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第一章

第16話:遷都

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 アンネリーゼ殿下の御座所を変えると決めてから80日目に、ベレスフォード城の到着する事ができた。

 アンネリーゼ殿下が戴冠していれば遷都となるのだが、今はまだ王都に僭王リンスター公爵ダーニエルがいるので、無理に遷都などとは言わない。
 
 虚名や虚言で競うよりは、実質的な支配力で勝る事を優先する。
 戦力も大切だが、1番大切なのはどれだけの国民を養えるかだ。
 食糧生産力で僭王リンスター公爵ダーニエルを勝る事が大切だ。

「凄く広くてきれいだ!
 王都にいた時よりも自由にできる。
 ここでも城下に行っていいのか?」

 アンネリーゼ殿下がベレスフォード城の広さと美しさに感激している。
 80日かけて修理と掃除をしてよかった。

 ここは肉食恐竜軍団が破壊と殺戮の限りを尽くした場所だ。
 使い魔を総動員しなければ、住むどころか近づく事もできない地獄だった。

 破壊と殺戮の象徴だった肉食恐竜軍団は、軍資金になってもらった。
 数も量も多く、悪名も高かったので、いい値段で売れた。
 もちろん生きたままではなく、素材にしてから売った。

「はい、側近の使い魔と一緒でしたら、何処に行ってくださっても大丈夫です。
 ただ、私がお勧めするのは都外のオアシス地帯です。
 殿下が大好きな小さな恐竜達はもちろん、もふもふの動物達もいますよ」

「いく、今直ぐ行く。
 クリスティーナ、直ぐに準備して」

「直ぐにお着替えを用意いたします」

 都市ベレスフォードの外には、広大なオアシスと草原が広がっている。
 もちろん俺が創り出した草食恐竜の為の餌場だ。

 乾燥地帯に住む都市住民にとっては羨望の場所だが、まだ誰も近づかない。
 草食とはいえ、肉食よりも巨大な恐竜が放牧されているのだ。
 肉食と草食の違いが分からない都市住民には、破壊と殺戮の象徴でしかない。

 いや、好んで人間を食べないだけで、人間を襲わない訳ではない。
 自分の縄張りに入って来た恐竜や動物を追い払おうとする本能がある。
 子供を護ろうとする本能もある。

 最強使い魔達に護られた殿下とクリスティーナ以外はとてもは入れない。
 自由に行き来しているのは、オアシスを求めてやってきた渡り鳥だけだ。
 後は、俺は放牧した草食獣くらいだな。

 いや、殿下が気に入ったようなので、犬と猫の似た動物はいる。
 雑食と肉食なので、幼い恐竜や卵を食べないように弱小使い魔に管理させている。
 殿下の愛玩動物として躾けている。

 猫に関しては躾に限界があるので、成長しても家猫程度の大きさの種に限定した。
 犬は十分な躾が可能なので、柴犬くらいの大きさからセント・バーナードの大きさくらいまで各種いる。

 アイリッシュ・ウルフハウンドやグレート・デーンのような犬種がいないのは、殿下のもふもふ好みの問題だ。

 柴犬や甲斐犬、秋田犬や紀州犬、日本のダックスフンド大東犬に似た犬種がいるのは、俺の趣味だから諦めてもらう。
 それくらいの我儘は許されるはずだ。

 そもそも、ここまで前世召喚前の日本と同じ犬猫がいるのは、俺と同じように日本から召喚された人達の趣味による。

 もう途絶えてしまった文化や風習も多いが、この世界に無理矢理召喚された人々が、この世界の神々や人間の言いなりにならなかった証なのだ。

 それを前世の記憶を持って生まれ変わった俺が大切にするのは当然の事だと思う。
 それが趣味や食に対する事だけだと言われても、連中も同じように趣味や食に走っていたと断言してやる!

「きゃははははは、私を追いかけて、クリスティーナ!」

「殿下、そんなに慌てられてはこけてしまわれます」

「バルバラが支えてくれるから大丈夫!」

 殿下が草原を駆け回っておられる。
 その周りを姿を隠した最強使い魔達が護っている。
 バルバラ1体だけが姿を現してお相手している。

 その殿下とバルバラを、クリスティーナと彼女の最強使い魔達が追いかけている。
 隠れん坊や追いかけっこをしている感じだ。

 まだ10歳になったばかりの殿下だ。
 難しい遊びよりも単純な遊びの方が楽しいのだろう。
 まして幼い頃は、そのような遊びなど全然できなかっただろうからな。

「「「「「きゃん、きゃん、きゃん、きゃん」」」」」
「「「「「わん、わん、わん、わん」」」」」

 殿下の周りには、最強使い魔達だけでなく、犬達もいる。
 最弱使い魔軍団が厳しく躾けた犬達だ。
 殿下の情操教育に役立ってくれている。

「ライアン、お腹が空いたわ!
 またオイルサーディンのサンドイッチを作って!」

 殿下が満面の笑みを浮かべながら俺の方に走ってきた。
 臣下としては不遜なのだが、殿下の望みは叶えなければいけない。

 俺は飛びついてくる殿下をがっちりと抱きあげた。
 殿下は父性愛に飢えているのだろう。
 少しでも機会があれば俺に甘えてくる。

「宜しいですよ、殿下。
 ですが、オイルサーディンだけでいいのですか?
 少し甘い出汁巻き玉子のサンドイッチもカツのサンドイッチも作れますよ?」

「カツは豚なの?
 それとも鶏なの?」

「今直ぐ食べられるのでしたら、鶏です。
 夕食に食べられるのでしたら、豚も牛も用意できますよ」

「じゃあ鶏がいいわ。
 もうお腹ペコペコだもの」

「ではこちらでお食べください」

 俺は魔法袋から屋外食事セットを取り出して設置する。
 この世界版のキャンピングセットだと思ってくれればいい。

 侍女に徹してくれる使い魔達が、手際よく用意してくれる。
 最強使い魔達は護衛に徹しているので、周囲を警戒している。
 姿を現して殿下の給仕をするのはバルバラと決まっている。

「美味しい!
 ライアンとクリスティーナと一緒に食べる食事が1番美味しいわ。
 明日も一緒に食事したいわ。
 駄目?」

 普段の城での食事だと、臣下である俺やクリスティーナと一緒には食べられない。
 同格の人間が誰もいないので、1人寂しく食事をしなければいけない。

 バルバラ達が心を込めて完璧に給仕をしてくれるとはいえ、1人食べても美味しくないのは俺にもよくわかる。

 殿下が事あるたびに外に出たがるのは、俺やクリスティーナと一緒に食事がしたいというのもあるのだろう。

「朝晩はマナーの勉強もありますので、ご一緒する事はできません。
 ですが昼食ならば、野営や武芸の鍛錬を兼ねて、ご一緒出来ます。
 それでも宜しいですか?」

「それでいいわ!
 明日は私にも料理の仕方を教えてね」

「はい、急な役目が入らない限り、お教えさせていただきます」

 振りをした訳ではないのだが……何故、どうしても無視できない急な役目が入る!
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