上 下
55 / 63
第一章

第55話:雪夜

しおりを挟む
 別に苦痛や熱い寒いが好きなわけではない。
 このんで痛い思いをしたり、暑い所や寒い所で暮らすのは嫌だ。
 安全で気候の穏やかな土地で暮らすのが一番いい。
 それが大前提なのだが、寒い中で食べる熱々の鍋料理は最高に美味しい。
 安全快適な境内から雪深い異世界の氏子村を見ていると、つい思ってしまう。
 家族で熱い鍋料理を囲んで和気藹々に食事がしたいと。

 だがそれを味わうためには、常春の境内では無理なのだ。
 異世界の氏子村で行って、寒さを感じながら食べなければ得られないのだ。
 いざ食べようと思っても、色々と問題が出て来てしまう。
 掘っ立て小屋の奴隷希望者達に混じって食べるのは、村の秩序を壊してしまうので、現地妻のライラの家で食べることになる。
 つまり長老や村長の家という事になる。

 まあ、長老と村長の家だから、他の家よりも頑丈で広い。
 女神や俺をもてなすのに何の問題もない。
 役持ちの氏子衆が集まって、お下がりを食べるのにも問題がない。
 そうなると俺達と村長家族だけで食べるというわけにはいかない。
 つまり大量の食材が必要になってしまうのだ。

「今日は鶏モツ鍋じゃ、醤油と砂糖と生姜を利かした、すき焼き風の鶏モツ鍋が食べたいのじゃ、直ぐに用意しろ」

 また石姫皇女が我儘を言い出した。
 俺は食が偏っていて、同じ物を3食365日食べ続けても平気な性分だ。
 だが石姫皇女は毎食毎日違う料理が食べたい性格だ。
 そんな石姫皇女は、長時間異世界にいる事は許してくれるが、食生活が貧しくなることは絶対に許してくれなくなった、率直に言って舌が肥えてしまったのだ。

 料理大会の間は面白がってくれていたが、出張料理人を派遣したり、食べ歩きをするようになってからは、日本で食事をしたがるのだ。
 その石姫皇女を異世界で食事をさせるために、多くの食材と調味料を異世界に持ち込むことになってしまった。

 だが日本の、いやこちらの世界の調味料を知らない氏子衆に、舌の肥えた石姫皇女を満足させる料理を作るのは難しい。
 結局俺が作ることになったのだが、俺が作れて石姫皇女を満足させられる料理など限られていて、その一つが鶏モツ鍋だった。

 そもそも素材が日本のブランド鶏に負けていない必要がある。
 廃鶏がとても美味しい食材であった上に、異世界の虫や草花を食べさせたことで、とても美味しい食材になっていた。
 朝引き廃鶏のモツの鮮度がよかった事も大きい。
 肝も砂肝も心臓も玉紐も、熱く美味く最高のご飯の友になる。

「唐揚げじゃ、ザンギではないぞ、二度揚げの生姜を利かした唐揚げじゃ。
 カレー粉の唐揚げは明日じゃ、今日から準備をしておくのじゃ」

 次の日に言われたのが廃鶏の唐揚げだった。
 今日急に言われたが、本当は二日前から下味をつけて準備している。
 心が読める石姫皇女は、そんな事は先刻承知している。
 石姫皇女が食べたいと言わなければ、順番で氏子衆に下げ渡されるのだ。
 今日の予定は、異世界豚のウィンナーと白菜と玉葱とシメジを使った、鶏ガラスープとトマト仕立のスープ鍋だったのだが……

「それもだ、それも食べるぞ、一緒に出すのじゃ」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

私が王女です

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:10,189pt お気に入り:123

思い付き短編集

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:121

なぜか俺だけモテない異世界転生記。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:48

世界中にダンジョンが出来た。何故か俺の部屋にも出来た。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:589pt お気に入り:364

ロリコンな俺の記憶

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:3,379pt お気に入り:16

予知系少女

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:6

悪徳令嬢はヤンデレ騎士と復讐する

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:241pt お気に入り:257

最愛の人がいるのでさようなら

恋愛 / 完結 24h.ポイント:60,868pt お気に入り:639

処理中です...