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2話

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 私の魔力は聖女の中でも強い方です。
 ですが私のいるペレ神殿と王宮は遠く離れています。
 昔は王宮と神殿は近くになったのですが、国が繁栄すると、王家は便利で発展の余地のある平地に王宮を移してしまったのです。
 この一時だけでも、王家が徐々にペレ神殿を軽視してきたのが分かります。

 私の強大な魔力をもってしても、この距離で王宮を焼き滅ぼす事はできません。
 まあ、そんな簡単に楽に殺そうとは思いません。
 徐々に長く恐怖と苦痛を与えるのが私の望みなのです。
 だから、魔力の効率が悪くても、軽いケガであっても、妹の報復をします。
 まだ誰が何のために報復したのか分からないように、軽いケガの方がいいのです。
 いえ、そもそも報復だと悟られないようにするのです。

「「「「「ギャアアアアア!」」」」」
「きゃあああああ!
 熱い!
 痛い!」

 ざまあみろです!
 清々します。
 舞踏会場にいた糞共、アンナを虐めた者や悪口を言った者が、火にまかれて逃げ回っています。
 会場の暖炉やロウソクの火が飛んで、テーブルクロスやカーテンに燃え移り、会場を火の海にしています。

 私が魔力で細工しなければ、絶対に起こりえない事です。
 守護神ペレ様の護りがある王宮では、他国の神や魔術師の魔法は、守護神様を遥かに上回る魔力でなければ発動しません。
 私の魔術が発動したのは、ペレ様の許可が得られたからです。
 
 まあ、あのていどの火事では、焼け死ぬ人間などいません。
 普通なら火傷を負うこともないでしょう。
 ですが私が魔術で狙い撃ちしたので、アフメット王太子とマウントガーレット公爵家令嬢ミレナは、顔が焼け爛れるほどの火傷を負いました。
 二人に加担した者達も、それぞれ顔に大きな火傷を負いました。

「きゃあああああ、痛い、痛い、痛い」
「医者だ、医者を呼べ!」
「どけ、邪魔だ!」
「侍医はどこにいる!
 早く侍医を呼ばないか、のろまが!」
「痛い、痛い、痛い」
「いやあああああ!
 私の顔が、私の顔が!」

 舞踏会場の混乱が、王宮中の混乱になっています。
 我先に逃げ出そうと、罵り合いや殴り合いになっています。
 これほど楽しいことはありません。
 胸がすくような思いです。
 もっともっと傷つけ混乱させてやります。

 ですが、私の存在と介入を疑われる訳にはいきません。
 何よりもアンナに疑念が向く事だけは、絶対にあってはいけません。
 誰かに疑いが向くように仕向けるべきでしょう。
 ここは二大公爵家の争いにした方がいいですね。
 プレストン公爵家令嬢のニサヌが、ミレナがアフメット王太子と仲良くしたのを嫉妬して、火をつけたという噂を広めましょう。
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