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第一章

第9話:悪魔の行い

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 俺は使い魔を駆使して恐竜の群れを追い立てた。
 インパクトのある大型の恐竜だけを選んで追い立てた。
 体の大きさだけで選んだから、肉食ではなく草食恐竜ばかりになった。

 マメンチサウルス25m20トンが34頭
 バロサウルス27m20トンが38頭
 ディプロドクス30m20トンが29頭
 アパトサウルス23m30トンが25頭
 プラキオサウルス25m70トンが27頭
 プエルタサウルス40m80トンが21頭
 アルゼンチノサウルス40m90トンが23頭

 これだけの巨大恐竜に襲われた村や町は大パニックになった。

「竜だ、竜が出たぞ!」
「逃げろ、逃げるんだ」
「群れだ、竜の群れだぞ!」
「敵は竜を自由自在に操っているぞ!」
「終わりだ、幾ら何でも勝てない!」
「逃げろ、逃げるんだ」

 俺は恐竜と意思の疎通ができて自由自在に操れるわけではない。
 恐竜よりも強い使い魔を使って追い立てているだけだ。

 逃げ回る方向を決められる事が、恐竜を操れる事になるのなら、操っている事になるが、自分では操っているとは欠片も思っていない。

 だが結果として、恐竜を好きな方向に向かわせて、敵対している貴族や領地持ち騎士が治めている町や村を襲わせている。

 俺の目論見通り176頭もの巨大恐竜に襲われた領主は全てを捨てて逃げ出した。
 誇りや名誉などかなぐり捨てて、家臣領民を見捨てて一番に逃げ出した。
 
 一番勇気を示さなければいけない領主が真っ先に逃げ出したのだ。
 配下の兵士が命を賭けて町や村を守るわけがない。
 領主の後を追うように逃げ出した。

 当然だが、誰も護る者がいなくなった町や村の民も逃げだす。
 家財道具を投げ捨てて、命からがら逃げだす。

 俺がやる事は、人っ子一人いなくなった町や村を荒らし回る事。
 とは言っても、民の財産を奪うほど困ってはいない。

「いいか、絶対に略奪をするな!
 麦1粒でも盗んだら、女子供であろうと殺すぞ!
 その代わり、領主が残して行った財宝と食糧は接収する。
 必要な軍資金と兵糧を確保したら、お前達にも分配してやる。
 だから敵が戻ってこないか大人しく見張っていろ!」

 俺は財宝や食糧の回収に配下を使わなかった。
 人間の出来心はよく理解している。

 兵士が悪事を働く場合は、本人だけが悪いのではない。
 悪心を誘うような事をさせる指揮官も悪いのだ。
 だから配下には城壁に立って見張っていろと命じた。

 俺は使い魔に領主や貴族士族が蓄えていた財宝と食糧を集めさせた。
 全部魔法袋に入れて何時でも逃げられるようにした。
 あっという間に全部回収する事ができた。

 俺は集めた食料を使って豪華な食事を用意させた。
 この国の庶民ではめったに食べられない、多くの新鮮な野菜と果物を使った料理を配下の者達に作らせ食べさせた。

「休憩したら次の町に行くぞ。
 敵が竜を斃すまで、追い続けるぞ。
 休憩に入ったらしっかり休んでおけよ」

「「「「「はい!」」」」」

 俺は巨大恐竜を追い立てて次々と町や村から人々を追い出した。
 俺が歴戦の精兵を率いているのなら、1日の間に幾つもの町や村を占拠できる。
 守備隊を置いて領地を広げる事ができる。

 だが俺が率いているのは乳呑児を抱えた母親と老弱兵だけだ。
 炎天下や夜に行軍させる事などできない。
 朝夕の涼しい時間帯でも熱中症にならないように頻繁な休息が必要だ。

 もちろん、領主や兵士に見捨てられた老弱な領民も保護しなくてはいけない。
 追いついてしまったら、見捨てる訳にはいかない。
 逃げ遅れた足弱な領民は、老弱兵に護らせて元の町や村に送り届ける。

 俺は人間の弱さを嫌と言うほど自覚している。
 逃げ遅れた女子供を襲ってしまう男の獣欲を理解している。
 だから老弱とはいえ男の兵士に全てを任せたりはしない。

「今からお前達の指揮は俺の使い魔に執らせる。
 もしお前達が僅かでも邪心を抱いたら、即座に首を刎ねられると思え!
 いや、頭からバリバリと喰われるぞ!」

 俺が逃げ遅れた領民を護衛する部隊の指揮をさせた使い魔は、この世界で恐れられている姿をしていた。

 前世で強制転移させられる前に生きていた、日本で悪魔と言われていた、大きな山羊の角と牙を持つ真っ赤な肌をした3m級の使い魔だ。

 もちろん十二分な魔力を与えているので、巨大恐竜よりも強い。
 老弱な兵士が500人束になってかかって来ても一捻りだ。

 だったらその使い魔1人に護衛をさせればいいと言う話にはならない。
 護衛される女子供が恐怖で歩けなくなってしまう。
 
 だからその恐ろしい悪魔が姿を見せるのは、護衛役の老弱兵達の前だけだ。
 護衛される女子供は悪魔の指揮する護衛部隊だとは知らない。

 俺は一日に2つの町か村を襲う速さで移動した。
 朝の涼しい間に移動して1つ襲う。
 夕方の涼しい間に移動してもう1つ襲う。
 
 昼の熱い時間と夜の寒い時間は、人々を追い出した町や村で休む。
 万が一にも乳呑児と女子供に何かないように、十分な休息と食事を与える。

「ライアン様、竜達はお腹空かないの?」

 一緒に食事をしていた5歳くらいの子供が無邪気に話しかけてくる。
 乳呑児を抱える母親の子供の1人だ。
 夫に先立たれ、身体を張って生きてきた女の子供だ。

 最初は母子ともに凄く遠慮していたが、狩りの期間も入れて7日も食事を共にしていれば、幼い子供なら打ち解けてくれる。

「竜が好きな草木は大量に持ってきているよ。
 使い魔が好きなだけ与えているから、お腹が減って困ったりはしないよ」

「お腹が減るのは嫌だもの。
 竜さんも嫌だと思ったんだ」

 夫を失い、身体を張って男の子と女の子を育てていたのだ。
 十分な食事を得られない事もあっただろう。
 望まぬ妊娠を強いられた後は特に困窮していたのだろう。

「もう大丈夫だよ。
 俺についてくるのなら、2度とお腹が空く辛さは味合わせない」

「え、本当ですか?
 ずっと守ってくださるのですか?」

「本当だ。
 俺について他の国に行く覚悟があるのなら、絶対に守ってあげる」

「本当にですか?
 本当に絶対に守って頂けるのですか?
 私や他の子も守って頂けるのですか?」

「ああ、守ってあげるよ。
 俺はこの国に拘っていないんだ。
 勝てない、多くの人を死なせてしまうと思ったら、さっさと逃げる。
 その時についてくるなら、守ってやる。
 逃げ込んだ国に残るのが危険になったら、また逃げる。
 大切な人を危険に晒してまで地位に固執しない」

「私達もですか?
 私達も守って頂けますか?」

 最初に話しだした子供と母親との会話聞いていた、別の乳呑児を抱えた母親が質問してきた。

「ああ、最後までついてくる気があるのなら、必ず護ってあげるよ。
 さっきも言ったが、俺は国にも地位にもこだわらない。
 美味しい物をお腹一杯食べられたらそれで十分だ。
 だから地位や名誉よりも自分や家族の安全を最優先にする。
 お前達が俺に仕える、ついてくるというのなら、必ず守ってやる」

「お仕えさせていただきます!」
「ずっとついて行かせていただきます!」
「ですから私達を守ってください」
「この子を守ってください」
「この子が飢えないようにしてください」

 ようやく俺の言っている事を信じてくれたのか、その場にいた母親達が一斉に仕えると言いだした。

 彼女達の忠誠を信じているわけではない。
 母性愛の強い女性は、子供のためならどのような事でもやってのける。
 永遠の忠誠を誓った主君でも裏切る場合もある。

 俺はそれが普通だと思っている。
 いや、そんな母性に憧れていると言ってもいい。

 自分の欲望のために平気で子供を殺すような母親は嫌だ。
 子供への愛情よりも主君への忠誠心を優先する母親も嫌だ。
 何を置いても子供への愛情を優先するような母親であって欲しい。

「構いません、何処の国でもついていきます」
「私もついて行かせていただきます」
「この子を守ってくださるのでしたら、何処にでもついていきます」
「私も、私もついていきます」

 異口同音に母親達がついてくると言う。
 重く大きな荷物を背負ってしまったが、しかたがない。
 気の弱い俺に、一度匿った女子供を見捨てる決断などできない。

 そう言う性格だからこそ、ここまで強くなれたのだ。
 護らなければいけないモノがあったから、前世では必死で学び鍛えた。
 それが今生でも役に立っている。

「だったら余計なモノを背負うなよ。
 逃げるべき時に躊躇わなくて済むように、背負うモノは少なくしておけよ」

「「「「「はい!」」」」」
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