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第一章

第38話:戴冠

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「ジェラルド王国第1王孫女アンネリーゼ。
 ジェラルド王国の家臣領民を愛し護る事を誓うか」

「誓います!」

「本日只今よりアンネリーゼ1世と名乗られよ」

「「「「「ウィオオオオオ!」」」」」

 ベレスフォード城で最大の広さを持つ舞踏会場が、今はアンネリーゼ様が戴冠するための会場とされている。

 アンネリーゼ陛下に忠誠を誓うジェラルド王国の貴族士族だけでなく、領地を接するほとんどの国から、王か王の代理の王族が参列している。

 参列していないのは、ジェイコブ王と3王女を引き取った国々だ。
 それぞれが3王女に王族の婿を当てがっている。
 機会があれば国土奪還を名目に侵攻してくるだろう。

 俺としては、お好きにどうぞという気分だ。
 あれだけの戦いを知って、それでも攻め込む馬鹿など滅んだ方がいい。
 その方が国民も幸せになれる。

「では、属国の王達から臣従の誓いをして頂こう」

「はい」

 進行役を賜った父上が緊張しているが、それも当然だろう。
 1国の王だった者を家臣として扱わなければいけないのだ。

 自分ではなくアンネリーゼ上級女王に対する誓いだが、絶対に失敗させるわけにはいけないという意味では、緊張して当然の役目だ。

 だが、誓わせる相手は心が折れたアンドレアス王と、自分の立場を諦観しているマティルダ女王だから、この期に及んで臣従を拒む事はない。

 アンネリーゼ上級女王陛下と属国王と属国女王としての臣従の誓いはつつがなく進むが、参列した諸国の王や王族は複雑な表情をしている。

 だがそれもしかたがない事だろう。
 何と言っても2カ国もの王と女王が臣従を誓ったのだ。
 わずか10歳の少女が上級女王を名乗ったのだ。

 自分達がわずか10歳の少女に見下されているも同然だ。
 よほど己に自信がある者以外は、王の地位が貶められたと感じるだろう。
 それが我が国への侵攻につながる可能性もある。

 まあ、その気があるのならいつでも迎え討ってやる。
 アンネリーゼ陛下に上級女王に名乗ってもらう以上、絶対に危険がないように入念な準備をした。

 俺からの魔力補充が必要のない、予備の魔晶石と魔法石を大量に装備した、長期独立行動が可能な使い魔を大量に創り出した。

 領地を接する国だけでなく、領地を接する国と同盟を結びそうな国々全てに大量の密偵使い魔を放った。
 国の中心にいる権力者だけでなく、商人や宗教関係者にも張り付けた。

 だから周辺諸国が奇襲をかけようとしても事前に分かる。
 国境近くに敵軍が集結してからではなく、武器や防具、兵糧などといった軍需物資を集め出した時点で即座に報告が届く。

 早ければ1年前、遅くても3カ月前には敵の侵攻準備が分かるので、こちらも十分な準備をして侵攻してきた敵軍を迎え討ち、即座に逆侵攻をしてやれる。

 もちろん諜報部門だけを増員整備したわけではない。
 戦争以前の大前提である、食糧の増産を行った。
 イギリスの農業革命ではないが、食糧増産こそ富国強兵の大前提だ。

 水脈と魔力と命力の問題が解決できる全ての場所に、オアシスと草原地帯を創り出しただけでなく、麦翁権田愛三 の農法と六圃輪栽式農法を導入した。

 土地の豊貧によってとれる農法が違うし、理想通りの肥料が手に入るわけでもないので、その地の条件に合わせて最適の農法を現地の人に試してもらった。

 本当は全ての場所を巡って丁寧な指導をしたいが、宰相を任されている俺にそんな時間はない。

 何より、頑張り過ぎて嫌気がさしてしまったら、何もかも投げ捨てて逃げ出したくなる、仕事したくない病が発症してしまう。

 特に護るべき民が身勝手だと感じてしまったら、アンネリーゼ上級女王陛下を見捨てることになっても逃げだしてしまうだろう。
 それくらい潔癖な面が俺にはあるのだ。

 家族身内の弱さは許せるし、自分を顧みる事なく全身全霊で助けるが、汚さだけは絶対に許せず、全てを投げ捨てて逃げ出してしまう性格なのだ。

 だからこそ、俺が預かる事になった広大な領地は、内政用使い魔に統治を任せ、俺は直接かかわらないようにしている。
 理由を付けて割譲できる領地は、父上や兄上達に押し付けた。

 だがもうこれ以上は父上と兄上達に押し付けられない。
 上から目線で申し訳ないが、父上と兄上達の能力を超え過ぎる領地を預けてしまうと、父上と兄上達が壊れてしまうか失政してしまうかだ。

 自分が楽になるために、家族を潰すわけにはいかない。
 そんな事をするくらいなら、卑怯者、無責任と言われても、自分が逃げたほうが遥かにマシだ!

 そんな風な埒もない事を考えながらも、軍事と内政に励む……のは止めた。
 これ以上頑張ると自分が潰れてしまうので、やらなければいけない事の中から自分が潰れない好きな事を優先的にやった。

 どうしても会わなければいけない、アンネリーゼ上級女王陛下以外との謁見以外は全て断って、人と会わないようにした。

 ひたすら使い魔創りに熱中して、自分が治める地にいる腐れ外道どもの事は忘れるようにした。

 彼らの事を考えすぎると、スターリンやポルポトのような大虐殺を始めてしまうかもしれないので、自分の民に腐れ外道がいて、俺の与えた富を下劣な方法で独占しようとしている事に目を背けた。

 俺の仕事したくない病や逃げたい病が発症しないように、統治を任せている使い魔に法に従って捕まえて裁くように命じた。

 法を厳格に適用してしまうと、普通の人は息苦しく感じてしまうと言うが、守れないような厳しい法律など、この国にはない。

 自分の欲のために他人の者を盗むな、害するな、という法律しかない。
 それを守るのが息苦しいと言うのなら、それは他人を傷つけなければ生きていけない、持って生まれて邪悪な人間という事だ。

 などと考えそうになってしまったら、自ら恐竜を集めに砂漠地帯に行く。
 使い魔を創るだけでは心を安定させられなくなったら、可愛い生き物を愛でて心を安定させる。

 大人しい恐竜だけでは心が癒されない場合は、山羊や羊を愛でる。
 特に無条件に可愛いと思える子山羊や子羊を愛でる。

 困った事に、子山羊や子羊を愛でても癒されない自覚があった。
 自分の領地の民が、不自由な体に生まれついてしまった子供を迫害したという報告を受けてしまい、どうしようもない怒りの感情が渦巻いてしまっているのだ。

 何とか心を落ち着ける為に、子猫と子犬に癒しを求めた。
 子猫と子犬なら、俺のささくれ立った心を癒してくれるかもしれない。
 子猫と子犬でも無理なら、虐殺を始めてしまう前に、この地を離れた方がいい。
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