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1話

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「誰だ?
 私を殺しにきたのか?
 だが私を殺せばこの国が亡ぶぞ。
 その覚悟があっての事か?」

「いえ、単なる泥棒です」

「泥棒?
 見え透いた嘘をついても無駄だ。
 ここには盗む価値のあるモノなど何一つない。
 そうか、分かったぞ。
 逃げようとした私を墜落死させる心算だな。
 墜落死させて笑い者にする心算であろう。
 そのような罠には引っかからないぞ」

 参りました。
 物凄く疑い深くなっています。
 弟と家臣に陥れられ、無実の罪で王太子座を奪われ、こんな塔に幽閉されているのですから、人間不信になるのも仕方ありません。
 ありませんが、これでは助け出せません。
 ここはおだてる事から始めましょう。

「イェルク様、ここには何物にも代えがたい宝物があります」

「なに?!
 そんなはずはない!
 私はここに一年も幽閉されているのだ。
 そのような宝物があれば、いくら何でも見つけている」

「それはそうでしょう。
 見つけようと思えば鏡が必要です。
 とても大切な宝物は、イェルク様ご自身なのですから。
 ご自身の事はよく分からないモノですよ」

「ば、ば、馬鹿を言え!
 私の事をそんなに大切に思う者がいるなら、このようなザマにはなっていない。
 私の大切さを知っているのは、私だけだ。
 誰も私の事を分かっていないのだ……」

「そんな事はありませんよ。
 イェルク様を大切に思っている方は間違いなくいます。
 だからこそ、私に救出依頼が来たのです。
 本当に心当たりはないのですか?
 本当に誰ひとり、イェルク様を助けようとする者は、タダの一人もいないと思っているのですか?」

「……信頼していた家臣に裏切られたのだ。
 血の繋がった弟に陥れられたのだ。
 私は単に長男だから王太子に選ばれたのではないのだ。
 この国を魔から守護する日嗣の王子として、神託で選ばれたのだ。
 その私を裏切り陥れたのだぞ。
 重臣達がよってたかって、国王陛下たる父上を、薬で生きた屍にしたのだぞ。
 こんなザマで誰を信じろというのだ!」

 血を吐くような魂の叫びです。
 そのような裏事情があったなんて、全く知りませんでした。
 私はアロン大公国の出身で、生まれてから今まで、ずっとアロン大公国で暮らしてきました。
 隣国とはいえ、オーラン王国の事は全く知りませんでした。
 捨てられず、実家で育てられてれば、周辺国の事情も勉強していたのでしょうが。
 おっと、自分の過去を振り返っている場合ではないですね。

「イェルク様。
 私はイェルク様を今も愛し慕っている方から、助けてくれと頼まれたのですよ。
 ここまで言っても心当たりがありませんか?」

「まさか!
 いくらなんでも、そんな……
 あれは政略による婚約で……
 だが、本当に、私の事を愛してくれていたのか?
 まさかとは思うが、ユリア姫なのか?
 アロン大公家のユリア姫が私を助けようとしてくれているのか?」
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