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第一章

第1話:母娘喧嘩

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「嫌よ、絶対に嫌、あんな臆病者と結婚なんて絶対に嫌よ」

 聖女神殿でも最も力が強く、神殿二千年の歴史でも過去四人しか名乗ることを許されなかった、真聖女の名を受け継いだマーガレットが烈火のごとく怒り、その怒りを全く抑えることなく神殿の長に叩きつけていた。

「駄目よ、そんな我儘は許されないわ。
 貴女はもう王太子と婚約しているの、今更婚約を解消なんてできなわ」

 聖女神殿の長、大聖女の称号を受け継いだ女傑は、真聖女の怒りなどに譲歩する事はなく、神殿と王家の約束を履行するように言いきる。
 そう、真聖女は聖女神殿があるレイノルド王国の王太子と婚約しており、神殿の力をもってしても、そう簡単に約束を破る事はできない。

「お母さんが勝手に決めた事に、私が従う義理なんかないわよ。
 そんなに王家と政略結婚が必要なら、お母さんが国王でも王太子でも、好きな相手と結婚すればいいでしょ!」

 真聖女マーガレットは、大聖女の言い分など全く聞く耳を持っていない。
 マーガレットからすれば、もう十二分に聖女として働いていて、これ以上王家に奉仕する必要などない、というのが言い分だ。
 確かにその通りで、マーガレットがいなければ、王国が毎年大豊作になる事もなければ、魔獣を防ぐこともできない。
 他の聖女達がいるから、凶作や不作になることはないし、魔獣の大暴走も起こらないが、ここまで完璧に防げはしないのだ。

「私があんな腰抜けや軟弱者と結婚するわけないだろ!」

 身も蓋もない事を、母親である大聖女ビクトリアが口にした。
 自分が結婚したくないような相手と、娘を無理矢理結婚させようとするのだから、ビクトリアもいい性格をしていた。
 だが彼女にも言い分はある。
 神殿の長として、王家と敵対するわけにはいかないのだ。
 王家が結婚を望んだのは真聖女であって大聖女ではない。
 だがそんな事で納得するマーガレットではない。

「自分が嫌うような相手と実の娘を結婚させる母親がどこにいる」

「ここにいるじゃないか、それにこれは母親として言ったんじゃない。
 神殿の長、大聖女として真聖女に命令しているんだ。
 逆らう事は絶対に許さないからね!」

「だったら神殿を出て行けばいいんだろ。
 ああ、出て行ってやるよ、辞めてやるよ。
 私だって好きで真聖女をやっていたわけじゃないんだ。
 あんたが母親で大聖女だから、仕方なくやってやっていたんだからな」

「なに生意気な口きいているんだ。
 小娘が一人で世の中に出て生きていけると思っているのか?
 神殿の加護も国の保護もなく、小娘が無事で生きていけるほど今の余の中は平和じゃないんだよ、分かっているのか?!」

「へん、私の力があれば、神殿の加護も国の保護もいらないね。
 今直ぐ出て行ってやるから、私の代わりにあんたが腰抜けと結婚しな!」
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