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第一章

第1話結婚披露宴

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 王宮で一番由緒正しい豪華な広間が貴族で一杯です。
 ほとんどの貴族が、王太子殿下と私を祝福しに来てくれています。
 王太子殿下には、多くの正妃候補者がおられましたが、幸運にも、いえ、私が聖女と認定された事で、順当に正妃に選ばれました。
 幼い頃から厳しい修行に励んだかいがありました。

 特に正妃になりたかったわけではありませんが、聖女の私が正妃に選ばれることで、多くの人を助けてあげられると思うのです。
 そうであればこそ、人柄的には尊敬できない方ではありますが、王太子殿下の正妃になる事を承諾させていただいたのです。
 上から目線で申し訳ない事ですが、成人前から醜聞が多く、多くの貴族令嬢を泣かせてきた王太子殿下の事は、愛する事も尊敬する事もできません。

「おめでとうございます、カリーヌ嬢」

「これはヴァレンティア辺境伯ユーセフ卿」

 ヴァレンティア辺境伯ユーセフ卿は、マライーニ王国の西方を護る重鎮です。
 辺境伯の爵位は、我が国に襲いかかる魔獣や敵国との戦いで与えられたモノです。
 国防の軍資金を与えられない国王陛下が、自給自足で魔獣や敵国と戦えと無茶振りされ、その代わりに大将軍と同等の軍権と辺境に統治権を与えられたのです。

 まだ十分若々しい三十五歳の年齢で、王国無双の長剣と方天戟の使い手とお聞きしていましたが、今こうして直接御話しさせていただくと、猛々しい経歴の持ち主とは思えない、穏やかな雰囲気の方です。
 その穏やかな雰囲気と、一九五センチの長身に骨太の身体、隆々たる筋肉の鎧を備えられ、軽くウェーブした山吹色の髪と金色の瞳、菜の花色の肌に低く心地よく耳朶をうつ声、宮廷の女官達が騒ぐはずです。

「大変難しいお立場になるとは思いますが、王家王国のため、耐えられてください」

「お気遣いいただき、ありがとうございます。
 民の暮らしを少しでもよくするために、精一杯務めさせていただきます」

 私の言葉を聞いて、ヴァレンティア辺境伯ユーセフ卿は満面の笑みを浮かべてくださいましたが、噂通り仁愛の騎士なのでしょう。
 単に敵を斃し武勇だけを誇る戦士なのではなく、民を護り慈しむ騎士なのですね。
 このような方に治められる領地の民は幸せです。
 そういう意味では、私はまだまだ未熟者で、もっと努力しなければいけません。

 父上が領主を務めるエリルスワン公爵領は、暮らしやすい領地ではないのです。
 父上と姉上の遊興のために、領民に重税を課しているのです。
 聖女に選ばれて以来、その立場を利用して繰り返し諫言し、少しずつ暮らしやすい領地に変える努力はしていますが、まだまだなのです。

「国王陛下、王妃殿下、王太子殿下ご入場!」
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