもない男ななんざひき殺しちまえ!」

 俺から見て御者台の右側に座っている奴が命じた。

「へい!」

 俺から見て左側に座っている御者が、命令に従って輓馬に指示を出す。
 ありがたい、これで正当防衛が成り立つ。
 いくら弱肉強食が基本の世界でも、正義の段取りは必要だ。

「何の罪もない者をさらって奴隷にするだけでなく、被害者を助けようとした者まで殺そうとする。
 そのような悪人は、神に成り代わって成敗してくれる!」

「寝言は寝て言いやがれ!」

 重量物を運ぶための大型の馬が2頭、御者の命令を突進してくる。
 だが、荷物と奴隷を満載した幌馬車を牽いているのだ。
 重量の分だけの破壊力はあるが、スピードはない。

 体重が軽く1トンを超えているだろう輓馬が2頭。
 何の罪もない輓馬まで殺す気はない。
 俺が正義の鉄槌を下すのは、悪人だけだ。

(我が式神たる者達よ、我を命を狙う者を殺せ。
 我が使い魔達よ、我の命を狙う者を殺せ)

 仙境で覚えた式神術をつい使ってしまう。
 これでも魔術は発動すると聞いているのだが、念のためにこの世界風に言い直す。
 とは言っても、式神を使い魔と言ったりゴーレムと言ったりするだけだ。

 どのような攻撃をするのか知られたくないから、心の中で呪文を唱える。
 検証の結果、物理的な攻撃を加えたい時はゴーレムと言った方が良いようだ。

「「ぐっ、ぎゃっ!」」

 俺を殺そうとした男達、2人とも胸を押さえて御者台に倒れ込む。
 使い魔が見えない力を使って心臓を破壊してくれた。
 それを確認したうえで、ひらりと輓馬をかわして御者台に飛び乗る。

「どう、どう、どう、どう!」

 ゆっくりと優しく、だがこちらの意思を明確に伝えるように手綱を絞る。
 俺の命令が正しく伝わり、2頭の輓馬が行き足をゆるめる。
 急停車してしまうと幌馬車の中にいる者達がケガをしてしまう。

「お頭、お頭、何事ですか?!」
「ばかやろう、直ぐに見て来い!」
「へい!」

 騒いでいるのは、幌馬車後部にある護衛台にいた2人の男だろう。
 まず間違いなく悪党だと思うのだが、確認するまでは殺せない。
 正義のヒーローを名乗るのなら、多少の手間と危険は覚悟しなければいけない。

「あっ、てめぇ、お頭とボブに何しやがった?!」

 とてもゆっくりな歩みになった馬車の左側を、走ってやってきた奴が怒鳴る。
 護衛が2人いて、確認に行かされるのだから、下っ端の方だろう。

「人さらいと手下をぶち殺しただけだ。
 罪を悔い自首するのなら見逃してやる。
 だが、かかってくるのならぶち殺す!」

 俺は悪人に正義の鉄槌を下したいからこの世界に来たのだ。
 悪人が悔い改めるのではなく、かかって来てくれた方が良い。
 だから挑発するような態度と言葉を使っている!

「野郎、兄貴、お頭がやられました!」

「なんだと?!
 グズグズしていないでとっととやっちまえ!」

「へい、ですが、お頭達を1人でやったようでして……」

 悪党を気取ってはいても、元々の性格は臆病で小狡いのだろう。
 お頭と言われている奴と御者を同時に殺した俺を恐れているのだ。
 兄貴分と一緒でなければ攻撃をする事もできない憶病者なのだろう。

「それだからお前はいつまでたっても下っ端のままなんだよ!
 ちったぁ度胸のある所を見せやがれ!」

 そう大声で叱りながら兄貴分と思われる奴がやってきた。

「へい、ウォオオオオ!」

 兄貴分が現れたとたんに強気
 手に持った剣を振りかぶってと突っ込んで来やがった。
 だが、全く何の訓練もしていないのでスキだらけだ。

(我が式神たる者達よ、我を命を狙う者を殺せ。
 我が使い魔達よ、我の命を狙う者を殺せ)

 この手で叩き殺してやってもいいのだが、血をまき散らしてしまったら汚い。
 清浄魔術できれいにできるとは言っても、生理的な嫌悪感がある。
 そう言う点では、きれい好きの日本人はこの世界に不向きだ。
 
「ぐっ、ぎゃっ!」

 心臓を握り潰された下っ端がうめき声をあげて地に倒れる。

「何しやがった?!
 てめぇ、魔術師か!」

 そう言い放った兄貴分が剣を握って突っ込んでくる。
 剣術の訓練をした事がないのだろう。
 だが、下手に振り回すより身体に固定して突っ込んで来る方が怖い。
 
 どのような武器であろうと、ようは敵よりも早く相手に届けばいいのだ。
 敵が剣を振りかぶって下すよりも先に、敵の身体を貫けば勝ちだ。
 そう言う意味では、この兄貴分の突きは理にかなっている。

「ぐっ、ぎゃっ!」
 
 だが、そんなケンカ突きよりも先に俺の使い魔が仕事をしてくれた。
 最初に敵の頭と御者を殺すために召喚しておいた2体の使い魔だ。
 下っ端を殺した時に1体余っていたのだ。

(さて、馬車に捕らえられているエルフ達を開放してあげよう。
 正義の味方ならば、被害者を助けるのは当然の事だ)
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。 最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。 本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。 第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。 どうぞ、お楽しみください。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

空月そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

処理中です...