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6話

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 最初何を言われているのか分かりませんでした。
 全く頭が働きませんでした。
 ですが徐々に分かってきたのです。
 眼の前におられる神々しい方が、私の事を聖女だと考えておられます。
 しかもすきにさせてくださるというのです。

「私がしたいことをさせていただけるというのですか?
 精霊様が手助けしてくださるという事ですか?」

「ああ、そうだよ。
 何でもしたいことをさせてあげるよ。
 僕だけではなく、他の精霊達も手伝ってくれるよ。
 ああ、それと僕の事だけど、聖獣と呼んでくれるかな。
 精霊達はみんなそう呼んでくれているからね」

 本当なのでしょうか?
 本当ならうれしいのですが。
 でも、私の望みとはなんでしょうか?
 私は何がしたいのでしょうか?
 そんな事は考えたこともありませんでした。
 私はまだまだ至らないのですね。

「聖獣様、私は何をすればいいのでしょうか?
 恥ずかしながら、今までそんな事を考えた事がありませんでした。
 どうか指針を示してくださいませんか?
 お願いいたします」

「そんなに難しく考えなくていいよ。
 そうだねぇ、今まで聖女はこうあって欲しいと思ったことはないの?
 こんな風だったらいいのにと思ったことはないの?」

 私が今までにこうあって欲しいと思った事?
 あります!
 民が飢えることが悲しかったです。
 領民になかには飢える者が数多くいました。
 生きていくために、子供を奴隷として売る親もいました。
 仕事を求めて王都に行く者もいました。
 
 王都に行ったからといって、生きていけるわけではありません。
 王都の城外に貧民街に広がっています。
 領内から一旗揚げようと出て行った者も、奴隷として売られて行った者も、今も生きているかどうかわかりません。
 貴族や金持ちの娯楽のために殺しあう、剣闘士という職業まであるのです。
 自分の奴隷を出場させて、わざと負けさせて、賭けで儲ける悪質な商人や貴族までいるのです。

 理想というか、望みというかは別にして、そんな人を助けたいです。
 少なくとも生きていけるだけの食べるモノがあれば、彼らは奴隷に売られることも、故郷を捨てることもなかったはずです。
 聖獣様に圧倒的な力があるのなら、王家王国の力を恐れなくて済むのではないでしょうか?

「聖獣様。
 私は民が飢えないですむ世の中にしたいのです。
 この聖なる地域、聖域で食糧を作る事はできないでしょうか?
 聖域に飢えている人を迎え入れる事はできないでしょうか?
 それが私の望みです。
 聖獣様や精霊たちは本当に助けてくれるのですか?」
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