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第一章
第3話:ジプシー
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ある小さな都市の酒場で唄っていると、美しい女が入って来た。
あのあまりの美しさと胸の大きさに、吐き気をもよおしてしまい、唄を途中で止めてしまうという醜態を演じてしまった。
普通なら店主や客に罵声を浴びせかけられるところだが、酒場の全員が女の姿に魂を抜かれたようになっていて、誰も何も言わない。
私は救われたという気にはなれず、むしろ唄の邪魔をされたという思いが強く、怒りで剣を抜きそうになっていた。
「唄の邪魔をしてしまってごめんなさい、吟遊詩人さん。
邪魔ついでに少し時間をもらいますね。
お集りの皆さんにお知らせしたい事がございます。
私はこの都市に来させていただいた旅芸人の一座の娘でございます。
明日から中央の広場で娘達の踊りを披露させていただきます。
夜には別の楽しみもございますので、お誘いあわせの上、お集まりください」
娘は風のようにやって来て風のように去っていった。
今から唄を再開しても、誰も聞いてくれないし、ご祝儀ももらえない。
ここにいる全員が、明日のためにこれ以上金を使わないのは分かっている。
路銀が少なくなったから、少々危険を覚悟で都市に来たが、何の意味もなかった。
これならまだ寒村を回った方が農作物をもらえた分ましだ。
「なあ、さっきの娘が言ってた夜の楽しみって、やっぱり売春かな?!」
若い男が色めき立って隣の男に話しかけている。
ここにいる全員が、さっきの女を抱けることを夢見ているのだろう。
愚かな連中だ、あの女は単なる客寄せで、実際に相手をするの年老いた醜女。
だが今ここでそんな事を口にしても、喧嘩になるだけで何の得もない。
ここは黙って宿に戻り早く寝て、明日早朝に別の都市に移動しよう。
いや、さっきの娘達は都市を中心に移動しているはずだ。
あいつらの先回りをするか、寒村を廻った方がいいだろう。
「ちい、ジプシーの連中が!
吟遊詩人の旦那、旦那もあの女に稼ぎの邪魔をされたんだろ。
私も邪魔されちまって困っているんだよ、安くしとくから遊んでくれない?」
この居酒屋を根城にする、年老いた売春婦が迫って来た。
思わず罵り声をあげて斬り殺しそうになったが、必死で殺人衝動を抑える。
こんな売春婦を斬って警備隊に調べられるわけにはいかない。
この国の生末を見続けると決めたのだから。
「止めろ、俺は古風なのだ、これ以上近づくと殺すぞ!」
私は抑えることなく本気の殺気を売春婦に放った。
俺が男性を愛する昔ながらの人間だと分かったのだろう。
一瞬何か罵り声をあげかけて、俺の殺気に恐怖を感じたのか、全てを飲み込んで離れて行った。
この怒りに任せて都市を出て行きたかったが、夜道は危険すぎるので諦めた。
明日からの旅は一段と辛くなりそうだ。
あのあまりの美しさと胸の大きさに、吐き気をもよおしてしまい、唄を途中で止めてしまうという醜態を演じてしまった。
普通なら店主や客に罵声を浴びせかけられるところだが、酒場の全員が女の姿に魂を抜かれたようになっていて、誰も何も言わない。
私は救われたという気にはなれず、むしろ唄の邪魔をされたという思いが強く、怒りで剣を抜きそうになっていた。
「唄の邪魔をしてしまってごめんなさい、吟遊詩人さん。
邪魔ついでに少し時間をもらいますね。
お集りの皆さんにお知らせしたい事がございます。
私はこの都市に来させていただいた旅芸人の一座の娘でございます。
明日から中央の広場で娘達の踊りを披露させていただきます。
夜には別の楽しみもございますので、お誘いあわせの上、お集まりください」
娘は風のようにやって来て風のように去っていった。
今から唄を再開しても、誰も聞いてくれないし、ご祝儀ももらえない。
ここにいる全員が、明日のためにこれ以上金を使わないのは分かっている。
路銀が少なくなったから、少々危険を覚悟で都市に来たが、何の意味もなかった。
これならまだ寒村を回った方が農作物をもらえた分ましだ。
「なあ、さっきの娘が言ってた夜の楽しみって、やっぱり売春かな?!」
若い男が色めき立って隣の男に話しかけている。
ここにいる全員が、さっきの女を抱けることを夢見ているのだろう。
愚かな連中だ、あの女は単なる客寄せで、実際に相手をするの年老いた醜女。
だが今ここでそんな事を口にしても、喧嘩になるだけで何の得もない。
ここは黙って宿に戻り早く寝て、明日早朝に別の都市に移動しよう。
いや、さっきの娘達は都市を中心に移動しているはずだ。
あいつらの先回りをするか、寒村を廻った方がいいだろう。
「ちい、ジプシーの連中が!
吟遊詩人の旦那、旦那もあの女に稼ぎの邪魔をされたんだろ。
私も邪魔されちまって困っているんだよ、安くしとくから遊んでくれない?」
この居酒屋を根城にする、年老いた売春婦が迫って来た。
思わず罵り声をあげて斬り殺しそうになったが、必死で殺人衝動を抑える。
こんな売春婦を斬って警備隊に調べられるわけにはいかない。
この国の生末を見続けると決めたのだから。
「止めろ、俺は古風なのだ、これ以上近づくと殺すぞ!」
私は抑えることなく本気の殺気を売春婦に放った。
俺が男性を愛する昔ながらの人間だと分かったのだろう。
一瞬何か罵り声をあげかけて、俺の殺気に恐怖を感じたのか、全てを飲み込んで離れて行った。
この怒りに任せて都市を出て行きたかったが、夜道は危険すぎるので諦めた。
明日からの旅は一段と辛くなりそうだ。
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