上 下
11 / 21

第10話追放5日目

しおりを挟む
「ここはどこなのだ?
 これが我が国の状態なのか?
 余はこれに気がつかず、民を苦しめていたのか?!」

 血を吐くような悔恨の言葉だった。
 重臣達はその言葉に深く心を痛めていた。
 いや、自責の念で死にたいほどだった。
 だが死ぬわけにはいかなかった。
 息子達がしでかした悪事の後始末をつけなければ、死ぬに死ねなかった。

 遠見の鏡に映るのは、死屍累々たる村の惨状だった。
 オリビアが急ぎ駆けつけた村には、誰一人生存者がいなかった。
 間に合わなかったのだ。
 オリビアがなにかつぶやいているのが鏡に映る。
 だが声までは伝わってこない。
 今日も息子達、学園生徒会役員の魔力を使って遠見の鏡を稼働させているが、その映像は不鮮明で声は一切伝わってこない。

 オリビアは翔けるような速さで近隣の村々を訪れていた。
 だが生き残っている人間は一人もいなかった。
 途中からオリビアが涙を流しているのが分かった。
 これまで伝わってきた事実から、オリビアが肝が太く気丈で有能なのは間違いな。
 その胆力の塊のようなオリビアが、涙を流すような惨状なのだ。
 臭いも音も伝わらない遠見の鏡では、感じる事のできない、耐えきれないモノがあるのを感じ、重臣達は恥じ入るばかりだった。

 特に恥じ入り死にたい気持ちになっていたのは、右大臣を務めるタートン公爵ジャック卿だった。
 遠見の鏡が幾つもの滅んだ村を映しているのを見て、それが息子レオに台所領として預けた村だと気がついたからだ。

「レオ!
 ここに映し出されている村々は、私がお前に預けた村だな!
 なぜこのような事をした!
 このような残虐非道な真似をした理由を言え!」

「ふん!
 愚かな!
 よくそれで右大臣を務めているな!
 全ては聖女様のためよ!
 神のお言葉を伝える聖女様が、罪深き民に贖罪の機会をお与えになったのだ。
 だが卑しき民共は、その機会を生かさず、作物を隠匿しようとした。
 だから聖なる役目を務める神官たちと一緒に、贖罪を手伝ってやったのだ。
 愚かな父タートン公爵。
 早々に私に右大臣の役目を引き渡し、神のご意思に従うのだ!」

 タートン公爵は激怒した。
 堪忍袋の緒が切れた。
 本来なら、太陽神殿を追い込むための証人として、レオは生かしておかなければいけなかった。
 だが怒りのあまり、論も証拠も後回しでいいと考えてしまった。

 レオは遠見の鏡を映すために魔力を限界まで絞り出していた。
 一方タートン公爵は、攻撃魔法に特化していないものの、公爵家当主に相応しい魔力を持っていた。
 その魔力を全開にして、レオの頭を握り潰した。
 周りに脳漿と肉片が飛び散るのも構わず、怒りのあまりレオを殺した、はずだったのだが……
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

妖精のいたずら

恋愛 / 完結 24h.ポイント:420pt お気に入り:392

二番煎じな俺を殴りたいんだが、手を貸してくれ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

悪竜の騎士とゴーレム姫【第12部まで公開】

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:262

アンバー・カレッジ奇譚

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

ある工作員の些細な失敗

大衆娯楽 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

【短編集】初恋は眠れない

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:22

さよならイクサ

現代文学 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

祭囃子と森の動物たち

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

処理中です...